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いちにちひとつぶ  作者: おじぃ
やや平和な日常編
37/52

第三十七話:手紙と煩悩と初日の出

 俺は未砂記から封筒入りの年賀状を渡された。年賀状という表現は合っているだろうか。早速ハート形のシールで施された封を解き、中の手紙を読む。


「う〜ぅ、なんか緊張するなぁ、手紙って」


 頬を赤らめながら、内股で両手を擦り合わせる未砂記。きっと一生懸命書いたんだなぁ。


「じゃあ読まないでおこうか?」


「ううん、読んで」


 すると未砂記の頬は更に少し赤くなった。


「うん、分かった」


 俺の右隣に座る未砂記の目線が不安定だ。俺までおどおどしていても仕方ないので、少し遠慮がちな仕草で読んでみる。


 ◇◇◇


 優成へ 


 あけましておめでとう!! 今年もよろしくね。一緒に住んでいて年賀状を書くのもおかしいので、特別に手紙を贈ります。


 そもそも、いま私たちが一緒に暮らしているのは、優成にとってとても辛い事があったからだよね。私から見れば、こんな表現は良くないかも知れないけど、男の子の優成にとって、実の父親が尊敬できない事は、きっと辛くて、切なくて、悲しくて、どうしたらいいのか分からなくなっちゃうのかな? だから、酷い生活を強いられた事だけじゃないから、余計に苦しいんだよね。


 私との生活はどうかな? 少しはキミを幸せに出来たかな? そうであれば、私はキミを好きになってよかった。ずっと好きでよかった。


 優成と同じ屋根の下で過ごすのは、冬休みが終わる前の日までだね。学校でも会えるし、家も住所が似通うほど近いけど、やっぱりさびしいよ。でも、二人で過ごしたこの日々のこと、絶対に忘れないでね。絶対だよ?


 では、これからも引き続きよろしくね!!


 ◇◇◇


 表向きは元気に振る舞うけれど、実は淋しがり屋の末砂記らしい文章だ。


 それにしてもやっべぇ、超嬉しい。ドキムネムネ(胸ドキドキ)…。


「読み終わった?」


「あぁ、でさ、俺、未砂記に年賀状送っちゃった。同じ家に住んでるのに郵便で」


 そう言うと、未砂記が優成らしいなと言わんばかりにフフッと微笑した。俺は未砂記の決して馬鹿笑いしないこの表情が結構好きだ。


「ふ〜ん! そっか! 可愛い優成ぃ」


 そう言われて頬が少し赤くなったのが自分で分かった。


「だ、だって、ねぇ?」


 俺は未砂記に何かに対して同意を求めた。その何かが、親しい間柄だからとか、それ以外の脳裏にモヤッとしか浮かばない何かなのかハッキリしない。


「優成目線がハッキリしなぁい、カァワイィ!」


 未砂記はウィンクして俺の目線を追い掛けてきた。更にやっべぇ、もう我慢出来ねぇ、犬だ、今の俺、犬だ。


 気が付くと俺は未砂記を押し倒していた。あぁ、駄目だ、俺、駄目だ。なんか舞い上がってる。息が荒い。


「初日の出見に行くまで起きてられる?」


 未砂記は押し倒されたのに特に驚く様子もなく俺に問い掛けた。


「へぇ? はぁ、うん」


「じゃあ、いいよ」


 それからは無我夢中で良く覚えていない。でも、俺が未砂記に被さってから直ぐに彼女は痛みに耐え兼ね泣き叫んだのは覚えている。クリスマスの夜とは違う、ただ痛みに耐えただけの涙。それで俺は更に加速した。







 最低だ。俺、何してんだ…。






 馬鹿だ、俺、本当に畜生同然だ。ただ自分の欲求を満たすためだけに、その欲求の受け皿に未砂記を利用したんだ。それを未砂記は悲痛に泣き叫びながら、俺の汚い欲求という悪魔を必死に受け入れ解消してくれた。


 なんなんだよ俺、未砂記に散々救ってもらって、本当に幸せにしてもらって、今度は俺が幸せにするって約束したのに、それを、それをこんな一時の欲求のために…。


「寝ちゃ、ダメだよ?」


 俺がだらし無く剥がした服を纏い、無惨な姿で、声を掠らせ、こんな俺と初日の出を見に行こうという意志を変えないでいる。


 どう返せば良いのか分からない。言葉が見付からない。


 少し黙り込み、ようやく俺は一つの言葉を見付けた。


「俺、一方的にこんな事して、未砂記のこと本当に幸せに出来るのかな?」


 すると未砂記は急に柔らかい表情になり俺に微笑んだ。


「馬鹿だなぁ、私が魅力的過ぎるのがいけないんだよ。優成は何も悪くない」


 そんな冗談で俺を許してくれた。この寛大さは見習うべき所だ。


「ごめん、本当に、もう絶対しないから」


「え〜ぇ、襲われないなんて女としてやだ」


「じゃあ、適度に」


「そろそろ行こう?」


 辺りは少し明るくなっていた。初日の出を見るべく俺達は(なぎさ)へ向かった。


「寒っ!」


 外は寒い、砂浜はもっと寒い。それなのにサーファーたちは波乗りをしていた。そして六時五十二分、大勢の人が集まった湘南の海に、三浦半島の双子山(ふたごやま)辺りの影から丸い、オレンジの光が昇った。


「今年も良い年になりますように」


 未砂記はその光に向けて祈った。


 俺も心の中で祈った。


 この幸せが、ずっと続きますように。

ビーズの意味、何もなければ近日公開ですo(><)o




↓プレスリリース↓


この「いちにちひとつぶ」に代わる新作の第2部分を現在執筆中です。この作品が終了するかしないか辺りで公開する予定ですので、良かったら読んでみて下さいませm(_ _)m


更に、「いきものがたり」に代わるホットストーリー小説も現在構想中です。

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