第77話 この命尽き果てるまで俺は美珠様をお守りします
「すいません、団長」
魔法騎士に手当てをしてもらい足を前後に動かし確認しながら、杜国は部屋に現われた国明へと声をかけた。
北の国境に人員を送った国王騎士の宿舎は今、同期入団の二人しか存在しなかった。
部屋に入ってきた国明は疲れたように隣に座って息を吐く。
「団長ってのは今はいい。敬語もなしだ」
「そうか、んじゃ。遠慮なく」
そう言ったものの、少しの間、お互い言葉は出てこなかった。
杜国はなにからどう説明しようか悩んでいた。
一方、国明は杜国の人の良さを知ってる。
彼が藤堂秀司と内通しているとはもちろん思ってもいなかった。
同期としてでも、上司と部下としてでも、彼の心根の優しさは熟知していたから。
だからこそ、もう言葉を選ぶことすら面倒だった。
「玲那にとってお前は特別みたいだな、お前と子供を助けてくれと泣いていた。何にも説明しないくせに、それだけ」
「俺のことを?」
「ああ、お前を鞭打ちにするって言ったら、もう手が付けられなくなった」
杜国は苦しそうに胸を掴んで顔を伏せる。
「何にも話さないから手を焼いていたら、よりにもよって美珠様が牢屋に入って、うまいこと聞き出した。町娘のような真似までして」
「そんなところで昔の恋人と今の恋人鉢合わせしたのか。修羅場になったのか? って、姫様は生きてらっしゃるのか?」
希望に満ちた杜国の眼差しに国明は小さく頷いた。
「そうか、姫様は生きてらっしゃったのか。それは良かった。本当に良かった。ではやっぱりあの時国境に現われた人は」
「そうだ。美珠様だ」
その事実を祝う気持と、もう一つ複雑な気持が杜国の中に湧き上がってきたのか、彼は目じりを下げた後、また顔を伏せた。
「それで、玲那は何て、あの子は……誰の子だって?」
「昔、買われた家の領主だそうだ」
「やっぱり……そうか」
そういうと杜国は目を閉じてから、勢いよく国明の前に跪いて、手をついた。
「玲那を許してくれ! 頼む! お前の幸せをぶち壊したこと許してやってくれ! あいつは本当に苦しんできたんだ! 俺が出来たのは守ることじゃなくて、逃がすことだけで。頼む、憎むなら俺を! 俺にあいつの罪をかぶらせてくれ!」
「そうなったら、お前だけではなく、反逆罪としてお前の一族皆裁かれることになる。それでもいいのか」
「それは……仕方ない」
国明は静かに見下ろしていたがやがて首を振った。
「玲那に怒りは覚えたが、憎む気はない。里が自分の子でもおかしくない状況を作ったのは自分だ。身から出た錆だ。それに、そう仕向けたのは玲那ではなく、」
藤堂秀司。
美珠という何よりも愛しい、大切な存在を自分から取り上げた憎い人間。
それを倒すこと、それだけは処罰される前にしなければいけないことだった。
正直、玲那などどうでもいい。
あの女の生い立ちがどうであろうが、どんなことを考えて生きていようが興味はない。
妻という名の他人なのだから。
責任こそ取ったものの、愛着も、執着もなく、彼女と家庭を築こうと思ったこともなければ、そんな場所に一日たりとも身を置いたことはない。
自分が心動かされるのも、求めてしまうのもたった一人の存在で、それは決して玲那という存在ではない。
「あの、国明?」
それでもこの杜国にとって玲那は何にも代えがたい存在だったのだろう。
「俺に美珠様がいたように、お前には玲那がいたんだな」
*
「発熱だけだし、精神的にまいっちゃった感じだね」
相馬は主の脈を確認して、それを確認の意味を込めて手帳に書き込んでいた。
隣にいた桂は悔しそうに爪を噛む。
「まさか、あいつが生きてるなんて。私、ちょっと竜仙に戻ってる。もしかしたら、優菜のことなんか分かるかもしれないし」
「あ、うん。そうだね、俺の未来の人のこと頼む!」
「ん?」
