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第四十九話 ないなら作る

「確かに、それだけを見るなら一番危険な人物かもしれません。しかし、物事は点ではなく線で見ないと意味がない。分かっていってますよね?」

「ああ、勿論だとも」


 清々しいほどはっきりという雄大先輩に僕は苦笑いする。つまり、僕は試されているわけだ。


 無条件で協力するわけではなく、常に納得いく理由があるかどうか、しっかりと試すところは雄大先輩の格が分かるところになっている。


「先に結論だけ言うなら、藤井さんが一番抗って優しい人である可能性が高いからです」

「なるほど。弓弦君のことだから、そう考える理由もあるのだろう?」

「まあ、推測が入りますが」

「それでも構わない。どう考えているか教えてほしい」


 雄大先輩の言葉に応える形で僕は自分の考えを話し始める。


「僕が注目したのは、各出来事における藤井さんグループの変化です」


 今回のいじめは複数人で行われているが、どのような流れで始まり最終的にどうなったか。それが非常に重要になってくる。


「まず、各出来事について、はっきりと誰でも分かるほど表立って何かあったと分かる出来事は、ピアニストを決める時、赤菜さんが怪我をさせた時、本番での春野の演奏、この3つです」

「弓弦君は、始まりをピアニストを決める時、大きな変化が起きた結果が赤菜さんの怪我、終わりを春野さんの演奏と置いて、物事を考えたということだね」

「はい、その通りです」


 佐紀先輩は、この少ない情報から僕がどのように考えたのか的確に見抜いてくる。雄大先輩の右腕と言われる力は伊達ではない。


 出来事において、起承転結といった流れをしっかりと整理することが大切だ。


 今回僕は、物語の始まりを知らせる出来事、起承転結で言うなら承を、ピアニストの件、大きな変化つまり、転を赤菜さんの怪我、そして現状の作り出した結を春野の演奏として考えた。


 起承転結の出来事を置くことができたら、そうなるまでの小さな出来事を置いていく。


「次に調べて分かったことを挙げていきます。


一つ、ピアニストを決める一週間前に先生が森岡さんを始めとするクラスの中心人物にピアニストについて協力を頼んでいたこと。


二つ、春野は一週間でクラスを掌握して中心になったこと。


三つ、春野と男子側の中心人物である藤田君とは上手く棲み分けが出来ていたが、森岡さんの方では出来ていなかった。藤井さんの方はうまくやっていた。


四つ、春野がクラスの中心になるほど、藤井さんがグループとの関わりが悪化していた。


五つ、森岡さんはグループから離れている期間があった。


六つ、春野の調子が悪くなったと言われるようになった。


七つ、森岡さんがグループに戻ると同時に藤井さんはグループに関わることが無くなる。


八つ、一週間後に藤井さんが赤菜さんを傷つける。


九つ、合唱コンクール後、藤井さんは春野と同じく学校を休み続けている。


 大まかにいうなら以下の九つになります。それを先程の出来事の中に時系列順に入れると。



1、ピアニストを決める一週間前、先生が森岡さん達に協力を頼んだ。


2、ピアニストは赤菜さんが選ばれた。


3、それから一週間で春野はクラスを掌握、中心人物になる。


4、藤井さんがグループとの関わりの悪化。


5、しばらくして、森岡さんがグループから離れる。それと同時に春野の調子が悪くなる。


6、森岡さんがグループに復帰、藤井さんはグループとの関わりが無くなる。


7、藤井さんが赤菜さんを傷つける。


8、合唱コンクール後、藤井さんは休み続けている。                   


 といった感じで1から8ぐらいにまとめることができます。」


 これによって、一連の動きについて大分推察ができるような形になる。


「本当は1から順に考えた方がいいのですが、それだと時間が足りないので、今回において重要な所になる4から8の経緯について、僕の推察を話します」


 今回において説明するべきことは、藤井さんが危険な人物かもしれないと言うことだ。それ以外に関しては後でも構わない。


「まず、雄大先輩が言うような危険人物だった場合、4から6の行為が不自然です。一人でいじめるよりも複数でいじめる方がより追い込めるはずです。過激すぎて追放されたと考えても、まずグループ全体の動きが段々過激な方向へとなっていることから、最も意欲的だった人物を追放するのは非合理的です」


