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第23話 お前達にはまだ負ける気がせんからな

 次の朝、ヒナと優菜は朝食にとパンケーキを作っていた。

 ここでも優菜は食事係として大活躍だった。

 老若男女、そして犬。

 全員が満足できる食事を作れる人間だったからだ。

 

 この朝も、

 混ぜる、こねる専門係のヒナと調合係の優菜。

 そして前ではおじいちゃんがサイフォンでコーヒーを作っていた。


「おはよう。わあ、いい匂い。パンケーキ大好き」


 優真は顔を洗い終え、食卓にくると一度優菜達の手元を見て笑みを浮かべ、ワンコ先生の隣に並んだ。


「ワンコ兄さん、私たちも今日から特訓始めるの?」


「そうだな。今日からはじめる」


「私は何をするの? 体育でやってるみたいなこと? 今かけっこだよ?」


 すると縁側で光に当たっていたワンコ先生が声を上げた。


「午前中は大掃除だ。一日で体がノミだからけだ。この私がノミにまみれるなど、あってはならんできごとだ!」


「ホウホウ、それは嬉しいね。もう何年掃除してないかな?」


 

 ワンコ先生、兄さんも四つの足にモップと尻尾にはたきをつけて、例外なく参加した大掃除で、家は見違えるように綺麗になった。

 アンティーク調度の数々が埃という甲冑を脱ぎ捨て、かつての栄華を誇る向こうで、ものが山積みされて光を失っていた台所には燦燦と太陽が差し込むようになった。

 そんな食卓の向こうのずっと広がるジャガイモ畑がみえるのも、とてもいい景色だった。

 そして全員でやりきったという達成感に浸りながら、お昼にパンとジャガイモを食べると、これ以上ないほどのご馳走に感じられた。

 

 少しばかり休憩した後、皆庭に集合した。

 優菜、ヒナ、優真、桂が前に横一列に並ばされる。

 まるで犬軍隊の部下のように。

 もちろん犬軍隊の隊長はあの人だった。

 黒の中型犬が偉そうに仁王立ちしていた。


「前も言ったと思うが、私は優菜専属だ。大して強くないワンコ、お前があと三名の教育係だ」


(なんで、俺だけワンコ先生が専属なの、一緒に教えればいいじゃん)


 けれどワンコ先生にもワンコ兄さんにもすでにも教育案は出来上がってるようだった。

 早速、四足歩行のワンコ兄さんが、尻尾を振っておじいちゃんへと寄って行く。

 コーヒーを飲みながら、ロッキングチェアに座って、優菜達の様子を眺めていた髭の老人は茶の犬に目を向けた。


「なにかな。ワンコ兄さん」


「光悦様、ヒナちゃんに持たせる剣を貸していただけますでしょうか」


 ワンコ兄さんはまずそう申し出た。


「ほう、この子が剣をもつのかね」


「ちょっと、ヒナにそんないきなり剣なんて」


 優菜が慌てて言葉をかけると、ワンコ先生が後ろ足で優菜にけりを喰らわせる。


(ひい! なんか痛いし!)


「お前は人このことはいい。はじめるぞ。こい」


 優菜は後ろ髪を引かれつつも、ワンコ先生とマンツーマンでヒナたちと離れて稽古をすることになった。


  

     *


 紗伊那国、元光騎士団団長光悦は一昔前までは有名な剣士だった。

 なぜならば、騎士団長を引退後、当時まだ十代で伸び盛りだった現紗伊那国王、そしてその近習達の剣の指南役でもあったからだ。

 そして、紗伊那一の剣の収集家でもあった。


 家の中は無頓着な老人も、愛蔵の品を納める宝物庫はまた違った。

 小さなレンガ造りの建物の中は、一定の温度、湿度を保たれた極上の空間だった。

 ところ狭しと置かれた名剣、その他、異国渡りの刀、投擲の道具なども置いてある。

 武器の美術館ともいえる場所だった。


 その粛然とした場所で、ヒナは大切そうに置かれた剣、一本一本をじっくり眺めながら、ワンコ兄さんにこっそりと問いかける。

 不安だったから。


「兄さん、私に使えるものなんてあるの? 包丁だってろくにもてないのに」


「ある。きっとあるさ。数本かりて試してみよう。しかし、この国宝級の剣の数々。紗伊那の騎士共が見たら、涎たらすな、拝む奴まででそうだ」


「じゃあ、入場料でもとって、騎士の人に見せてあげようか」


     *


 居間では優真が算数ドリルを解かされており、それを桂が添削していた。


「どうして、私のお稽古ってこれ?」


「何で、私が添削? 私、ばりばり稽古してもらえるんじゃないの?」


 思ってたことと違った二人はちょっと口を尖らせて鉛筆を持った。


     *


 ヒナに持たされたのはシュバイツアーサーベル。 

 比較的軽量な切っ先三分の一が諸刃の片手剣だった。

 その選別にヒナは関与していない。

 ワンコ兄さんと光悦がまるでおもちゃを選ぶように楽しそうにああでもないこうでもないといいながら、目を輝かせて選んだのだ。

 ヒナとしてはもっと宝飾キラキラの可愛い剣をと期待していたのだが、渡されたものはものすごく実践的な剣だった。


「じゃあ、ヒナ。はじめよう。好きなように動きなさい」


「どうやって」


「こうやって」


 ワンコ兄さんは両手を合わせると、人の黒い影をいくつか作った。

 実体のない、ただの影。

 そしてそれはゆらゆらと揺れながら、ヒナへと襲い掛かってくる。

 全く剣を扱えないと思っていたヒナだったが、考えるよりも先に足が出ていた。

 慣れたように剣を握り、どれを獲物にしようかと迷うこともなく、自分のいい距離に入ってきた影を真っ二つに切ってゆく。


「なんか、戦えた。何で?」


 息も荒げず、影を切り伏せたヒナは自分自身驚いたように目を見開いて、飾りもないただのサーベルを眺めていた。

 

「もう飽きた!」


 投げ出したのは優真だった。

 ひたすら勉強をさせられて、鉛筆を投げ出して転がる。


「私も飽きたよ」


 桂も寝転がった。

 その隣でただコーヒーを飲んでいた光悦は庭先で駆け回るヒナを面白そうに見ていて、やがて立ち上がった。


「私が相手してやろう」


「おじいちゃんが? うん、お願いします」


「優菜、お前も掛かってきなさい」

 

 離れた場所でひたすら精神の訓練と称した座禅を組まされていた優菜はやっと体が動かせると内心喜んでいた。


「やる! やる」


 すると光悦は顔を緩める。

 彼自身、若いものの教育は大好きだったから。

 部屋の片隅に置かれた偉く重そうで長い剣を持ち上げ、鞘を片手に持ち剣を引き抜く。

 姿を見せた剣はワンコ先生、ワンコ兄さんも唾を飲み込むほど怪しい輝きを見せていた。


「遠慮はいらん。お前達にはまだ負ける気がせんからな」


いつもアクセスありがとうございます!

お気に入りしてくださった方がいらっしゃったことに小躍りです!


さて、現代日本のような世界ではじまった物語もだんだん、

紗伊那ナイズされてきました。


優菜、ヒナ、それぞれどんな力を手に入れるのか、


また次回もお付き合い下さいませ!

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