何のことかと振り返った桂に、相馬は恥ずかしそうに顔を赤らめ、首を振って送り出した。
その前で、ヒナは体に熱を宿し、額に汗をかいて眠りについていた。
気を失っているというほうがいいのかもしれない。
項慶はそんなヒナの額を拭いながら相馬に声をかける。
「で、そいつの手紙には何て?」
「のうのうとうちの国に同盟を申し出てきた。もうほんと、神経疑うよ。さてと、じゃあ、美珠様のこと任せていい? 俺も会議にでてくるから」
「ええ、しっかり情報収集してらっしゃい」
相馬は返事代わりに自分の分厚い手帳を持ち上げて走っていった。
それと入れ替わりに部屋に小さな少女が姿を見せる。
少女の瞳は不安そうに横たわるヒナへと向けられてきた。
「ねえ、項慶。ヒナ、お粥なら食べれるかなあ?」
「今は無理かもしれないわね。目を覚まさないのよ」
ひょっこりと顔をだした優真は眠り続けるヒナを見て肩を落とした。
「どうしよう。ヒナが死んじゃったら、優菜は一体どこいっちゃったのかな、ヒナが病気だって知らせないと」
「心配しなくても大丈夫、その優菜っていうのは今、一生懸命働いているんでしょ? それに、このお姫様は死なないわよ。案外こういう人間はしぶといのよ」
あからさまに肩を落とした優真の背中を撫でながら項慶は大人としての笑みを作り上げ部屋の外へとつれてゆく。
そしてチラリと部屋の中へと目を向けた。
「私、この子を教皇様の所へ連れていってくるから、祥伽王子、姫に悪戯とかしちゃだめよ」
何を言うこともなく美珠、蕗伎とおそろいのペンダントをただ眺めていた祥伽は項慶を睨んだものの、項慶の足音が部屋から去ってゆくとゆっくりと手を伸ばした。
そして躊躇いがちに手を取ってみる。
熱くて汗ばんだ手だった。
白い手には火傷の痕があった。
美しい容姿に不似合いな傷の上に星と月を模した首飾りをのせる。
それは祥伽と蕗伎、そして美珠、三人の友情の証だった。
「分かってるか? お前は今、自分に負けてるんだ」
その言葉にヒナはうっすら目を開ける。
ただそこに意識があるのかは分からない。
「今、お前をこんな風にしてるのは藤堂秀司じゃない。お前の心だ」
相手から答えはなかった。
「そんなに奴が怖いか? 何が怖い? 負けるのが怖いか?」
紅い瞳は潤んだ黒い瞳を捕らえて離さない。
むしろ怒りをはらんだ視線を病人に投げつけていた。
「お前は戦いもせず、心を弱らせてここで死ぬか。お前が弱って、またあのクソ騎士どもの士気が下がった。たかか姫の一人で、あれほど左右されて情けない」
ヒナは小さく小さく首を振った。
「あの人……たちは、弱くなんてない。大陸最強、だもの」
「だがお前は弱い。自分の心に負けてこのざまだ。こんな時、こんなところで倒れた。お前は死んだ優菜という人間の分、二人分働かないといけないんじゃないのか?」
「優菜は死んでなんかない」
それだけは認めたくはなくて、ヒナは両手で顔を覆った。
けれど目を閉じると血まみれの優菜と勝ち誇った顔をした藤堂秀司が浮かんでくる。
またあの男は自分の大切な誰を傷つけあの勝ち誇った顔を浮かべるのか。
次の彼の獲物はもうわかってる。
この国の貴族、親子二代にわたり忠臣である父と子だ。
王にとっても、自分にとってもかけがえのない存在である人達だ。
「もう勝てない。でも、失くしなくない。あの人達は失くしたくない」
「本当に女というのは救いようのない生き物だな。それとも、お前だけがここまで情けない生き物なのか。なんだ、あの女を泣かせる顔をしたあの男に心奪われたか」
祥伽は一つ息をつくと、ヒナの手に首飾りを握りこませた。
