もうすぐ学園
やっと魔法の実技が始まる。いままでも魔法の座学はやっていた、主に魔方陣の作成だ。この世界には想像力と呪文で成す魔法と魔方陣に魔力を流す魔術がある。魔方陣はいわば設計図だ、たとえば土魔法で壁を作るとする。魔法でもできるが、微妙にがたつくそうだ。きちんとした家を作る時などはかならず魔方陣を使う、そうだよな、1ミリ単位で家を想像できるか、俺は10センチ単位でも無理だ、想像力はアバウトだよな。
それから、今までは普通のインクで魔方陣を描いていた。へたに魔力インクを使って、うっかり魔力を流されたら事故る、それに魔力インクは金がかかると言われた。後半が本音だよな、ごもっともとうなずいてはおいたが。
呪文はチュウニ病ではなかった。あの初級魔法の本は初心者のイメージ固定の為の文言だったらしい。
大人はキーワードを唱えて術を行使するらしい。あんな長々しい呪文を唱えてどうするんだと笑われた。
俺の黒歴史が一つ出来た、葬ってしまえ。
叔父上とサリバン先生に連れられて、練習場に来た。さすがの侯爵家、なんでもありだな。
叔父上に忙しくないのですかと聞いたら、俺の先生たち、うん、暇な時間のほうが多いよな、俺は一人しかいないし、に仕事を仕込んだので時間ができたと。それに学園に入るまでに2年しかないので詰め込まないとまにあわんと言われた、そうか才能がないのか俺は。ちょっとがっかりした。
まずは水魔法だ、指を一本立てウオーターボールと唱えつつ指先から魔力が出て野球ボールぐらいの水球になるのを想像する。やった、できたぞ、指の上に浮かんでいる水球をしみじみと眺めて感無量となる。異世界転生をして早13年、初めての魔法だ、いゃふー。
「わふん」マッキーに吼えられてびくんとした、あっ、水球が大きくなっていく、直径が1メートルいや2メートルか、あっ、はじけた。俺はびしょぬれになった。2人共、笑いを堪えているけどニヤニヤ顔が隠せてないぞ。ちぇ。
最後に火魔法を使わせてもらった。まずはろうそくの火、基本だよな。
またしてもマッキーに吼えられた、おい、何の恨みがあるんだ、おもしろがっているな。
ろうそくの火がたちまち大きくなって焚き火の火ぐらいになった、あぶねえ!
「消えろ!!」思わず叫んでしまった、消えてよかったぜ。
叔父上が怖いことを言い出した。指から離れた魔法は出した魔術師にも影響するんだと。つまり自分で出した火に焼かれることもあると、そんな間抜けな未来はいやだ。
もう一度指先に火をだしてみる、反対の手の指でつついてみると、俺の指を避けるではないか、おもしろい。遊んでいると怒られた、ついでに無意識に自分に影響がないように魔力を扱うので、そう心配するなと言われた、よかった。
この後、叔父上につききりで魔法を教えてもらった。どこかの草原に行って大きな魔法も使わせてもらった。いまはほとんど魔法の授業ばかりだ、楽しい。
あと半年で学園に入るという時に2人に聞かれた、どうしたいと。
どういう意味だろう。
「つまりだな、魔術師長になりたいのか、無敵の魔術師になりたいのか、それとも領地でのんびり暮らしたいのか、フェルが決めろ、それなりに教えてやる。」
「なんでそんなことを」
サリバン先生がげらげら笑っている。
「こいつはなー、兄がいるし、王宮の貴族生活はいやだとかなり力を抑えて学園生活をおくったんだ。
無事、領地で代官になれた、忙しすぎるのは予定外だっただろうけどな」
「ここで可愛いお嫁さんを迎えて、のんびりと暮らしたいです、ついでに2人はもともとの知り合い?」
「あぁ、サリバンは私の後輩だ。
フェルの希望を通すには兄達が問題になるな、言ってはいなかったが兄達はアーネストを溺愛している。
もし弟より出来が悪いとなると家督相続に文句を付けられそうだ。
かといって成績が良すぎると宮廷魔術師に誘われる。言っておくがへたに断ると不穏分子とみられ最悪、反逆罪を疑われる。」
「こんなに純粋な子供をつかまえてひどいです。
ついでにアーネストは私より魔力が多いのでは。」
「なに冗談を言っているんだ、フェルの魔力は異常に多いぞ、そこでのん気に寝そべっている魔獣のせいではないかと睨んでいる。魔獣と契約すると影響を受けて大抵魔力が上がるものだ。」
要約すると、弟に宮廷魔術師を押し付けて、俺は次期領主として代官職を狙えということだな。
どうしたもんかな~、綱渡りの気分だぜ。
「剣術科に所属するのはいかがでしょうか。」
「何を言っているんだ、サリバン」
「まず座学で満点をとりましょう。」
「恐ろしいこと言わないでください、サリバン先生。
何科目あるか知りませんが、満点はトップを取るより難しいですよね。」
「私の授業を受けて、満点を取れないとでも」
そんな顔して笑わないでくれないかな、先生、怖いです。
「こいつは満点を取って学園を卒業した英才だフェル、あきらめろ。」
「それでもコネがなくて、宮廷では下っ端に毛が生えた位の地位でしたがね。」
そっかー、それで俺のところに来たんだな、納得、納得、って微笑まないでください先生、怖いです。
「それでどうするんだ、サリバン」
「魔術より剣が好きな脳筋としてふるまって下さい。ここで魔術もできるけれど、というところが大事なのです。座学が満点、騎士として腕も立つ、魔術もやればできる。なかなか次期領主の座を降ろし難いではないですか。ついでに騎士団に3年ほど居れば味方もできます。騎士団と魔術師団は仲が悪いですからね。」
そんな完璧だなと言わんばかりのどや顔は止めていただきたい。座学も剣術もやるのは俺なんですけれど。
「私はそれ程領主になりたいわけではありませんので、領地の一部でも分けてもらって静かに暮らしても」
「ばかやろう、甘すぎだ!兄達はアーネストにお前の悪口を山のように吹き込んでいる。それを信じたアーネストが何をするか、領主になりたいあいつにとって、お前は敵だ、目の上のたんこぶを領主になったあいつがどう扱うか、その頃にはお前は唯の領民で領民は領主の言うことに逆らえない。」
血の気が下がる思いがした。ここは現実だ、たとえ乙女ゲームだとしても封建制度のもとにあり、領民は許可がなければ村を移動することさえままならない。ファンタジーの世界だと思ってふわふわと生きてきたがこのままではだめだ、どうしよう。
「バルド、脅かしすぎです、真っ青になっているじゃないですか。普通はそうそう酷いことはしないものですが、でも、あるといえばあるような。」
先生なぐさめるのか脅すのかどちらかにしてくれ。
「大丈夫だ、明日から呪いの魔術の防ぎ方、目上の人間の無茶ぶりのかわし方、他人を陥れる実例、これはサリバンが詳しいな、実践的な知識を教えてやる。、まだ子供なんだから初心者向けの簡単なやつだ。
それに最後は大魔術で弟を吹き飛ばせばすべて解決する。がんばろうな。」
「はぁ、そうですか。」
ぜんぜん大丈夫ではないです、子供向けのえげつない知識ってなんだろう。大人向けは聞くのも怖い気がする、魂が抜け出しそうです、叔父上。
そして始まる教育の日々、がんばりましたとも、それはもうがんばりましたとも、俺はまだ死にたくない!