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リペレイター  作者: 宿明朱里
第二部
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十九章 マルコスの頼み事⑥

読んでいただきありがとうございます!

プロットを書いて大幅に再構築する予定があるので、なんか面白いなと思ってもらえましたら、記憶の片隅に留めてもらえると狂喜乱舞します!!

「ヨリノブさん。何故、神子を攫ったのですか。あなたには彼女に関わる理由がないと思いますが」

「まあ、理由ならあったんだ。色々とね。安定的とは言えないが、それでも人造天使の数少ない成功例だろう? 天使派は、特にこのヨークタウンの支部は、彼女を欲しがるからさ」

「それが理由ですか。それなら返してもらいましょう」


 そう言ったマルコスは手のひらに、黄金色の魔力を滾らせた。ヨリノブの側についている三人の男は無言で各々の武器を握り、その矛先をマルコスに向ける。


「君が感情移入するなんて、珍しいんじゃないか?」

「そうですね。いつもはこうならないよう、人と距離を置いているのですが。今回ばかりはそうもいかなかったもので」


 その言葉が終わったと同時に、マルコスは黄金色の槍を投擲する。それは空中で弾き落とされ霧散した。その攻撃が皮切りとなり、四人はマルコスを囲むようにして展開する。


 刀を持つ男。彼はマルコスに、白刃を振り落とした。左側面から胴体目がけて横に一閃。だが予想できたのか簡単に防がれてしまう。

槍先で刃を突くと、反動は持ち主の腕を伝って体全体に馴染むように広がっていき、刀の男は大きくのけ反る。


 簡単な”作業”だった。それがたったの一人だったのなら。


 左を攻めると同時に右にも敵はいる。こちらは、独特な刃物を持っていた。のこぎりのようなギザ刃の付いたナイフ程の大きさの短刀を、腹部の最も柔らかい部分に向けていた。


 形状からして毒を塗布しているものと判断したマルコス。だが、判断したからと言って避けるために動くつもりなど毛頭ない。槍など両手に展開している。それに、いざとなったら認識している接地面から針山のように無数に生み出すことだってできる。


 こちらは石突を使おう。柄の中央を持って力任せに振るう。鋭利なギザ刃ごと、危険なナイフは破壊させてもらう。


 そして背後から襲い掛かってくる相手。これがマルコスの想定していたいざと言うときである。


 完全に背後を取った一人。これは必殺の一撃のはずだった。背中に目が付いている人間などいない。いかに隙を晒さず警戒を解かぬ人間であれ、「背中に目が付いている」なんて比喩の域を出ることはないのだ。


 マルコスもそのはずだ。彼は所詮、黄金の代わりでしかない不完全な魔術以外には使えないのだから。


 それでも、男はマルコスの背中を抉る前に、全身を黄金色の槍が貫いて絶命した。地面から生えそろったその黄金の槍は、一本一本が天に向かって伸びていた。

突然生えそろったその槍の軍勢は、加速を要した男に防ぐ術などなかった。


 ただの一言も、ただの一刀もせぬまま死んでしまった男。傷は全身を貫いてはいたが、それでも形を留めていた。それが返って、マルコスを地獄からの裁定者のように見せていた。


 人さらいの罪人へ相応の罰を与える黄金の槍は、赤黒い血液を啜ってもそのくすんだ輝きを失いはしなかった。


 ガランと音がして、男の死体は金属製の斧と同時に地面へと落ちた。地面から生えそろっていたはずの槍も、小さな粒子となって大気中に消えていった。


 その映像は、生き残った三人の瞳にどう映っていたのか。それは定かではない。だが、マルコスに対して憎しみや恨みを抱いたような、そんな瞳ではなかった。


 ただ見つめることもせず一度だけ、視線を死体に向けたのみだった。それも一秒にも満たないであろう時間。

ただ「死んだのか」とだけ言うような視線。あまりにも冷たい、仲間への視線。


「トロワが死んだか。優秀な部下だったのにな。マルコス、君のせいで私の部下が死んだぞ」

「あなた方が先に仕掛けたことです」


 その声に怒火は含まれていない。平坦で起伏のない、言葉。それは文章のようでいて感情の薄い言葉。これが、マルコスの怒りを表しているのだとしたら、ヨリノブはどう動くのか。


 構えた銃を下ろして、ヨリノブは残った二人に指示を出す。


「ヒロイ、ディーアイ、後ろに下がるぞ。ここは危険だ」

「「了解」」


 まるで双子のように返事をする二人。踏み出す足とフォームが違う程度の見事なシンクロ。


 正直に付き合う必要がないのか、ヨリノブは守りの姿勢に転じた。ヒロイとディーアイも、上司であるヨリノブに従って後方に下がっていく。

解体途中ということもあって解放されていた倉庫の扉をくぐり、薄暗いその工場内に入って行く。逃がすわけにはいかないと、マルコスもその後を追うが、倉庫内部に陽の光は届いてこない。


 暗い倉庫の中を進むが慎重に行く他ない。だが、薄暗い倉庫に目が慣れるよりも先に何かが襲う。風切り音が背後、正確には上から聞こえてくると振り向くよりも先に、先ほど見せたように地面から槍を無数に生み出す。