「戦う前から自分に負けるな。戦え、お前の全てを使って。これは紗伊那と秦奈とお前達の未来を勝ち取るための戦いなんだろう。幸いなことに、お前は一人じゃない。この俺がついててやる。お前の無二の友である俺がな。俺達王族ができることはなんだ? 国を守り民を守ることだろう。民が笑っていられるのなら、例え命を落としたとしても後悔はないだろう。国の未来の為、民の為、それが俺達の生きる道だろう。できることをやってから土の上に倒れろ」
ここで紗伊那が負ければ、小国である秦奈国は簡単に滅びる。
祥伽にとってもここは正念場であり、国の民を想い紗伊那に足を運んだ。
「秦奈を守るためなら、俺はこの国の奴らに、あのクソ騎士どもにも頭をさげて、国が傾くほどの貢物をしてでも武力を請う。その覚悟でやってきた。お前の覚悟はどこにいった」
「私の覚悟は……」
自分の気持ちにまっすぐ生きるためなら、命なんて投げ出せる。
けれど誰かの政治的な思惑で、人の命が、大切な誰かの命を奪われる。
そんなの許せなかった。
そのまま眠っていたのかもしれない。
覆っていた手をのけると、目の前にいた人間は国明と相馬に変わっていた。
長い間眠っていたのだろうか、体のだるさは少し改善していた。
ヒナは手に握らされた首飾りを傍に置くと幼馴染の二人をただ見つめた。
今は珠利がいないけれど、そこに相馬と国明がいる。
心が緩んでゆく。
「あ、おきた。水飲む?」
「お加減はいかがですか?」
見慣れた顔二つに覗きこまれてゆっくりと首を振る。
幼い彼らが仕えると誓ってくれたはずの強かった自分はどこに消えうせてしまったのだろう。
どこに姿を隠したのだろう。
「ごめんなさい。私、弱い」
「弱くないよ。美珠様、よくやってる」
相馬は元気付けようとしたのか、乗り出して笑顔を見せた。
けれどヒナにとってそれはやはり嘘にしか聞こえなかった。
「私、今自分に負けてる、祥伽の言うとおり。この国に私を狙っている人がいて、この国を藤堂秀司が狙っている。一人ずつ大切な人が失われてゆく。その恐怖が私を縮み上がらせて、完全に負けたの、自分の中の藤堂秀司に」
「美珠様だけの戦いではありません。我々がおります。紗伊那を踏みにじる者は我々紗伊那国民の敵。もう敵の姿は見えているのです。我々が戦います」
「確かに、ここんとこの国明は不甲斐なさすぎたから、もうちょっと頑張らないとね。完全ダメな人間だよね」
相馬の言葉に国明は軽く笑うと頷いた。
「ああ、そうだな。きっとあの副団長にぼろくそにけなされるな」
そんな和やかな空気の中、ヒナは体を起こし、国明を見上げた。
どうしてこの人は笑っていられるのだろう。
陥れられたのにどうして。
この人が状況も分からぬ馬鹿でないことは知ってる。
どうして、幼馴染で、心許せるはずの自分達にまでこんな笑顔を作っているのだろう。
怒りとか、悲しみとか、本当であればもっと違う表情がでてくるのではないか。
そんなヒナの視線を察したのは執事である相馬だった。
「あ、俺、ちょっと用事思い出しちゃった。ちょっと国明、警備頼める?」
「え? あ、おい!」
返事を聞く前に相馬はすたすたと部屋から出てゆく。
ヒナはただ国明を見つめ続けていた。
彼が自分の部屋にいるのはものすごく久しぶりに思えた。
甘いときを過ごし、人の目を窺いながら、二人になれると腕に収まって語りあったのももう昔の話。
そんなヒナと目が合うと国明は何も言わず傍の椅子に腰掛けた。
ヒナはそんな国明を労わるわけではなく、むしろ責めるように声をかけた。
「これから国明さんはどうなるの?」
「今回のこと、陛下と教皇様は口止めしてくださっています。まだ外にはでていませんが、彼女が藤堂秀司と関わっていたのであれば、それを隠すことはきっとできないでしょう。藤堂秀司に弱みを握られているのですから、いつか交渉の道具にしてくるでしょう」
「じゃあ、貴方が処分されるということ? あの国境で命が救われたはずの貴方は結局藤堂秀司の策謀によって奪われてしまうっていうこと」
