第24話 できない
まず動いたのはヒナだった。
駆け出したかと思うと、両手で剣を握り力を込めて振り下ろす。
けれど祖父はそれを受け流し、そのヒナの影から迫っていた優菜の蹴りをかわした。
避けられることは織り込み済みで、優菜は軸足を変えてもう一発けりを入れようとしたものの、巨大な剣の動きを見て避ける。
「剣を避けてばかりで戦う気か? 勝てんぞ?」
(魔法を出せっていってんのか、じいちゃん)
優菜はまあとにかくやってみようと気を高めていたが、その間、防御もなにもできず無防備になってしまい祖父の剣が振り上げられる。
(やっべえ!)
頭上に振り降ろされた剣を力を込めたヒナがとめた。
重いその一振りをはじくことはできず、腕が震えていた。
「優菜! そんなんじゃ、やられるよ!」
(ウルサイ!)
気が珍しく急いた。
焦りの中で魔法を出そうとする間、ひたすらヒナに庇われてしまう。
それがまた焦りに繋がった。
背中や額に気持ち悪い汗が流れる。
そしてヒナはちょっと力をこめた光悦の一撃で簡単に吹き飛ばされた。
「いったあ」
すると祖父は二人を見て笑った。
「まだまだじゃなあ。おい、ワンコ二匹。ちゃんと修行をさせよ」
ワンコ先生もワンコ兄さんも二人とも優菜とヒナの動きをしっかりと目で追い、そしてその上で光悦の言葉に頷いた。
そして
「仕方がない。大して強くないワンコ。ヒナに木刀を。おい、優菜、お前、今ので分かったな」
「分かってる。時間が掛かるってことだろ?」
「時間が掛かるも何も、まだお前は何もだせてないではないか。私が聞きたいのはお前が戦えてないことが分かってるとかということだ」
(う……悔しいけど、言い返せない)
「今からお前はヒナと特訓だ。ヒナの持っている木刀を足か手で切れ。ヒナは優菜の腹に一本、入れることいいな」
「うん」
優菜とヒナは見合う。
お互い手を抜く気なんてさらさらないという顔をして。
(わざわざ切れっていうってことは、折るなってことだよな。結局、魔法か)
「ねえ、優菜、痛くても怒りっこなしね」
「分かってるよ」
見るからにウズウズヒナは勢いよく打ち込んでくる。
楽しそうに。
嬉しそうに。
(切る、切る)
一方、優菜はその言葉だけを考えながら、ヒナの剣をかわし続ける。
そしてまず打ち込まれた木刀を腕で止める。
(って、この時点で、真剣だったら、俺の腕切れてるしな)
かわされることにヒナはムカついたのか、ヒナは傍にあった木刀をもう一本握った。
突然、二刀流で切り込んでくる。
先程よりは威力は落ちたが、格段に攻撃回数は増えた。
「ほう、あの子もなかなかやりよるわい。伊達にあの顔をしてるわけではないのお」
光悦は楽しそうに笑って、そんな稽古を眺めていた。
結局、その日優菜は一回も魔法を出すことはできなかった。
(俺、才能ないのかも)
膝を折って落ち込んでいる優菜の前で、光悦がヒナの肩を叩いた。
「お前さん、案外、二刀流かもしれんな」
「え? 私が? さっきのはたまたま」
「嫌、あのほうがお前さん動きやすかったろう。明日、お前さんに合う剣、もう一本探してやらねばらなんな」
光悦は楽しみができて嬉しそうに部屋へと戻った。
ヒナも新たな自分の力に気付かされたのか、両手を眺めて嬉しそうに笑っていた。
成果のでたヒナとは違い、優菜は悔しくて砂を握って立ち上がると、誰の目にもつかないところへと走った。
「優菜、こんなところにいたの? ねえ、お風呂は?」
「もう少し、練習する」
皆が寝静まってからも、優菜は特訓を続けていた。
汗がぽたぽたと地面に落ちる。
(守るヒナには負けない。負けたくない!)
