第四十八話 佐紀先輩
春野の家から出た僕は、そのまま学校に向かうというわけでなく、最寄駅に向かった。
ここで僕は雄大先輩と待ち合わせの予定をしていた。
(そろそろなんだけどな)
そう思っていると、雄大先輩の姿が見えるが表情は非常に硬かった。
その原因は雄大先輩の後ろを和かな表情で歩く佐紀先輩の存在だった。
「雄大先輩、佐紀先輩、おはようございます」
「お、おはよう」
「おはようございます。弓弦君」
雄大先輩は佐紀先輩の存在に怯えているか元気がない挨拶で、佐紀先輩は品性を感じられらような丁寧な挨拶をしてくれる。
挨拶を済ませた僕は、早速聞かないといけないことを聞く。
「今回、呼んだのは雄大先輩だけなのですが佐紀先輩がどうしてここにいらっしゃるのですか?」
今回の作戦は雄大先輩がいれば十分だ。佐紀先輩がいて困るというこもはないが、相手をオーバーキルする理由もない。
「まずは確認したいことがあるので、そちらの方を先に聞いていいですか?」
「全く構いませんよ」
完全に仕事モードに入った佐紀先輩は硬い口調で聞いてくる。
こうなっなら学校の先輩と後輩といった感じでのやり取りではなく、仕事をするといった対等な立場での話し合いに変わる。
「雄大から作成の内容は聞きました。今回は、いじめの主犯達を確実に追い込む為に、いじめの主犯の1人である、藤井智子さんを裏切らせる為の交渉をするであっていますか?」
「はい、その考えであっています」
佐紀先輩の質問に一切の迷いなく答える。
僕が反撃のために最初にとった手は、内通者、つまり裏切り者を作ることだった。
今回の件では余計な暴発は出来うる限り防がないといけない。
そのため、こちらの攻撃に関して、相手がどうなっているのか知ることは暴発の可能性を大きく下げる上で非常に重要なことであった。
その他にも、相手を騙すなど色々と役割があり、反撃をスムーズに行う為にも、今回の前哨戦はかなり大切なものになってくる。
「これは椿君が考えたでいいですか?」
「はい、そうです」
佐紀先輩が疑うように聞いてくるので、何かやらかしてしまったのかと心配する。
「嘘はついていないようですね」
「だろ!俺が弓弦君に強要するわけないじゃないか!」
佐紀先輩の言葉に雄大先輩は安堵したかの表情をする。
「どういうことですか?」
「今回の作戦、やり方自体は椿君らしい詐欺師のようなやり方なんですが、求めようとしている結果だけは雄大のような理想を求めていたので、雄大がまた何かやらかしたのかなと思って聞きました」
「な、なるほど」
(みんなは僕のことを詐欺師だと思っているのか?)
ここ最近、よく聞く言葉なので少しだけ心配してしまう。
「まあ、佐紀先輩が疑うのも分かります。いつも最高の結果は雄大先輩がやってくれていたので、僕は援護をするだけでしたから。機会がなかっただけで、僕も雄大先輩とあまり変わりません。どうしようもなく最高の結果を求めてしまう」
「そのようですね。今の弓弦君、雄大と同じようにたまらなそうですから」
誇らしげにこちらを見る佐紀先輩、雄大先輩と一緒にいるだけあって、こういうことには理解がある。
「それと今回私が来た理由ですが、女子一人に男子二人が押し掛けるのは配慮が足りないと思いませんか?」
「……」
完全に忘れていた。
「椿君はしっかりと対策を用意して問題なく進めることを重視しますが、たまにそれに固執し過ぎてこういった配慮を忘れる事があります。これからしっかり注意してくださいね」
「はい、今回はこちらのカバーをして頂きありがとうございます」
こういった些細な配慮も物事を上手く進めるのに大切だ。今後、このようなミスをしないようにしっかりと心の中にとどめておく。
「伝えることは伝えたし、行こうじゃないか」
「そうですね、雄大先輩」
当初の予定とはちょっと人数が増えたが、問題がないどころかプラスなので全く問題がない。
そうした僕たちは電車に乗り込む。
時間帯はピーク時間を過ぎていることもあり、僕たちは無事に椅子に座ることができた。
「弓弦君、一つ聞きたいことがあるけどいいかな?」
「いいですよ」
電車を降りるまでそこそこの時間があるので、大抵の事は答えらえるだろう。
「どうして藤井君なんだ?」
「私もそれは気になっていました」
裏切りをさせる上で誰を裏切らせるのか、それは非常に重要なことになってくる。
「理由に関しては、昨日の送られてきた説明で理解はしているが、少々簡潔過ぎたからね。ここで細かいことを聞いていいかな?」
(まあ、あれだけだと納得するまではいかないよな)
藤井智子を選んだ理由には色々あるが、文では説明しきれない所もあったため、この流れは必然であった。
そうして雄大先輩は僕に問う。
「藤井君は、唯一、ラインを超えたいじめをしたんだ、その事実だけ見るなら一番危険な人物だといえる。そんな人物を選ぶ理由を教えて欲しい」




