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リペレイター  作者: 宿明朱里
第二部
20/37

六章 火葬隊第六連隊

 ヨークタウンの一角にひっそり構える店。ごく普通の商店でしかないのに、なぜだか日の当たらない狭苦しい路地に息を潜めるよう、その店は建っていた。

肉に魚に野菜。他にはスナック菓子から大判のコミックまで、個人商店にしては文句なしの品揃えに見える。それゆえ、このような暗がりの細道に居を構えている理由は不明だ。

そんな小商店で買い物をしていると、冷蔵ケースに並ぶ炭酸飲料とにらめっこをしながら、チェリッシュは唸っていた。片眉を吊り上げ真剣な眼差しを向ける先、それにつられたアイラスも様子を覗く。


「カムパネラ、後ろの二人は良いのか? なにやら真剣な感じだが」

「いいんだ。あんな奴らは、放っておけばいい」

「そうもいかないんだこれが。良いお客さんだからな! ウチからすれば」


 はげ頭に整えた髭と小太り気味に突き出た腹。企業の乱立するこの時代、こじんまりとした個人商店が続けられるには、それなりの理由がある。そしてその腹には、そういった理由の詰まっていることだろう。古き良きバーコードリーダーを片手に手慣れた様子で会計をしていく。レジに募っていく金の音に、カムパネラは耳を貸さない。

袋詰めされた商品を手にして、未だ背後で選びかねている二人に近づき、その会話を盗み聞く。


「なあ、こっちはどうだ? 少し安いぞ?」

「バカ言わないでよ、そっちは0キロのやつだろう。私はもっと脳に届く甘味が欲しいんだ。これじゃあ満足できない」

「太るぞ」

「ああ、どんと来いだ。私は逃げも隠れもしないさ。カロリー(やつ)が本当に私と戦うつもりなら、私は受けて立つのみだよ」


 くだらない会話を盗み聞きしたことに、カムパネラは後悔する。冷蔵ケースの扉を開け放ち適当に一つを手に取った。脇目も振らずにそれらをレジに通すと、二つ分の無駄な出費が嵩んだ。

プラスチックの白い袋を持って店外に出て、左右前後には住居が所狭しと並ぶ路地。道路を走る車や歩道を歩く人もそれなりに多い。

住宅地なのだからどうしようもないが、人の多い場所は、カムパネラにとっては、酷くストレスだ。

 頭が痛くなる。早急に家に帰らないと、頭痛はもっと酷くなるだろう。今も、道行く人々の声に紛れて幻聴が聞こえる。自分と似た音で、耳元で、その音は鳴り響く。

鼓膜ではなく、脳髄を直接に触れるような気味の悪い感覚。


 人が多い場所は私も嫌いだな。きみもそうでしょ?


「くっ......うるさいな......」


 少し体勢を崩して頭を片手で押さえ、ぼそりと呟く。幸い、背後に付いてくる二人にはバレていないようだった。頭痛と格闘しながらもようやく家にたどり着き、購入した生鮮物を冷蔵庫に入れる。

扉を開くと卵パックが大量にあるが、この光景にも段々慣れが来た。あとどれぐらいで無くなるのだろうかと考えながら、パズルのようになった冷蔵庫には器用に物を詰め込んでいく。終わった後、カムパネラはソファに座った。

応接用に準備していた机やソファは、すでに三人の会議場になっていた。誰も話さない無言の空間を、いち早く打ち破ったのは、アイラスだった。ひらひらと一通の手紙を揺らして話始める。


「それで、どうするんだ。言っておくが僕は反対だ。第六連隊から合同依頼だなんて、絶対にさきの一件が関わってる。殺されかねない」

「今回、依頼が来たのは好都合にも思える。ここで上手く立ち回れば、私たちの身の安全は確保できるかもしれない。それにだ、今回だけじゃないだろう。

この先も、ずっと追跡される可能性だってある。今は相手に従っていた方が得策な気がするんだ」

「それでもじゃないか? 第六連隊は天使派と繋がってるぞ。ほぼ間違いなくな」


 アイラスが手紙を机の上に滑らせ、カムパネラがそれを手に取った。

封はすでに破られており、中身はアイラスが確認済みだ。と言っても内容は、火葬隊第六連隊からの合同依頼についてだ。孤児院の一件で直接的な関わりを持ってはいないが、それでも手紙が届いたというのは、彼らなりの合図だろう。

『俺たちはお前たちを狙っている』と、そんなところか。

何度見ても手紙の文字が変化するわけも無いのに、細やかな希望に縋るように、カムパネラはもう一度、手紙を読んだ。


「『袋小路になる路地』か......。チェリッシュ、どう思う?」

「十中八九、私たちを釣るための罠にしか思えないよ。そもそも、急に壁を作り出して通行人を困らせるなんて、どんな暇人なのさ。

なんとかして私たちを捕えたい、もしくは消したいのどちらかじゃないの?」

「大仰な魔術を使って迷惑をかけるとは考えづらいものね。やっぱり、断るべきか。いやでも、相手の出方が本当に不透明だ」


 口元を手のひらで隠して、一人思案するカムパネラ。考え自体を変えるつもりは、さらさらないのだろう。そんなことはアイラスにも分かっていた。無論、チェリッシュもだ。それならば、アプローチの仕方を変えるしかない。

できるだけ衝突を避け、相手に譲歩した内容で、第六連隊に従う。そうすれば無駄な流血も避けられるはずだ。


「よし、この依頼は受けよう。そして出来るだけ、三人固まっての行動を心がける」

「それで上手くいくとは思えないんだが」

「第六連隊の連中が私たちを孤立させようとするのなら、それはもう確定で私たちの排除に乗り出していることの裏付けになる。そうなれば君たちも、各々勝手に暴れられるだろ? 無様にやられる程、行儀の良い二人じゃないだろう?」