ヒナはずっとそんな優菜を眺めていた。
「見てんなよ、寝ろよ」
「嫌」
「できない、俺なんか見るなよ!」
気がついた時には叫んでいた。
今まで何でも殆ど全力など出さずにやってこれた。
学校で万年二位に甘んじていたのも、別に試験に猛烈に勉強したわけではなく、覚えてる範囲でできたし、部活だって、大会で何度か優勝したけれど、居残って練習した覚えはなかった。
(できない)
そんな思いをしたのは初めてで、腹も立ったし、悔しいし兎に角苛ついた。
「さっさと、寝てこいよ!」
もう一回ヒナを怒鳴りつけると、ヒナは一度口を尖らせて立ち上がり、部屋に戻っていった。
(八つ当たりだって、分かってる。分かってるけど、俺はヒナを守らなきゃいけないのに、なんでこんなところで挫折してるんだよ)
情けなかった。
優真とヒナを守ると決めた自分は強くならないといけなかった。
降りかかってくるものを対処して、戦かわなければいけないのに。
(なのに、俺、全然できてないじゃん)
その場に座って砂を投げつける。
自分がスゴイ奴だとは思わない。
でも、同じ十六歳の人間達の中では優等生なのだと勝手に思ってきた。
(情けない。俺、すっごく情けない。勝手に守れるって思ってた)
そんな優菜の前に誰かが立った。
ヒナだった。
頬を膨らましつつも、優菜に何かを差し出していた。
チュッパだった。
「取って置きのあげるから、機嫌直して」
優菜は砂で汚れた手で受け取り、さっさと口に入れる。
(うう、プリン味。これだけ動いた後、甘い飴キツイ)
口に入れるとヒナは隣に座って、汚れた優菜の手を合わせた。
そして細い指を絡ませてくる。
「それで、励ましてるつもりか?」
「うん」
(励ましてるのかよ)
それが、どこか笑えた。
「私、優菜の全部知りたいんだよ」
(はいー? それはあのどういう意味で?)
優菜は何も言わず、ただヒナへと視線を向けるとヒナも微笑んで優菜に顔を向けた。
「今まで一緒にいられなかったから、優菜のかっこいい部分だけじゃなくて、優しい部分だけじゃなくて、できないところも、悪いところも全部しりたい。見てたい」
「ヒナ」
「優菜は私にできるところしか見せてくれなかった、でも、カッコ悪かったっていいじゃない。私、そんなことで優菜を馬鹿にしないよ。嫌いにならないよ。むしろ私と同じなんだって安心できるもん! 優菜だってできないこと、一つはあるんだって」
「できない、できない言うなよ! ムカつく奴だな!」
そう吐き捨てても、苛立ちは急速にしぼんでゆく。
その代わりにヒナから温かい気持ちが流れ込んでくる。
(全部ヒナにお見通しだったわけか。ホント、ちゃんと見てくれてるんだな。守るもんだと勝手に思ってた。ヒナは生まれたばかりだから守らなきゃって。 でも、ヒナも人間としてしっかり、自分の人生を生きようとしてて、そして俺を守ろうとしてくれてる)
ヒナという存在が無性に愛しくて可愛く見えた。
そして双子という存在がいてよかったと心から思えた。
「だから、ね?」
「分かった」
握っていた手に力を込めて、ヒナに最大級の笑みを向ける。
「じゃあ、見てて、俺、どんなにカッコ悪くても、どんなにできなくても絶対諦めない。頑張る。それ、全部見てて。俺もヒナが頑張るのみてるから」
するとヒナもみているこっちまで顔が赤らむようなすごい笑みを向けてくれた。
「うん、了解」
*
「相思相愛といったところか? 双子だから抑えているのか、無意識に抑えられているのか」
「さあな、私は双子ではないから分からんな」
「あの二人だって双子ではありません。全くの赤の他人です。貴方と、貴方の雇い主が選びに選んだ、『最も相応しい双子』の相手なだけです」
ワンコ先生とワンコ兄さんはただそんな二人を見守るようにじっと窓から外を眺めていた。
こんにちは!
さて、双子ではないと先生が言い放ったこの二人。
じゃあ、一体なんなのさ、先生!




