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巨頭オ 其の1


ガシャン!!

ゴガ!!

バリン!!


視界がガクガクと大きく揺れて、我々の車は歩道に乗り上げ、更にその向こうの草むらにまで吹き飛ばされる。

草むらは堤防や崖と呼ぶ程ではないが、なだらかな下り坂になっており、バキバキと車体が悲鳴を上げながら、中にいる私達を翻弄しながら下って行く。

最後にドスン!と大きな衝撃があり、ようやく車が止まった事を悟る。


「ふ…ぐ…皆、無事かね…?」




〜巨頭オ〜




不幸中の幸いだったのは、私以外の2人はシートベルトをしたままだった為、怪我らしい怪我は見当たらなかった。

私はと言うと、揺られた拍子に顔をしこたま打ち付け鼻血が出た程度だったのでまぁ良しとしよう。


「部長こそ…大丈夫ですかそれ?」

「大丈夫だ、ちょっと鼻血が出ただけであるよ、見た目が少々不格好なだけだよ」

「使ってください」


そう言って千影君が綺麗なハンカチを渡してくれる。

汚すのは申し訳ないが、今は遠慮なく使わせてもらおう。


「何があったんですか?」

「どうも追突されたみたいだね…」

「事故ですね…参ったな…レンタカーなのに」

「まずは警察に…」

「ちょっと…待ってくださいよ…相手!相手の車は!?」


景君の叫びで私も坂の上を見上げる。

が、そこに我々に追突したであろう車の姿は無かった。


「まさか…当て逃げ…」

「うっそだろ…ちょっと俺見てきます…」

「…気をつけ給えよ」


雨足は先程よりは弱まっていたが、依然降り続いている。

景君が泥濘んだ地面に足を取られながらも事故現場を見に行き……なんとも苦々しい表情でこちらに戻って来る。


「逃げてますね…」

「なんという…」

「事故った場所に車の破片はあったんですが…見渡しても相手の車はなかったです…」

「気付かなかったなんて事はないだろうしね…」

「さすがにないですね…俺達みたいにどこかに落ちたのかとも思いましたけど、それらしい形跡もなかったですね…」

「……何にせよそれも含めて警察に…」


スマホを取り出した千影君がそこでフリーズする。


「どうしたのかね?」

「電波…ここ電波がありません…」

「そんな馬鹿な、そんな山奥にいるわけでもなし…」


自分のスマホを確認してみるも、そこには無情にも『圏外』の二文字が表示されている。


「これ…俺…嫌な予感しかしないんですけど…」

「奇遇だね、私もだよ」

「ちなみにカーナビは…壊れてしまってますね…」


そもそも我々は今現在どこにいるのかすら把握できていない。

如何に我々にとってスマホが必須になっているのかを痛感する。


「雨は小降りになってきてますし…道路まで行って誰かが通るのを待ちますか?」

「うむ…それが現実的ではあるね…」

「じゃあ俺が上に行くんでお二人は警察に繋がらないか試しといてもらっていいですか?」

「そんな景君だけに…」

「千影さんが風邪でもひいたらどうすんですか、部長の鼻血も心配ですしね」


そう言って景君が道路まで上がり、キョロキョロと辺りを見回している。

ここから見上げてもその姿は目視できる位置にいてくれるのではぐれる心配は無いと思いたい。



…………あっという間に1時間が経過する。

さすがに音を上げた景君が車まで戻って来る。


「駄目かね?」

「駄目ですね、スマホも繋がらないですし」

「こちらもだよ」

「こんなに誰も通らない事ありますかね?」

「そこまで山奥ってわけでもないし…普通なら考えにくいね」

「そもそも高速に乗ってしまったとは言え…とんでもない距離を走ったわけでは無いと思うのですが…」

「ですよね…」


気分が滅入りそうになる。

どうにもこうにも悪い方向に向かっている予感しかしない。

1つ良い事があったとすれば、さっきまでの雨はスッカリ止んでくれた事だ。


「雨が止んだのは良かったけれど…」

「霧が出そうですね…」


千影君が言うように辺りには薄靄(うすもや)がかかっている。

このまま時間が経つと霧になり視界も悪くなりそうだ。


「少し歩いてみようか…?」

「そうですね…」

「危険じゃないでしょうか?嫌な予感が…」

「俺も嫌な予感はビシビシ感じますけど…このままじゃ何も解決しないような気もしますね…」

「まぁ…そんなに離れないように…明るいうちにね、少しだけ」

「そうか…暗くなったらヤバいんだ…」

「いやまぁ私の鞄には超高輝度の懐中電灯もあるから真っ暗闇になる事はないだろうが」

「超高輝度って…普通の懐中電灯と違うんですか?」

「そうだね、スマホのライト程度の手元や足元照らす物は50〜100ルーメンなんだが」

「ルーメン…?」

「明るさを表す単位と思って貰っていいよ」

「なるほど」

「私の持っている物はなんと…10000ルーメンだ!」

「それは凄そうですね!」

「大学の講堂を丸々照らせるくらいの光量だ!………ただ明るすぎて手元とか近くの物が見えないという欠点もあるね」

「なんですかそれ…」

「近くが眩しすぎるんだよ…」

「使えるんだか使えないんだか…」


呆れる2人をまぁまぁと宥めながら、我々は車を出て歩き出す。


「すみません、私がピクニックになどと…」

「何言ってるんですか、やめてくださいよ」

「でも…きさらぎ駅の時も…」

「それを言うならこっちこそすまないだ」

「え…?」

「お弁当のリクエストまでして、目的地も確認せずに適当に運転して…」

「部長…それは俺にも響くんでやめてください」

「じゃあ景君も同罪であるな」

「違いないです」

「……ふふ、ありがとうございます」


道路に沿って道を進む。

すっかり霧に包まれて、視界は非常に悪くなってしまっている。

次第に進む道は悪くなり、更に細くなり、いくつかに枝分かれしている。


「どっち行きます?」

「そうだねぇ…」

「部長、あそこに看板が」


千影君が指さした方向を見ると、今にも朽ちそうな看板が立てられている。

国や市が設置しているような物ではなく、明らかに一般人のお手製のような簡素な物だった。


「お、どれどれ」


近付いてその看板の文字を見た瞬間に私と千影君は同時に目を剥いた。

景君だけがよく分からないという表情を浮かべながら、看板に書かれた文字を読み上げる。


「………」

「………」

「なんですかねこれ、巨…巨頭オ?」

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