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第28話 家族です!

(なんか、柔らかいなあ)


 目を開けると黒い何か。


(なんだっけ、この黒いの……ワンコ先生?)


 けれど絡みつく足と押し当てられた柔らかい女性の肉体。


(ちょっと、まって朝はだめ! 朝は! ひっつきすぎ!)


 優菜は全速力で覚醒してゆく頭と本能的な体の反応の中で、慌ててヒナから体を引き離すと、下で毛布にくるまって眠っていたワンコ兄さんの上に体を落とす。


「きゃん!」


 ワンコ兄さんの壮絶な悲鳴を聞きながら、絶対気づかれたくない男の生理現象を隠し、しゃがみこむとヒナがぼんやりと顔を上げた。


「何? 優菜、どっかぶつけた?」


「いや、寝てて、ヒナ、お願いだから寝てて!」


 腰を痛めたワンコ兄さんと困り果てた優菜を見ながらワンコ先生はもう一度毛布をかぶって眠りにはいることに決めたようだった。


「わ、苺のタルト!」


 ヒナは声を上げた。

 短期バイトの契約が終った次の日、ぐうたらを極め、昼までねていたヒナが起きてきた時には、机の上にケーキが完成していた。

 優菜は思い通りの反応を見せるヒナの口に余った苺を放り込んでみる。


「おじいちゃんが、貰ったんだってさ。先生がタルト、食べたいっていうから」


 優菜はエプロンを外して、それを食卓の真ん中に置いた。

 先生は魔法でポットと砂糖とミルクを取り出すと、日当たりのよい席に座ってケーキが取り分けられるのを待っていた。

 そんな師匠のために優菜は一番にケーキをとりわけ、前に差し出すとワンコ先生は嬉しそうにケーキにかぶついた。


(何だ、先生甘いものすきなんだ)


 優菜はそのまま性格を出すようにきっちり等分して人数分を皿に盛ってゆく。

 隣ではヒナがフォークを持って声を上げていた。


「優菜、万能~」


「私も、食べていいの?」


 おそるおそるの桂の言葉に優菜は返した。


「今更何いってんの? お前も家族だし、仲間だし。ついでにフレイの分も作ったからもっていってやって」


「群れるの嫌いだけど、食べてあげるよ」


 嬉しそうに桂が体を前に乗り出した、そんな時、外に水色の飛竜が静かに舞い降りた。

 フレイよりも締まった細身の飛竜はどこか洗練された雰囲気をかもし出し、その竜の黒い瞳もまた鋭く、どこか実践的で戦闘的な感じがした。

 その竜の上にいる伝令を示す黄色の腕章をつけた人間を見て、光悦は何事だと小さく声に出して立ち上がり、一方、薄い青色の竜を見た途端、桂は何をいうこともなくさっと隠れてしまう。

 すぐに扉が叩かれて、光悦が出ると、伝令にきた女は丁寧に頭をさげた。

 なかなか、すらっとした美人に優菜は見ほれていた。


(なんか、凛とした女の人、恰好いいなあ)


 女はどうやら光悦と顔見知りのようで、親しみを込めた笑みを浮かべる。

 艶やかな黒い長い髪を耳の傍で一つに束ね、すらりとした長身に白い服を着て、後ろには槍を装備していた。

 

