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いちにちひとつぶ  作者: おじぃ
最終章

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第四十三話:人生大逆転

 僕は医者を目指す高校一年生、川越勇一(かわごえゆういち)。僕が通う高校は全国平均から見てもかなりの難関校で、中学校の成績が5段階評価でほぼオール3だった僕にとって、入学出来たのは、合格するために必死で努力はした賜物(たまもの)だろう。もしかしたら従妹のさやかちゃんから貰ったお守りのビーズのお陰だったりするのかもしれない。


 その年の桜がすっかり緑になって陽射しを遮るようになった初夏、僕の心に遅い『春』が訪れた。どういう訳か、同じクラスの仙石原絵里(せんごくはらえり)が気になって仕方ないのだ。これが恋っていうのだろうか。彼女は学問に関して言えばあまり()けていないようだが、長い黒髪と眉を少し下げて微笑む姿を見ると、胸やけを起こしてしまうのだ。例えそれが自分に向けられた笑みでなくとも。


 それから1ヶ月程経った6月の昼間、雨がしとしと降り注ぐ校庭を教室の隅、前からも後ろからも3番目に配置された自分の机から見下ろし、この後、別の教室で行われる進学補講までの時間潰しに、ただ一人ぼ~っとしていた。こんなに呑気でいられるなんて、まるで夢のようだ。高校合格前までの僕はと言えば、学校の学習について行けず、このままでは医者になる夢が叶えられないと焦るばかりの日々であったが、それからというものの、難関校に合格したという自信からか積極的に勉学に励むようになり、先日行われた中間考査の成績もトップとまではいかなかったが納得出来る結果であった。これならもしかしたら本当に医者になれるかもと気持ちが浮かれ始めていた。さやかちゃんから貰ったビーズのように、御利益(ごりやく)だとか科学的根拠のないものは少し疑うタイプの僕だけれど、それが本当に効力を発揮しているのかもしれないと少し信じられた。


 ◇◇◇


 進学補講を受講した後、自分の教室に戻り少し居残って勉強をしようと守衛室を訪ね教室の鍵を警備員から受け取った。教室に戻り窓の外を見ても、いつものように茜色の空と富士山を眺められなかったのを少し残念に思った。


 雨の日の誰も居ない夕方の教室の空気は昼間とは違った寂しさがあり気分が重くなり、身体の動きさえ制限されている様だ。実際に雨の日は必ずと言って良いほど左足の(ひざ)(すね)がずきずきと痛む。それが雨の日を憂鬱に感じる理由の一つでもある。


 雨が降らないと僕らの生活が成り立たないのは解っている。オーストラリア、ケアンズの民家にはほぼ必ずどこかに(かえる)の写真が貼ってあると昨年オーストラリアへの研修旅行に参加した先輩から聞いた事がある。そこに住む彼等は雨の日が大好きだと嬉しそうに言うらしい。僕が雨を嫌うのは、水に恵まれているからだ。日本の関東地方の様に適度に雨が降ると言うのは幸せな事なのだ。


 僕は勉強中でもついついそんな事を考えてしまう。そこに誰か話し相手が居たならば平然とそれを口にする。大概の人はそれを聞き流すから結局のところ自己満足。中学まで成績が悪かった上、クラスで少し浮いた存在であった原因はそんな所にあるのだろうか。今となっては『浮く』事は無くなったのだが。


 ◇◇◇


 紙パックのピクニックコーヒーを傍らに勉強を始めてどれくらい経つだろうと左手に嵌めた時計を見ると18時15分。始めてから45分が経過していた。最終下校の19時まで残り45分。ちょうど半分、これから後半だ。ストローで舌を潤す程度にコーヒーを吸い上げ、甘みと微妙な苦味が口に広がった時、ガラガラガラ、ガチャンッ、と、リニアエンジン式の教室の扉が開く音がした。店舗の半自動ドアと同様に縦にパネルをタッチしてドアを開閉出来る仕組みだ。


