第九十二話 親友たちの答えと結果
「入るよ」
「うん」
放課後、私達は指定された時間に音楽室所に集まっていた。
そうしてドアが開けると1人の男子学生が窓の外を見ていた。
扉が開かれた音に気が付いたのか、彼はこちらを見る。
彼の見た目は地味だと言う感じがある。
クラスで例えるなら隅でポツリといるような感じがある。
ただ、妙な静かさと言うか冷たい印象も受ける。
「来ましたか。椅子を用意しているので、座りたいなら座ってください」
興奮したように喋る感じではなく、非常に落ち着いた声色で話すので、ギャップを受ける。
「大丈夫だから」
綾香が警戒心丸出しにしながら断る。
「そうですか」
敵対的な態度を見ても彼が動揺することなく椅子に座った。
「それで私達を呼び出した理由は何!?」
威嚇するように強気で綾香は聞く。
「 落ち着いてください。
時間には余裕があるでしょう?
ゆっくりとお話をしませんか」
綾香につられてヒートアップすることなく冷静に受け答えする。
「私達はあなたに付き合っている時間はあまりないんだけど」
「そうですか。まあ、別に退室しても構いませんよ?
その瞬間、証拠をばら撒くだけですから」
まるで相手にされてないと言った感じだ。
こちらの強気な言葉にも冷静に対応しつつ、冷徹に刃をチラつかせる。
「 まずさ、その証拠て何?
私達、春野さん達を虐めてなんだよ。証拠なんてあるわけないじゃん。
言いがかりやめてよ」
「 頑張って嘘をつく必要はありませんよ。
こちらはしっかりと調べてきているので」
そう言って彼は茶色の封筒を投げ渡してくる。
それを受け取った真美ちゃんは中身を見て顔色を悪くする。
茶色の封筒の中には何枚もの虐めている時の写真が入っていた。
「どうして・・・・・・こんなものが」
証拠があることがみんなが動揺する。
「お前!どうやって手に入れの」
「 それは今、関係ありますか?
証拠が私の手にある時点で、私にはイジメを証明する力があることに変わりありません」
「・・・・・・」
彼の冷静な言葉に私達は押し黙ってしまう。
彼の言うとおり、この写真がある時点で彼にはいじめを証明する力があり、下手なことができなくなった。
「何が目的なの」
真美ちゃんから今までに聞いたことがないほど敵意に満ちた声だった。
「 私の要求は一つだけです。
逃げることなく私と真剣に話し合いをしてください」
(逃げずに話し合い・・・・・・)
もっと酷い要求をされると思っていたが、彼が求めたのは話し合いだった。
「何を・・・・・・話すんですか?」
「色々とです」
彼はハッキリとは答えなかった。
それが逆に彼の不思議感を掻き立てる。
普通ならイジメ以外に何かあるかぐらいの勢いで言われると思ったからだ。
「分かりました。その要求を飲みます」
「凛奈っち!?」
同意した私に綾香達は動揺する。
「話し合いすら応じないなら、それこそダメだよ」
「・・・・・・分かったよ」
綾香達はなんとか納得させて彼の方を見る。
「それで、話したいことは何ですか?」
「今年の文化祭はどうでしたか?」
「お前!」
私達にとってネックであることを聞こうとした彼に綾香は怒り出そうとしたが、私が手を出して静止させる。
「どうとは、なんて答えればいいですか」
私はどのように言えばいいのか彼に聞く。
正直言って私もあまり喋りたくはない。
何が正しくて、何がダメだったのか、どうすればいいのか答えが私の中にはない。
「そうですね、文化祭ついてあなたは何を得られ、何を失ったのか、その行為に意味があったのか、それについて私は聞きたい」
そう語る彼の様子は怒りに満ちたようでもなく、何かを期待している訳でもなく、ただ淡々と聞いてくる。
「どうして……そんなことを聞くんですか」
