第百八話 京都旅行①
「和菓子を食べていたらあっという間だったね」
「そうね」
春野はボソリと答える。
時間としては30分程度だったが、体感10分程度に感じた。
春野は和菓子を食べる時に作る為かとても味わいながら食べていた為、僕よりも体感時間は短かったことだろう。
(集中して食べてるから話しかけれなかったけど、料理に対する春野の努力を見れたからいいや)
何かしら会話が出来なかったことは残念だが、春野の料理に対する真っ直ぐな姿勢はとても美しいと見惚れるものだった。
そうして僕たちは駅から見える京都タワーを見ながら、ホームに出ていく。
「さて、どこから行こうか」
「決めてなかったの?」
「ああ、これは僕だけの旅行じゃないからね。春野と一緒に決めていきたいんだ」
そう言って春野に地図を見せる。
「どこに行こうか?金閣寺に清水寺、近くなら東寺もある。伏見稲荷大社も良さそうだね」
「・・・・・・私はどこでもいいと思っていることぐらい分かっているのでしょう?勝手に決めていいわよ」
春野は地図から目を逸らす。
春野的には僕のやりたいことをしてほしいとお願いしている立場もあり、僕が決めた所に連れ回される事を前提に考えていたのだろう。
春野の言葉を聞いて、僕は持っていた地図をしまう。
「やっぱり、行きたいところ決まっていたのね」
僕が考えるそぶりもなく地図をしまったこと、そして僕に嵌められたことから、なにかしら考えている人物だとでも思っていることもあってか、春野は僕に代案があると考え、最初からそうすればよかったと冷たく言い放つ。
(僕のことを少しは考えてくれたてるんだね)
少なくとも地図をしまっただけで、この結論は出てこない。
僕の性格などが多少考慮されているのだろう。
つまりは、春野は多少なりとも僕のことを見てくれていることが分かる。
その事実に口元を少し緩ませながら、地図をバックの中に入れる。
(しかし、僕を過大評価し過ぎてるね)
僕はバックを持つと春野の方を見る。
「どこに行こうなんて決めてないよ」
「・・・・・・」
僕は、いい感じの案を思いつくほど頭は良くはない。
いつもいつも分からないこと、出来ないことばかりである。
「なら、どうして地図をしまったの」
「行き当たりばったりの観光をするのに地図はいらないからだよ」
僕は諦めが悪く愚直な人物で我儘、分からないのなら出来ないのなら、分かるように出来るように必死に頑張るだけである。
春野の自殺をどうすればいいのか分からず、取り敢えず時間を稼ぐために強引に家に居座ったり、楽しいことを教えると言っても、春野がすぐに楽しめるようなものが思いつかなくて数打てば当たる戦法で色々なことを試す。
今回も同じ、どこでもいいとつまらなそうに答える春野を上手く楽しませるような案を思いつかなかった。
だから、運に任せることにした。思うがままに進んで、色んなことを経験する、そうすれば興味を惹かれるものに出会えるかもしれないし、いい出会いがあるかもしれない。
とにかく進んでチャレンジをしよう。
どうなるのか2人とも何もわからないからこそ同じ感覚で楽しめる。
「さて、前、後、右、左どちらに進もう。それともルーレットで決める?」
「・・・・・・東西南北で進む方向をいいなさい。もう高校生でしょ」
こちらの考えを察したのか春野はこちらに辛く当たりながら呆れたようにため息をする。
「椿君は、頭のねじがよく外れるから面倒だわ」
「誉め言葉として受け取っておこう」
「そういう所があるから、友達がいないのよ」
春野の言葉に僕は雷に打たれたように固まる。
「友達はいるよ」
「親密ではないようだけど」
「友達に関係の深さは関係ない」
「椿君はそうかもしれないけど、他の人はどうなのかしらね。やっぱり距離感とか必要だと思うのだけれど、椿君はそこら辺はどうお考えなのか知りたいわ」
「そ、そ、それは、あれ、あれだよ。臨機応変と言うやつだよ」
「困ったらいつも臨機応変っていうわね」
「そ、そそそそそそうかな」
「声が震えているわよ、大丈夫?」
春野はわざとらしくこちらを心配する。
こちらの浅はかな考えを的確に打ち抜いた攻撃が僕にクリーンヒットだった。
心がグサリと刺されるような感覚に襲われてメンタルはボロボロだ。
「だい……じょうぶ」
「そう、それは良かったわ。まだ聞きたいことがあったから」
「え……」
そう言って春野は嗜虐的な笑みをこちらに向ける。
「強引に同居することもそうだし、急に旅をしようとすることもそうなのだけど、椿君の提案に付き合わされるのそれなりに大変なのだけど、そこら辺どう考えているか教えてくれないかしら。」
「グフ……」
強力なストレートパンチが僕の腹に直撃する。
(結構、かなり、超気にしていたことを言わないでほしいなーーーーーーー)
僕だって常識ぐらいはある。
自殺を妨害するという理由があるからといって、年頃の異性と半ば脅しのように一緒に暮らすという展開がヤバいことぐらいは理解しているし、今回の旅だって中々に頭の吹っ飛んだものだと言うことも分かっている。
それに付き合わされている春野が辛いとか大変だとか思っていないのか、表面には出さないがかなり気にしている。
僕だって好きで相手の不機嫌にさせるようなことはしていないのだ。
「こ、これも臨機応変だよ。時には常識に囚われないこともいい結果を出すためには必要な事だから」
「また、臨機応変ね。まあ、結果的に上手くいっているから間違っているとは言い切れないわね」
「だろう」
春野の言葉に僕は少しだけ立ち直る。
世の中、結果が出ていればある程度の事は必要な事だったと許されるのだ。
結果良ければすべて良しと言うからね。
「それでも椿君に付き合うのは大変なのも事実だし、周りからもそう思われているのではないのかしら」
「そんなことはないはずだよ……」
「ふーん、そうなの。これは私の偏見かもしれないけれど、二週間も家に帰らなく学校もそれなりに休んでいるなら、それなりに対応に苦慮しそうなものだけど、椿君がその対応に追われている所をみていないのだけど、どうしているのかしら」
「……」
『寧ろお兄ちゃんがいなくなって広々やってる』
『当分帰ってこないなら、お兄ちゃんの部屋を私達の部屋にしようかなと思って』
『弓弦なら何とかなるな』
僕が休んでも急にいなくなっても大丈夫のように準備はしていた。だからこそ、ここ二週間の記憶を全力で振返っても、春野の言ったことに対して苦労したという記憶はほとんどない。
これは現状においてはいい展開である。
僕が好きに時間を使っても、他の人にあまり迷惑を掛けていない事なのだから。
「みんな優秀で優しいからね。僕の事を尊重してくれている」
「いい人たちに囲まれていてよかったわね」
「そうだね」
何とも言えない虚無感が襲ってくる。
京都について早々、僕のヒットポイントは0になった。
壊れたロボットのようになった僕を見て、春野は満足したのか先程しまった地図を要求してきた。
「あ、これ地図です」
「ありがとう」
そうして地図を少しだけ眺めた春野は持ってきたカバンの中に地図をしまう。
(僕の地図……)
春野にさらっと地図を奪われたが、コテンパンに叩きのめされた僕には眺める事しかできなかった。
「取り敢えず、南下していきましょうか」
「あ、はい。分かりました」
メンタルブレイクさせられた状態から、僕たちの京都旅行は始まった。




