第四十二話:幸福度上昇中
不思議なビーズを手にした私は半信半疑でそれを一日一粒ずつテグスに通していった。特に不幸な生活を送っている訳ではないけれど、きっと損をする事はないと思った。
この頃、私には中学三年生、受験生の従兄が居た。川越勇一、将来は医者になって怪我や病に苦しむ人々を救いたいと語る、本当の意味で『医者』になりたい学生だった。
ちょうど私の家に来ていた彼に、少しでも夢に近付ければとそのビーズ細工のセットを一つ渡し、一日一粒ずつテグスに通すように伝えた。
「これ、何かのおまじない?」
「そう、勇一君がお医者さんになれるように」
「へぇ、ありがとう。早速今日からやってみるよ」
私は彼が喜んでくれて嬉しかった。このビーズに効果があるかは定かではないけれど、これでもっと受験勉強を頑張ってくれれば本当に夢を叶えられるかもと少し期待している自分が居た。
二月、私の元に吉報が届いた。それは勇一君が私の家に遊びに来た時だった。
「ありがとう。さやかちゃんのお陰だよ」
「ううん、きっとあのビーズのお陰だよ」
なんと、努力が報われたのか、彼は合格圏内とは程遠い高校に一般入試で合格した。これで彼は夢へ一歩近付いた。
四月、勇一君は高校に通い始め、そこで出会ったある女性に恋をした。
…のだと思う。私の家に遊びに来るなりリビングのソファーに置いてある座布団にニヤニヤしながら抱き着きウンウン言いながら左右に小刻みに転がっていた。
「勇一君、大丈夫?」
「大丈夫だよ。けどなんだかむず痒いんだ。胸やけしたのかな?こんな事今までなかったから自分でも何だか解んないよ」
勇一君はニコニコしながら嬉しそう、いいえ、どちらかと言えば楽しそうに病状を訴えた。
「その病気、きっとお医者さんでも治せないよ?」
「大丈夫だよ〜ぉ、胸やけなら胃腸薬で治るから〜」
言いながらもその後、日に日に胸やけは更に激しくなったらしいけれど勇一君が胃腸薬を服用する事はなかった。
そんな勇一君には後日、更なる幸福が訪れたのだけれど、その辺りから彼等の運命が大きく変わって行くのだった。