ヒナの言葉に国明は怯えることもなくあっさりと頷いた。
けれどヒナにはそれは納得できるものではなかった。
「そんなの、私は嫌よ」
「貴方は大国を治める人間だ。色々な覚悟が必要になる」
「覚悟?」
この人は何を言っているのだろう。
自分に何を求めているのだろう。
一体何の覚悟だというのか。
ヒナは頭のなかがクラクラした。
「嫌よ! 絶対に嫌!」
「美珠様、落ち着いて」
「落ち着いていられるわけないでしょう! 貴方を、貴方を失う覚悟なんて、私達の手で貴方を裁く覚悟なんて絶対にいらないわ」
長い間お互いを想い合って、やっと触れ合えて愛し合えた姫と騎士は、たった一人思惑で全てを奪われてゆくというのか
生き残るどちらかに、幸せではなく苦しみを与え続けるというのか。
「優菜君を愛せたように、きっと俺がいなくなっても、貴方は幸せになれる。支えてくれる人間はたくさんいる。だから心を強く持って下さい」
「馬鹿じゃないの! そんな気休めいらない!」
頭のクラクラが沸騰しそうな怒りに変わって、ヒナは傍にあった水差しを床に投げつけた。
硝子が粉々に砕けて、水が床一面に広がる。
けれどお互いそれを気にもとめず見合った。
今まで平静を装っていた国明の表情も強張っていた。
「どうしてそんな適当なことばっかり言うの! どうして私に本心を打ち明けてくれないの? 本当に今、そんな優しい、聖人みたいな気持でいるの? 悔しくないの? こんなことになって。こんな死を迎えるために頑張ってきたんじゃないでしょ?」
「国の為に働くと決めた時、こうなることもどこかで覚悟していましたから」
「そう、それが国明さんの答えなのね。公人としての『国明さん』。私、そんな国明さん大きらい! いっつも私を馬鹿呼ばわりして、大人ぶってみせて。
ねえ、本当の貴方は、優菜と私が幸せになること望んでるの? 私は貴方が例え私といるよりも幸せになれるとしても、玲那との結婚のことを祝福する気にはなれなかった。嫌な気持でいっぱいだったわ!」
ヒナは次に水の入っていたカップを投げつけ、そのまま寝台から降りると髪を振り乱し、机に置かれていた本を片っ端から地面になげた。
「一緒に解決しようとどうして思ってくれなかったの? 玲那っていう女から手紙を貰って困ったことが書いてあるって、どうして相談してくれなかったの? 私は貴方にとったらただの馬鹿姫なのかもしれない。相談したって解決できなかったかもしれない。でも、私達、愛し合ってた。なのに、一人で勝手に私を切り捨てて、全て自分で決めて。その結果どう? 貴方の子供じゃなかった! だったらどうして私達別れなくちゃいけなかったの?」
「それは」
国明は動かなかった。
まるで山のようにそこに静かに座っていた。
「珠以にとって私はその程度だったの? 私は貴方を私達の手で裁いて死なせてしまったら、一生心に傷を負う。私、きっと毎日泣き暮らすわ。毎日毎日自分の決断に後悔しながら、表面では笑っていても、絶対、貴方のことを思い出して苦しむ。珠以はそれでも平気なの? 貴方は私を守るために強くなってくれたんでしょ? その貴方が私をこの先も苦しめるの? そんな中で優菜と幸せになれると思うの? 皆で屈託なく笑ってられると思うの?」
珠以という名が少女の血の気の失われた唇から漏れた途端、国明は少し動揺したように前歯で唇を噛んだ。
「今回のことは貴方が負う必要のないことだ。貴方は俺のことなんて、何にも思い出さなくていい」
ヒナはやっぱりどこまでいっても融通のきかない国明に腹が立って、机を押し倒した。
机の上にあった筆記具が絨毯の上に散らばる。
「じゃあ、珠以は私が死んで、平気でいられたの? ああ、死んじゃった。案外あっけなかったな。それくらいの存在だった? 新しい家族がいるから平気だってそう思ったの? そんな軽い気持で私を抱きしめていたの?」