 これで、イジメグループの勢いが弱まる傾向にあったのならば追放の線を終えるが、調べた限りでその様子はない。ならば、追放する意味がない。


「もし、その時は行き過ぎたとして追放されたと仮定しても、7では同じ領域になりつつあったはずなので、呼び戻されているなどよりを戻そうとするはず。しかし、反対に関わりが無くなっていることからも、藤井さんが危険な人物であると考えにくい。」

「なるほど、確かに一理ある」


 雄大先輩は納得するような表情をする。


「なら、どうして彼女があのよう行為をしたんだい?」

「藤井智子はいじめは反対側だったが、イジメる側の事情も分かっていた。その板挟みにあっていた。そう考えると4から8の行為について説明はつきます」


 これならば、いじめグループとの関係が悪化することも分かるし、過激になっていくほど関係が無くなるのも説明がつく。


「そして彼女は、決断をしなければ親友と春野、両方を失うような状況に陥り、親友を選択して春野を切り捨てた。その後、罪の意識に耐えることができずに家に引きこもった。それなら、現状にも説明がつく。」

「説明はつくけど、随分と弓弦君らしくない人を信じた理想的な仮説を立てるね」


 雄大先輩は僕の仮説に理解を示すが、それと同時に痛い所を突いてくる。


「確かに、危険人物ではない可能性は高いだろうが、そこまで立派な人間だという可能性は低いんじゃないか?例えば、本当は自分の手を汚すのが嫌で離れていたけど、自分の立場がなくなりそうだから、凶行をして、その後切り捨てられた。それでも説明はつくよね」

「……そうですね」


 その可能性も全然ある。


 むしろ、こちらの方が現実的まである。


 現実は残酷だ。人は他人の為に多くを犠牲にしようとは思う人は全然いない。僕や雄大先輩の考えの方が圧倒的に少数派なのだ。


 雄大先輩のように流されるままにやってしまった。そんな可能性だって全然ある。


「それに、弓弦君の仮説通りに考えるとしても藤井君は親友だからという理由でいじめ側を助け、クラスの為に頑張っていた春野君を切り捨てた。そんな人物が優しい人とは言わないんじゃないかな?」


 雄大先輩の言葉で思い出すのは、ここ一週間の春野の姿だった。


 なんだかんだ言いながら、しっかりと借りた恩は返そうとするし、気が使えて、負けず嫌い、責任感も強くて、純粋だ。


 だけど、趣味などはなく何もなく空っぽで、才能に振り回されて、人を傷つけた責任を人一倍感じ、押し潰され苦しんでいる。


 そんな春野を親友の為に切り捨てた藤井さんが優しい人だと言っていいのか。


 僕は少しの沈黙の後自分の答えを言う。


「人は完璧ではありませんから、誰だって間違えをする。優しい人でも間違えることはある。だからこそ、その間違いを教え、反省するチャンスがあってもいいと僕は思います」


 結局は、これも理不尽みたいなものだ。それにどうこう言うつもりはない。


「まあ、僕的には予測が外れていても当たっていてもどちらでも構いませんがね」

「うん?それはどういう意味なんだ?」


 僕の言葉に雄大先輩と佐紀先輩は不思議そうな表情をする。


「僕は理想を叶える。その為なら、たとえ屑と言われるような人でも色々と滅茶苦茶やって、優しい人に更生させます。作戦を見たなら分かっているでしょう。僕は詐欺師のように相手を追い込み、罪を認識させ、優しい人でしか救いの道がないように思わせ、理想を叶える。」


 そう、僕は藤井智子がどのような人物のであろうとも関係ない、本当に優しい人物ならその気持ちを最大限救えるように動くし、もし雄大先輩のような屑な人間なら強引に理想的な人物に変える。


 どちらになっても僕はいい。だってたどり着く結末は変わらない。理想の人物でないなら。理想の人物に仕立て上げればいいだけだ。


「雄大先輩、僕は自分勝手で理想を追いかけ続ける悪い人ですよ」


 僕は先程の雄大先輩のように清々しい表情で言い切る。


「ないなら作り上げる。やっぱり弓弦君は最高だな」


 雄大先輩は随分と楽しそうな表情をしている。それに対して佐紀先輩は顔に手を当てている。


「はあ、弓弦君まで雄大の影響を受けてしまった」

「受けていません、元からです」

「弓弦君……?」

「……何でもないです」


 佐紀先輩の押しつぶされそうなほどの思い圧に屈して、即座に自分の意見を変える。


(死ぬかと思った)


 そんな話をしていると、藤井さんの家の最寄り駅についた。


 

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