「光悦様、王からの書状をお届けに参りました」


「何? 王から?」


 光悦は勿体つけることもなく、さっと受け取ると、ビリビリと破って封筒を投げ捨てた。


「こんな老体を召集してどうなる」


 呆れたような光悦の言葉に赤い唇を少し持ち上げて、綺麗な二重の瞳を少し細める。


「光悦様のお力は国王陛下にとっても、重鎮達にとっても勇気そのものではないのでしょうか?」


 手紙を運んだ女はそう言って、漆黒の瞳を走らせる。

 部屋の中にいるのは光悦以外に少女三人と犬二匹。

 目当ての人間はどこにもいない。

 けれどそとに赤い飛竜がいるということはここに竜族がいるはずだった。

 だから、女は尋ねた。


「あの、外に赤い飛竜がおりますが……もしや、ここに竜族のものが?」


「え? 桂のこと?」


 考えなしにヒナが声をあげると、そんなヒナの頭にお玉が飛んできた。

 すると女は光悦に頭を軽く下げて、奥へと進んだ。

 台所には気まずそうな顔を浮かべた桂が隠れていた。

 そして、目の前に立つ女性から顔を反らして声をかける。


「あ、あの縁さん」


「桂、光悦様にお世話になってたの?」


「すぐ、出て行くよ」


 困ったように頭をかく桂。

 すると縁は姉のように桂の頭を撫でた。


「あんた、仲間できたのね。良かった、野宿してると思ってたから」


「仲間なんかじゃ……」


 声が小さくなる桂の右手をヒナが取って、左手を優真が取った。


「家族です!」


 桂は思わず顔を持ち上げた。

 そしてこみ上げた涙を拭うこともできず、落とし続ける。


「群れる気なんて、ないのに」


 そんな涙を縁は女性らしい細い指で拭った。


「あんたが一人背負うことじゃないんだよ、桂。あんたが一人、どこかへ行ったからって、終ったりする問題じゃないの」


「でも、私がいないほうが、皆せいせいするもん」


 子供のように駄々をこねる桂に、縁は目を閉じて首を振った。


「消えないよ。あんたがいても、いなくても。ねえ、私、今から村に戻るけど、あんたも来ない?」


「いけないよ。絶対」


「ふん、竜族の村か、いいな」


 頷いたのはワンコ先生だった。

 口の周りにクリームを沢山つけた犬が縁という女性の下へと歩いてくる。

 縁は暫く黙って犬を見守っていた。


(あ、びっくりするよな。そりゃあ、びっくりするよな。犬だし)


 優菜が納得していると、縁という女は目を輝かせた。


「まああ、お久しぶりです。こんなところで貴方のような方とお会いできるなんて!」


(りゅう)(えん)、ますます女に磨きが掛かってるんじゃないか?」


 女性は先生を抱き上げると優しく撫でた。


(何、その関係! どういうこと!)


 優菜はただ犬と色っぽい女の様子を見守る。


「私も、世界を見て歩いているけれど、秘境、竜仙(りゅうせん)はみたことがないからな。連れて行ってくれるか? 竜縁」


(秘境……秘境ってちょっとひかれるよな)


 するとヒナも桂の隣で声を上げた。


「ヒキョー! 行きたい!」


「ちょっと、ヒナ! 私はいかないって」


「ええ、ええ、別に何もないところだけど、いらっしゃいな。ねえ、今はなんとお呼びすれば?」


 縁はご機嫌で、長い指を使って先生の顎をくすぐる。

 先生も悪くなさそうな顔をして目を細めていた。


「『黒い長靴を履いたワンコ先生』なのだが、君の場合は好きなように呼びたまえ」


「じゃ、先生。参りましょうか」


「ああ。さあ、皆のもの旅支度だ。光悦様、また戻りますが、暫く出かけさせていただきます」


「寂しくなるのう」


「奥方様にお会いになればいかがですか? 奥方様の活躍はよく耳にしますゆえ」


(何で、先生がうちのばあちゃんネタまで知ってるの?)


 祖母のことを思い出したのか、光悦はどこかきりっとした顔を作って二人の血を引いた優菜をじっくりと眺める。

 宝物庫に収められた剣達よりも、何倍も愛しさをこめた瞳で。


「お前さんたち、気をつけてなあ。さて、ワシもまあ、王都に顔をだすついでに、元カミサンのところへ行ってみるとするか」


 嬉しそうな光悦の傍で、若者達が走りだす。


「よし、次はヒキョー」


「ヒキョー」


(あの秘境の意味、わかってる? ヒナ、優真……)



こんにちは。

今回、お気に入り登録してくださった方、

いつもご覧頂いている方、

本当にありがとうございます。


さて、本日は皆様にお詫びが・・・

第15話と第16話の間がスコーンと抜けておりまして、

茶ワンコ=大して強くないワンコ兄さん 

という定義シーンが抜けておりました。

申し訳ございません。

よろしければ、そちらもご覧頂けると幸いです。


気付くのが遅くなり、申し訳ございませんでした。

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