「仕方がないか。これを避けられても、二回目三回目が来るだけだもんな。カムパネラについていくよ」

「私も異議なしだよ。あの澄まし顔にリベンジしたいしね」


 昼、カムパネラの部屋では三人がいっしょに食事をとっていた。なぜだろうかと疑問符を頭の中で膨らませながら、カムパネラはパンに噛り付く。

大皿には、適当に作られたスクランブルエッグがドサっと食べきれないほどに乗せられていた。カムパネラがフライパンを全力で振った、その結果の産物だった。


「まさか本当に全部スクランブルエッグとはね……。手心とかはないのか?」

「そもそも、何で私の部屋で昼を食べているんだ。自分たちの部屋があるだろう」

「これから三人で動くんだろ? なら、わざわざ家に戻る必要がないからだな。それに卵はここにしか置いていない」


 そう言うと、アイラスはごちゃ混ぜになったあられもない姿の卵を頬張った。貪欲に、大皿すべてを食らいつくさんとする姿は、素晴らしく食い意地が汚い。


「気になったんだが、皿を洗うのは誰なんだ?」

「もちろん、持ち主のカムパネラだよ? 私たちは食べるのが仕事だから。料理と片付けはカムパネラの仕事さ」


 あっさりと言い切ったチェリッシュに、カムパネラは目眩を覚えた。だが言葉で言って動く二人ではない。仕方がないので一人で後片付けをする。

シンクで洗い物をしている時間、それはカムパネラが一人で考え事をできる時間でもあった。

第六連隊との合同依頼。間違っても自分たちが傷付く、もしくは死亡することだけは避けなければいけない。そのためには、あらかじめ打っておいた方が良い策もあるだろう。といっても、カムパネラが頼れる人間など、魔術協会にしかいないわけだが。


 水気を払い、手を乾かす。そうして一息ついて、カムパネラはソファのある場所に戻る。


「準備をしよう。これから、第六連隊の指定した場所に向かう」

「僕はいつでも行けるよ。今回に関しては持ち物ないからね」

「私ももう十分かな。バックは持ってきてるし」


 三人は気怠るげに階段を下り、アパートの駐車場に停めている車に乗り込む。ほとんど社用車と化しているカムパネラの車だが、助手席には相変わらずチェリッシュが座った。後部座席で、アイラスが一人のびのびと座る。

バックミラーを通してその姿を見たチェリッシュは歯噛みするが、当のアイラスが気にする様子は微塵も無かった。というより、アイラスは窓の外を見ている。


 たどり着いたのは、急な坂のある住宅街。今はまだ通行人が多い。つまりは人目が多いというわけだが、そんなことお構いなしと言わんばかりの仰々しい装いで、今回の依頼者たちは現れた。

 膝から首までを隠す大きなコートに軍帽のようなつば付き帽子。コートには、肩から胸にかけて紐のようなチェーンのような捻じられた数本の装飾が施されており、それぞれが一枚を羽織っていた。

コートに施される装飾は、実践を見据えた物ではなく、威厳や権威を示すもののように見える。

人数は5人。どう考えてもカムパネラたちが必要になるとは考えられない人数だった。

それに、火葬隊と言えば荒事、つまり戦闘に特化した取繕者(リペレイター)のはず。

いたずら紛いの依頼など、普通は受けない。初めからわかってはいたが、やはり狙いはカムパネラたちということだ。


 巧妙に殺気を隠すが、それならば携行武装も解除して来るべきだろうなと、カムパネラは目を逸らしながら考える。坂の上から降りてくる第六連隊の面々だが、少し距離があるからと、突然アイラスが耳に口を近づけ言葉を発した。


「あの眼鏡が”ロカンタ”だ。たぶん、あの中で一番強い。それと、おそらく社畜だ」

「最後の情報だけ要らなかったな」


 坂を下るだけに随分とゆっくりだった。これでは日が暮れてしまう。といっても、あと数時間で本当に日が暮れてしまうのだが。悠長にしている暇は、カムパネラには無かった。


「カムパネラさん、依頼への協力、感謝します。あなたは解決能力の高い優秀な取繕者(リペレイター)だと聞き及んでますので」


 話しかけてきたのは、リーダーらしき人物。無精髭に半開きの目、コートには皺が付いていてだらしのない感じだ。が、初めに話してきたということは、やはり集団の長なのだろう。

背後の四人は微動だにせず、ただそこで佇んでいた。

半信半疑な感情を気取られないよう、カムパネラは無表情で答える。


「まさか魔術協会がそのような紹介をしてくださるとは。これは帰ってから挨拶をしないといけませんね。今回の依頼では、くれぐれも足を引っ張らないよう、努力させてもらいます」

「それはいいですね。それではこちらも、全力で事に当たらねばいけませんな。ところで、依頼の内容については、目を通していただけましたか?」

「ええ、確か『通ってきた道の塞がる袋小路』の住宅街でしたね問題は。それを、今回は私たちが合同で解決しようということですよね」


 出鼻で魔術協会という後ろ盾を出したのは効果的だったろうか。それとも、切り札は取っておくべきだったか。この際、そんな心配はすでに無用の長物だろう。


「その通りです。それでは、早速取り掛かりましょうか。終わらせるのに、早いに越したことはありませんから」


 表情を隠すためか、男は身を翻してカムパネラたちには背中しか見せなかった。

読んでいただきありがとうございます!

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