第八十一話 甘い飴と双子の妹
レンタルビデオ店から帰ってきた僕たちは、昼食をとった後に、映画を見ることにした。
「それじゃあ、春野が選んだやつからでいいかな?」
「それでいいわよ」
僕は春野が借りてきたCDを手に取る。
(僕の知らないやつだな)
春野が選んだものは僕が知らないやつで、どんなやつかは見てからのお楽しみになった。
(さて、春野はどんなものを選んだのかな)
娯楽系は関して全くと言っていいほど自分から動かなかった春野が選んだ映画、春野のことをより知るといった面でも僕は期待していた。
そうして映画を見始めた。
(・・・・・・どう言うこと)
映画を見始めて途中夜食も食べて8時間、僕は困惑していた。
困惑している理由については勿論、映画の内容である。
(これ、恋愛映画だよな)
春野が選んだのは恋愛系の映画だ。
現在、4本目を見ているがその全てが恋愛映画だ。
一本目は何かの間違いか偶々そう言うものを選んでしまったかと自分に言い聞かせていたが、2本目、3本目、4本目もガッツリした恋愛系だと現実を直視しないといけなくなる。
(こういうのは興味がない、もしくは嫌いなタイプだと思っていたんだけどな)
現在の春野のイメージからあまりにも掛け離れている。
これだけでも中々によく分からないことだが、さらに僕を困らせるのは、春野は見ていて楽しいと言った素振りを一切見せず、黙々と表情を動かすことなく見ていることだ。
楽しそうに見ていたら、春野もこう言うものが好きなんだと新たな発見と言った感じでいいのだが、この感じだと何かありそうだ。
それに映画の内容も単純な恋愛ではなく、困難に立ち向かって乗り越えていくもので、今の自分達と近い状況の映画になっている。
ただ単純に見たかったと思い込むことはできなかった。
(春野は何を考えているんだ)
分からない。
もしかして、この映画のような展開になりたいのだろうか。そんなまさかだと思いたいが、可能性を無視するわけにはいかない。
もしそうなら僕はどうするのだろうか。
この映画みたいに春野を救いたいと思うが、好きではない。
(まあ、今すぐ考える必要はないことだな)
もしその展開になっても時間がある。ゆっくり考えればいいし、そんな都合がいい展開を考えると滑稽な気持ちになる。
(とにかく、少し警戒した方がいいかもな)
何もないと言う関係ではないのだ。
油断していたら騙すぐらいの関係だ。
僕が騙されたら春野の自殺を止められず、正真正銘終わりだ。だからこそ、本当を見抜いていかなければいけない。
そんなことを思いつつも僕のガードはゆるゆるだ。
(まあ、警戒マックスで一緒に過ごすなんてできないからな)
春野を知りたいのに、小細工で封殺していたら意味がないだろう。
春野のすることを真正面から受け止める。
それが僕がするべきことだ。
勿論、ヤバそうなことはどんな手段を使っても止まるが。
だからこそ、僕は純粋に映画を楽しむ。
といってもさすが春野がセレクトした映画、とても現状に近いものが選ばれている、主に僕の立場に。
「逃げよう。気が済むまで」
「うん」
そうして主人公達は全てのしがらみから逃げる為に駆け落ちしていった。
そして、主人公達は小さな村で幸せに暮らして終わった。
(逃げるか・・・・・・)
僕が切り捨てた道。
もしも、現実に向き合うのではなく、夢を与えて春野が自殺を忘れるまで逃げ続ける選択をした場合、この映画のような展開があったのだろうか。
隣で黙々と映画を見ている春野を見る。
春野の問題と向き合う限り、逃げるのか戦うのかの選択肢は幾度も来るはずだ。
戦うことが正解ではない。
逃げる方が正解のときもある。
その全てをしっかりと僕は選択できるのだろうか。
少し手を伸ばせば映画のような甘く楽しい未来が手に入れられるかもしれない。
誰もが苦しんでいない、気が赴くままみんなが楽しんでいる。そんな未来が見える。
甘い勧誘が僕の脳内を誘惑する中、4本目の映画が終わる。
「私、お風呂入ってくるから」
「分かった」
そろそろ就寝時間なので、映画は一旦ここで終了となった。
春野が風呂に向かって少し経った後、僕のスマホに電話がかかってくる。
電話の相手を確認した後、僕は入浴中の春野に会話が聞かれないようにベランダに出てから電話に出る。