表情から何を求めているのか全く分からない。
それが怖くて、私は彼にそんな質問してしまった。
「私はただしっかりと知っておきたいんです。イジメる側だったあなた達がどのような考えを持っているのか、今回の出来事についてどのような結論を出しているのか」
つまるところ、どのぐらい反省しているのかを知りたいのかと思ったが、彼の様子からなんとなくそれは違うと思った。
何と言うか、今回の事件と彼には距離を離れているように感じる。
それこそ、第三者として立ち位置に近い。
「これで、答えてくれますか?」
「……」
私はすぐには答えられなかった。
だって、これの答えが智子や真美ちゃん達の行動が正しかったのかどうかを決めてしまうような気がしたから。
「それ、私が答えてもいいんだよね?」
私が沈黙していると綾香が彼に向かって聞いてくる。
「別に構いませんよ」
彼は特に気にした様子もなく答える。
「あの文化祭で得られたものなんてない!」
綾香の答えに私は驚いた。
だけど、驚いているのは私だけで、真美ちゃん達はそれが当然だと言わんばかりの表情をしている。
「あれだけの事をして、得られたものはなかったんですか」
彼は本当にそうなのかと聞いてくる。
「無いよ!だって、私たちは親友を守っただけだから!」
「!!」
綾香の言葉に大きな衝撃を受けた。
「私は、凜奈ちゃんを守るためにやったの。何かを奪いたいからやった訳じゃない。元からあったものを守るために戦ったの!」
綾香に加勢するように、真美ちゃんは力強く言い放った。
(守るために戦った……)
真美ちゃん達の言葉にとてもうれしいと思う気持ちもあった。
だけど、それ以上にそんな気持ちで戦っていたんだと思った。
私は、何かを守ろうなんて思ってもいなかった。
一刻も早くこの状況を抜け出したいと思っていた。
真美ちゃん達と私の気持ちの違いに、ポツンと心の穴が開いたような気がした。
「元からあったものを守るために戦ったから得たものはないと、なるほど理解は出来ます。それで、守るために失ったものは何ですか」
彼は綾香たちの言葉に理解を示し、特に怒ると言ったことはすることなく、次に失ったものを聞いた。
「綺麗な存在であることをやめました。あなたが知る通り、私たちは凜奈ちゃんを守るために手段を選びませんでした。何が何でも守りたいと思ったから」
その言葉に私は胸を締め付けられた。
私の為に、何かを失って欲しくなかった。
「赤菜さんや春野さんの笑顔や未来を失ったとは言わないんですね」
彼は悲しそうに言った言葉は、私の中に刺さっている刃をさらに奥深くへと差し込んだ。
「思わないよ。私たちは守るために戦って勝ったの。負けた側の事なんて知らない」
真美ちゃんのその言葉はとても強くて、そして冷たかった。
「弱肉強食と言うことですか。負ける方が悪いと言うことですね」
春野さん達を蔑ろにするようなことを言われても、彼は冷静で真美ちゃん達の言葉に理解を示した。
「それでそれらの行為には意味があったと思いますか?」
「凜奈っちを守ることが出来たんだから、あるに決まってるじゃん!」
真美ちゃん達は断言する。
私達の行為には確かに意味があったのだと。
それを聞いた彼は初めて不思議そうな表情をする。
「そうですか。私は意味がないものだと思っていました」
「はあ?」
彼の言葉に真美ちゃん達は怒りの感情を思う存分ぶつける。
しかしながら、彼はそんなもの気にすることなく、ポケットから私たちに渡した写真と同じものを取り出す。
「これから守ったものが壊されるのだから、意味がないでしょう?」
少しだけあざ笑うように言われたその言葉に、私は怖くなって体が動かなくなった。
だけど、真美ちゃん達は違った。
「させるわけないじゃん!」
真美ちゃん達は隠し持っていた木の棒を持ちだして、彼を襲いに行く。
