第八十話 レンタルビデオ店
「映画・・・・・・」
春野はいつものように興味がないような表情をする。
まあ、いつものことなので気にせずに僕は話を進める。
「どうかな?たまには家で映画とかを見ながらゆっくり過ごしてみるのもいいと思って」
本当は外でもいいのだが、僕がいない時、家で一人でいる春野が何もしないでただ外を眺めて空虚な時間を過ごしているのをどうにかしたかった。
外を眺める以外の過ごし方を少しでも見つけて欲しかった。
そんな思いを隠しながら僕は静かに春野の返答を待つ。
春野はすぐに拒否することなく、少し考えている。
今まで一刀両断されたことを考えると悪くない案だったかもしれない。
「いいわよ。たまにはそういった過ごし方も悪くないかもしれない」
春野はあっさりと承諾した。
何かしら言われると思っていた僕は少しだけ驚く。
「なら、ビデオをレンタルしにいこう」
とにかく、春野がやる気を見せているのでレンタルビデオ店にいくことにする。
そうして僕たちは外に行く準備をしてレンタルビデオ店に向かった。
「ここがレンタル店、値段は安いからお金のことは気にせずに気になるものがあるなら気軽に手に取って欲しい」
春野にできるだけ多くのもので興味を持って欲しい僕は、値段的にも安く遠慮なく借りれるところに連れてきた。
レンタルビデオ店に来た春野は一種周囲を見渡して大体のことを把握したのか、いつもの落ち着いた感じでいる。
「椿君、私は見てきたいところがあるから別々で行動しないかしら?」
「構わないよ」
てっきり興味がなくて何がいいのか分からないから、僕に任せてくるものだと思っていた。
春野が積極的に動くことに驚きながらも、僕は自分から動いている春野の邪魔をしたくないので、提案を了承する。
「ありがとう。またここで会いましょう」
春野さんはそういって目的の場所まで歩いていく。
それを見送った僕は、取り敢えず春野が向かった場所とは違いところに向かう。
春野は、別々で行動しようといったので、一人でゆっくりと考えたいのだろう。
できるだけ春野に一人でいられるように立ち回ることを意識する。
(しかし困ったな。これ自分も借りないといけないじゃん)
僕の計画では春野に色々と教えながら反応を見て春野が見たいものを借りる予定だったので、自分が何かを借りるとは考えていなかった。
別々に行動することになった今、再び集合した時に僕が何も持っていなければ、誘った側なのに何も選ばないて興味がなかったといっているようなもので、色々と都合が悪い。
春野が積極的に動いてくれるのは嬉しい誤算だが、春野がある程度楽しんでもらえそうなものを選ばないといけなくなった。
(取り敢えず、見て回るか)
立ち止まって考えていても仕方ないので、どんな作品があるのか見ながら決めることにする。
「アクション系とか、激しいやつは今回はパスかな」
色々派手でいいんだけど、今回は春野と一緒に見るわけだし、初めての取り組みであることから、少しテンション高めで見ないといけないものは避けたい。
もう少しほのぼのとしていて落ち着いたものを選びたい。
そう考えるといくつかの映画が頭の中に思い浮かべる。
僕は思いついた映画がある場所に向かう。
「幅広く見れるから人気なんだな」
僕が思いついたのは、どこぞの夢の国辺りの映画である。
ほのぼのとしていて、ものによっては可愛い要素もあり、なんだかんだいい感じの試練もあり、男女問わずに楽しめる。
はじめて一緒に見るには無難かつ安定している。
僕が求めていた要素をしっかりと満たしている映画だった。
そこから僕はいくつかの映画を選ぶ。
昔見ていたものの新作を見つけたりと、春野のために来たのに楽しんでいる自分がいた。
「たまに来るのもいいかもな」
想像以上に気になるものが多く、全てが終わった後に個人で通うのもありだと思ってしまう。
春野が知らない楽しいを提供する為に色々と考えている中で、新たな楽しいを見つけることが出来るのは春野に教えたいものが増えると同時に自分の中でのプラスが増えるのでやっていた良かったと思える。
新たな発見をしながら僕は、選んだ映画を借りる為に春野と別れたレジ前に向かう。
レジのところに辿り着くと、すでに目的のものを見つけて借り終わった春野がいた。
レジ袋の膨らみ具合から4から5冊ぐらい借りたようだ。
僕もレジで借りる申請をした後、春野の方に向かう。
「ごめん、待たせた?」
「そんなに待ってないわ」
春野は特になんともないように答える。
春野が不快になるような時間待たせることがなかったことに安心する。
「春野は何を借りたの?」
今まで春野が自分から選ぶと言うことをあまりしなかった為、何を選んだか気になった。
「どうせ一緒に見るんだから、それまで我慢しなさい」
春野は少し目を逸らして答える。
「そうだね」
春野の言う通り、どうせ一緒に見るのだから、無理して知る必要はない。
そうして僕たちは各々いくつかの映画をレンタルして家に戻るのだった。