「違う」
「私が死んでも貴方の見る景色は同じものだったの? 何も変わらなかった? いつもと同じように毎日を過ごしてた? ちょっとくらい自分のせいで私が死んだって思った日はなかった? そうよ、馬鹿な私が勝手に北に行った。ええ、貴方を見ているのに耐えられなかったから、我がままを言ったの。そうして、沢山の人を巻き込んだ。沢山の人を死なせて、傷つけて。でも、そのこと、自分のせいだって責めたことはなかったの? それよりも、あの玲那との、子供を得た生活の方が楽しかった? 幸せだった?」
「違うっていってるでしょう!」
あまりに声が大きくてヒナはビクリと肩を揺らした。
けれど国明はそのまま黙ってしまった。
ただ悔しそうに何度も何度も頭を覆って頭を押さえた。
「平気なわけあるもんか。貴方をどれほど求めたか、どれほど自分のしたことに後悔したか、どれだけ責めたか。さっさと死んで貴方の傍にいけることだけを考えてたんだ」
ヒナは国明の前に立って頭を包み込んだ。
国明の体がかすかに揺れる。
「だったらわかるでしょ? その気持私は絶対に負いたくない。大国を治める責任の上に貴方への後悔なんて、絶対に耐え切れない。心が崩壊するわ、珠以はそれでも平気?」
国明は本名を優しく呼ばれ、自分を包み込むヒナの手を恐る恐る自分の手で包み込んだ。
昔と変わらず温かい細い手だった。
あの北のちぎれた手とは似ても似つかぬ手。
「私、貴方を助けるためだったら、そしてこれ以上誰も傷つけられないためにだったらどんな汚い手段でも使うわ。悪魔にだって魂を売ってやる。絶対に藤堂秀司には負けない。優菜が帰ってくるまで、ううん、優菜の分まで私、頑張る」
国明はそんな跡継ぎ姫の言葉に小さく首を振った。
「きっと……他の団長なら、止めるのでしょうね。貴方がそんな言葉を口にすることすら」
けれど国明も生気をみなぎらせた顔でヒナを見上げた。
「でも、俺は貴方を、陛下をそして俺の幼馴染をどん底まで陥れたあの男だけは絶対に許さない。そうですね、こんなところで謀略に負けて死ぬわけにはいかない。俺はあの男の謀略から貴方を守る。俺は武人です。命を失う時は、剣を握り、死力を尽くして戦った後です」
「そうよ、貴方は紗伊那の英雄なんだから。それに約束してくれている言葉があるでしょ? それはこんなところで死ぬための言葉じゃなかったはずよ。 それとも恋人じゃないと、あの約束は無効?」
「いいえ、いつか国を纏められる貴方を支える。それは貴方の恋人である資格を失った自分の唯一の心の支えです。だから申し上げたい」
それは幼い頃から「美珠」に幸せをくれる魔法の言葉。
「この命尽き果てるまで俺は美珠様をお守りします」
*
「はあ、生まれ変わった気がする」
美珠が汗を流してお風呂から出ると、机の上にお粥と子供の字で元気になってねと書かれていた。
そして当の優真は疲れたのか、布団の上で眠ってしまっていた。
可愛くて仕方のない存在。
「ありがとう、優真」
一口口に入れて詰まる。
口の中にはいってくる丸い飴玉。
「な、何これ」
苺の味が、ドロドロに溶けた米の味の中で一際主張していた。
けれど料理のできない優真が作ったのだと思うと嬉しくて残すことはできなかった。
「おはよう、優真」
「ヒナ?」
布団の上で目をこすっていた優真は美珠を見て飛び起きた。
「昨日、お粥ありがとう。元気になったよ」
「おいしかった?」
「うん」
美珠は飛びついた優真と頬を合わせ微笑み合う。
そして後から入ってきた祥伽も少し顔を緩め、何事もなかったかのように腰掛けた。
その瞳には友達の証を首に下げた美珠が映っていた。
「昨日は強烈な嫌味、ありがとう、元気になりましたよ。私、頑張るわ。この国と秦奈国の未来を勝ち取るために」
「そうか。言いたいことはまだあるが、まあ勘弁してやる」