「はぁ、品がない」
襲い掛かる真美ちゃん達に対して、彼は慌てるどころか、失望したといったように真美ちゃん達を蔑んだ。
それと同時に棒を振り上げて叩き付けようとして来ている綾香の手首をつかむと、叩き付けようとしていた勢いを利用してそのまま投げ飛ばすと同時に、綾香が握っていた木の棒を奪い取る。
そして、投げ飛ばした隙を突こうとしていた真美ちゃんの木の棒を綾香から奪い取った木の棒を当てて弾き飛ばす。
相当強く当てたのか、弾かれた反動で真美ちゃんは木の棒を放してしまう。
真美ちゃんがそのことに動揺した一瞬の隙を突いて、彼は真美ちゃんの手を絡めとるように捕まえて、ダンスを踊るか如く、安奈の方へと投げ飛ばす。
真美ちゃんをぶつけられて、安奈は受け止めるような形になり、動きが止まる。
そこに彼はお腹に向けて回し蹴りを見舞わせて、二人はそのまま後ろの方に吹き飛ぶ。
「手加減が出来ればよかったのですが、苦手でしてね。痛かったでしょうが許してください」
三人を一瞬にして制圧した彼は何事もなかったように答える。
「まだだ!私は凜奈ちゃんを守る!」
投げ飛ばされた真美ちゃんがフラフラになりながらも立ち上がり、彼に殴りかかる。
しかしながらも、彼は容易に綾香のパンチを避けると、そのまま手首を掴んで拘束する。
「暴力で勝てるわけないでしょうに」
彼は呆れるように語る。
「元々、あなた達三人はそんなに強くないんですよ。春野さんが反撃したらあなた達が銃を持っていても敵いませんよ。
今回は木の棒を持ちだしたようですが、素人の振るうものなんて格闘技を学んでいる人から見れば対応は容易ですし、今回のように奪われて利用される。
突き詰めれば暴力では勝てない。
それに、暴力は消費活動です。
暴力で与えられるのは恐怖といった負の感情で、された方は痛いし、恨みを持つ。
いいことなんてほとんどない」
「それでも私が、私が、凜奈ちゃんを守るためにはこれしかないの!」
そう言って真美ちゃんは拘束から向けだそうとするが、彼はさらに拘束を強める。
真美ちゃんはさらに苦しそうな表情をする。
「もう少し現実を見てくださいよ。
暴力であなたの大切なものは守れない。」
「それでも、それでも」
真美ちゃんは諦めようとせずに暴れまわるが、彼は冷静に対応する。
足掻けば足掻くほど真美ちゃんは苦しそうな表情をする。
「しっかりと守りたい対象を見ることをお勧めしますよ。
あなたが暴力を振るえば振るうほど、あなたが守りたい対象は苦しんで泣いていますよ」
「え……」
真美ちゃんがこちらを見てくる。
「私が泣かせたの……」
気が付けば私は泣いていた。
私のため暴力をふるい、苦しんでいる真美ちゃん達をこれ以上見てくなかった。
何より、真美ちゃんの手は暴力を振る為ではなく、いつも笑顔で書いてくれるイラストに使ってほしかった。
「凜奈っち……」
「凜奈」
泣いている私を見て、真美ちゃん達は抵抗する気力がなくなったのか、力なくその場にうずくまる。
これ以上抵抗がないと思ったのか、彼は真美ちゃんの拘束を解く。
「あなた達は、暴力を使って守っていたと思っていたようですが、実際は守れていなかったことは理解できましたか。
私は暴力がダメだとは思いません。
ただ、あなた達は守りたいと思う存在のことをしっかりと見ていなかった。
信じていなかったんですよ。
互いにね」
「うう……ああああああーーーー」
彼の言葉に真美ちゃんは泣き崩れた。
真美ちゃんだけではない、綾香も安奈も泣いていた。
「さて、森岡凜奈さん」
彼はそう言って私の方に近づいてくる。
そして目の前に立ち、真っ直ぐとした目でこちらを見て聞く。
「友を傷つけ、赤菜友梨を絶望させ、春野愛佳を自殺に追い込んだ文化祭はどうでしたか?」