空中から奇襲を仕掛けた三人の内誰かは、これで死んだ。そのはずだった。


 だが、マルコスは腹部に灼けるような痛みを感じ、反射的に腕を振るった。何者かがステップをするその風が頬を撫でる。


「一人ずつ囮になっても、私を倒せませんよ」

「誰も囮になんてなっていないがね。後ろを見て確認したほうがいい。その槍には、誰も刺されてはいないから」


 軽薄な声が聞こえてくる。マルコスは言われた通りに背後をちらと確認すると、そこには何もない。黄金色の槍は、空気を串刺しにしただけだった。そして次には、嘲笑うような笑い声が、倉庫内に木霊した。


 都合よく鳴る音の正体に、マルコスはようやく気が付いた。魔術で音を生み出し、惑わした。それだけのシンプルな作戦。そんな作戦も、視界が頼りにならないこのフィールドでなら万全な策として機能した。


 視界が歪むような感覚を覚えたマルコス。毒が体に回り始めた。それを証明するのはヒロイの言葉だった。


「毒が回ると動けなくなってしまう。そうなる前に、僕たちを見つけ出さなくてはいけない。ああそれと、僕残した手紙は受け取ったかい。うまく誘導出来ていたらいいのだけれど」


 どこからともなく響く声に、マルコスは耳を貸さない。毒が回りきるまでに、何とかして三人を見つけ出さなくてはならない。至難の業だった。それでも、やらない理由なんてない。


 階段を上って廊下を走って、入り組んだ倉庫の中をどうにかして散策する。それでも、ヨリノブの姿は見えない。これでは時間だけが過ぎていく。そして遂に、その時はやって来た。


 両ひざをついて、崩れ落ちた。その姿を影から見ていたヨリノブは、数分が経ってからマルコスの前に現れる。

手に持った拳銃で一発二発撃ち込んで、動かないことを確認してから口を開いた。


「すまないね、マルコス。でも神子は、天使派にとって良い交渉材料なんだ。君も分かるだろ? 魔術協会は腐っている。足きりは、早い方がいい」

「そうでしょうか?」


 驚きが、判断を鈍らせた。後ろに飛び退くのが遅れた。そのせいでヨリノブは、腹部を槍が貫通した。

だがマルコスはまだ地面に倒れたままで、銃創まで負っている。今なら倒せるはずだ。ヒロイとディーアイは時間差で攻撃を仕掛ける。


「よ、止せ!」


 ヨリノブの制止の言葉が二人に届く事は無かった。マルコスが床に手を付いた。身体を起こす前に、その首を切断しようと刃を横に薙ぐが、振り向きざまに振るわれた槍によって逆に首を切断される。


 それから次が来る前に何とか立ち上がろうとするが、片足を切断されてしまう。


「マルコス、あんた......わかってないよ」


 そう言いながら、ディーアイは胸を串刺しにされてそのまま死んだ。


「神子は......どこですか」

「お互い、満身創痍じゃないか。いや、君の方が重症だな」

「早く......答え......を」


 血を流し過ぎたマルコスの意識は既に途切れかけていた。自身が死に瀕しているのは、とっくに気が付いていた。それでも気がかりだったのは、守るベキだと思った少女の所在だった。


「神子は『悪魔派』のフリンという人間に預けている。どうやら私は、ゲームに負けたらしいな」


 そう言ったヨリノブは、それから何も話さないで死んでいった。マルコス、もうすぐ死ぬ。意識が、闇に沈む。




「驚いたよ。マルコスがあんなにボロボロになるなんて」

「私自身、驚いています。神子の事を気に掛けるあまり、視野が狭まっていましたね」


 白い病室の中で、マルコスとザネリが話していた。全てが終わった後に倉庫に訪れたザネリは、マルコスに応急処置を施したあと病院に連れて行ったのだ。


「それで、神子は見つかった?」

「ええ。ロカンタが保護したでしょう。といっても、それを指示したのはあなたでしょう? ザネリさん」

「うんまあそうだね。とにかく、一命は取り留めてよかったよ」

「ザネリさん。あなたはこれからどうするんですか?」

「それは私が聞きたい。魔術協会の魔術師同士が殺し合いをしたとなれば、処罰されるんじゃないか? マルコス」

「ええ。ですから、我々も相乗りさせてもらえないかと。どうせ他に、行く宛もありませんし」


 それを聞いたザネリは絶句した後、口を開いた。


「ウチの事務所には既に四人の取繕者がいるんだけど」

「大丈夫でしょう。四人受け入れられたのなら、また四人受け入れられます」

「そういう問題じゃないんだけど」


 病室でする会話でないのは確かだった。それから、面会が終わって帰るザネリ。依頼金の支払いは当分先になるだろうと思いながらも、定期的に病室に顔を出していた。


 そんなある日、ザネリの事務所兼自宅のインターホンが鳴った。既に部屋の中にはザネリを含めた五人が集まっており、飽和状態だった。この状態で依頼人が来たら、確実にパンクする。


 それでも、ドアの向こう側にいる人間を待たせるわけにはいかない。悩んだ末に、ザネリは玄関を開け放つ。


「............部屋にはもう入れないんだけど」

「そうですか。それなら......ロカンタ、何かいい所を知っていますか?」

「ここからだと『悪魔派』のバーが近いかと」


 さも当たり前のように会話を始める二人の背後には、同じくらいの背丈の少女が二人並んでいた。はぐれないよう、手を繋いで。


「そういう問題じゃないんだけど」


 そう言いつつ、ザネリは事務所のメンバーを呼んで悪魔派のバーへと向かった。これからまた、依頼が始まるのかもしれないしそうじゃないかもしれない。

尤も、それは彼女にはわからない。ザネリはただ、今を生きることを決めて目を開けているのだった。


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