「やっぱり居たね」


 なんと教室に入ってきたのは仙石原絵里。まずい、心拍数が上昇して胸やけがしてきた。勉強に集中出来ない。でもこれは嬉しい妨害と言うべきか? 何しろ気になる相手と二人きりなのだから。


「うん、やっぱり居たよ」


 我ながら間の抜けた返事だ。


 僕が教室で下校時間まで一人で勉強しているのはクラス内では有名だ。進学補講を受講する生徒は予備校に通う者が多い。きっと予備校でも補講と同じような内容を学習させられるのだろうに。だから教室に残って復習の他に、時には図書室から専門書を借りて幅広い分野を勉強しようだなんて考えるのは僕くらいだ。家に帰るとテレビに目移りするし、ここのほうが静かで集中出来る。


「凄いなぁ、川越君は。沢山勉強してるから成績いいんだよね? 私なんか勉強しようとすると頭が重くなっちゃって」


「僕もそうだった。でも親戚の女の子のお陰で医者になるって目標に近付けそうな気がしてきたんだ。だから頑張れる」


「親戚の女の子?」


 僕は彼女にあのビーズの話をした。そして彼女にも幸せが訪れるように、さやかちゃんに頼んでビーズのセットを幾つか分けてあげようと思った。


 ◇◇◇


 家に帰ってから電話でさやかちゃんにその旨を伝えると幸せになれる人が増えるならと快諾してくれた。


 それから二日後の夕方、二人きりの教室で仙石原さんに沢山あるそのビーズのセットのうち、10セットを渡した。


「ありがとう。あのさ、川越君?」


「ん? 何?」


「あの…。もし良かったら、私と付き合わない? 川越君のひたむきな姿を見ていると、私も頑張らなきゃって張り切れるの。川越君と同じ中学だった人に聞いたんだけど、こんな事言ってごめんね。当時はあんまり成績良くなかったんだよね?」


 はぁ~。


 口が開いたまま塞がらない。あの仙石原さんが僕と付き合いたい? これは夢か? 勉強に疲れて居眠りしてるのか?


「うん、まぁね。5段階評価でオール3だったよ」


「でも今はトップクラスだもんね。凄いなぁ」


 あぁ…。


 なんだこれは…。


 もしかしてあのビーズのお陰?


「ありがとう。僕も仙石原さんと、その、付き合いたいって思ってたんだ」


 すると仙石原さんは僕を虜にしたあの優しい微笑みを見せてくれた。


「そっか、じゃあよろしくね」


「うん、こちらこそ、よろしく」


 あのビーズがあれば全てが上手く行く。残りはどのくらいだろう? 少なくとも1つ100グラムのケースが20個は残っていた筈。これで僕は間違いなく医者になれる。何もかも思い通りだ。


 そうだなぁ、医者になるのはまだ先の話。じゃあ先ず何をしようか。


 そうだ、せっかく意中の女性(ひと)と恋愛関係を結ぶ事が出来たんだ。僕だって男だ。欲求不満になる事くらいある。僕が好きな時に彼女にそれを満たしてもらえばいいんだ。


 もう全てが僕の思うまま。あのビーズさえあれば、望めばなんでも手に入るんだ。持ち主の不幸や不満を吸い取って幸せに変換するビーズなんだから。


 オール3の人生、大逆転だ。



 2012年、改訂しました。

 

 ここからは小説と関係ない話です。


 花粉の季節が到来しました。花粉症の対策にはマスクや眼を洗浄するなどありますが、ブルーベリーやヨーグルトも良いらしいですよ。私はブルーベリーを圧縮した健康食品を愛用しているのですが、それが効いているのか、今年はまだ花粉症の自覚症状がありません。


 今まで花粉症とは無縁の方も、環境悪化などで突然かかるかも知れないので注意してみてはいかがでしょう?


 それでは(・o・)ノ

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