「やっほーー!生きてるーー?|お兄ちゃん!苺耶が遊べなくて拗ねてる」
「何言っているの苺凪。私、拗ねてないよ!」
「嘘はダメだよ。昨日、チェスで玲兄、ボコボコにしてたじゃん!あの後、その腹いせに私がバスケでボコボコにされたんだけど」
「そんなことは知りません。玲兄さんに言ってください」
「だってさ、お兄ちゃん」
「さらりと僕に流すな」
僕は呆れたように言う。
電話をかけてきたのは双子の妹、苺凪と苺耶だった。
容姿はほぼ一緒の二人だが、苺凪は天真爛漫な性格で、苺耶が冷静沈着な性格もあり、判断はつきやすい。
「それで、苺凪と苺耶は互いの演技を続けるのかい?話す時に意識しないといけなくて面倒だから、僕としてはやめて欲しいかな」
「嘘、お兄ちゃんも気付いた・・・・・・」
「ほら、言った通りになった。お父さんとお母さんが分かるんだから、弓弦兄さんも気がつくよ」
電話越しから苺凪の悔しがる声と苺耶の勝ち誇ったような声が聞こえてくる。
苺凪と苺耶は、よく互いのことを演じて入れ替わったことに気がつくかを試してくる。
キッカケは、幼い頃に入れ替わりをして両親と僕以外が気が付かなかったことが始まりだった。
最初は軽い遊びでやったが、誰も気が付かなく大人の人も気が付かなかったことから、人間の闇みたいなのを見てしまい以降、二人の中で本当に信頼できる人を確認するためによく入れ替わるようになった。
二人の明確な違いは性格なのだが、二人はとても仲が良く互いのことを深く理解しているため、真反対の性格でもほぼ完璧に演じることができる。
そのため、本気で入れ替えをすれば見破れる人は殆どいない。
実際に、玲が指摘するまで1週間以上学校内で入れ替わって生活したこともある。
こんな感じで2人を見分けらるのか場所と時間を問わずに唐突にやってくる。
僕の観察力や春野の服選びの直感といったことは、これで鍛えられたところも大きい。
因みに精度で言うと、父と母はどんな状況であっても間違えない。
僕は、酷く疲労している状態にやられるとたまに間違える。
祖父と祖母が2割ぐらいの確率で間違える。
そして弟の玲は、意識してないと五分五分と言った感じで、他は壊滅的である。
なお、よく間違える人や玲のように適度に間違える人については間違えられてもそこまで怒らないのだが、父と母のように絶対に間違わないわけでもないかつ、正答率が非常に高い僕や祖父母が間違えるとメチャクチャ怒る。
そのため、この入れ替わりのやつで1番の被害を被っているのは僕と祖父母だ。
「次はおじいちゃんとおばあちゃんにやろう」
「うん、そうだね」
次ならターゲットに指定された祖父母が気がつくことを心の底から祈る。
「それで電話をかけてきた目的は達成出来たのかな?長時間は通話できないから、他に要件があるなら早めにいってね」
本来ならゆっくり喋りたいのだが、苺凪たちに春野と一緒に暮らしていると言うか、異性と一緒に暮らしていることを悟らせたくなかった。
別にバレてもすぐにヤバいことになるわけではないが、苺凪は詰めが甘いところがあり、うっかりこのことを家族以外に喋る可能性がある。
そうなると僕が裏から手を回さないといけなくなる。
現在は、学校の連休の工作から始まり、いじめの対応、不意な遭遇を避けるための調査、春野への仕掛けなど表裏どちらでもやる事が多くある。
その上で苺凪達の情報漏洩対策までするなど、高校一年生がやれることの範囲を超えている。
それに明日からは本格的なイジメへの対応が始まる。
「つれないなーー、お兄ちゃん。そんなに忙しいんだ」
苺凪が若干含みがある言い方をしてくる。
苺凪は感が鋭いため、僕がただの面倒ごとに巻き込まれているわけではないと薄々察しているのだろう。
「そうだよ。マジで忙しい。苺凪も苺耶も僕が運が悪いのは分かっているだろ?察しろ」
僕は下手に隠すことなく苺凪の考えをある程度肯定するような言い方をする。
こうすることで、相手からは自分の推察があっていると思い、油断してくれると共に、察しろと言うことでそちらが想像できることだと思わせることで追求はこなくなる。
事実、苺凪は満足したのか追求してこない。
「苺凪、弓弦兄さんも忙しいようだから本命に行こ」
「そうだね!」
そうして、苺凪たちは本題を切り出す。
「お兄ちゃん、いつ家に帰ってくるの?」




