第九話 道中急襲
街道と言う名のあぜ道が徐々に上り坂になっていく。
ライラが顔を上げると道はまだまだ続いており、終わりが見えるようには見えない。
後ろを振り返るとリアとマリーは杖で体を支えつつ一歩一歩歩いてきているが、カンナが少し遅れているようだ。
(ここで休憩を取ろうかしら……)
ライラが今いる場所は少しだけ平坦になっている。
休むには丁度いいだろう。
「カンナ、リア、マリー。 ここで休憩にしましょう。 ここまで頑張って!」
先程カンナに背負うか聞いたら「王子がそんな真似できません!」と突っぱねられていた。
ライラとしては背負いたくてうずうずしてたのだが……。
三人が来るまで、ライラは手早くお湯を沸かして飲み物を準備する。
少しずつ寒くなってきているし、暖かい飲み物を飲めば少しは元気が出るだろう。
お湯の中に茶葉を入れて濾す……四人分のカップに注いでいくと、暖かな湯気と共に、美味しそうな紅茶の匂いが広がる。
紅茶はお茶より温度低めのお湯が良い、おかげで素早く準備するのに便利だ。
さすがに抽出時間までは長く取れないが……。
ビスケット数枚を準備して紅茶のカップに掛ける。
このビスケットは面白い形をしていて、カップに引っ掛けられるように窪みが付いているのだ。
そうこうしていると、リア、マリー、カンナの順にたどり着き……膝をついて息絶え絶えとなっていた。
「はい、どうぞ」
ライラがみんなにカップを渡していく。
「あ、ありが……とう」
カンナは荒い呼吸の合間を縫ってお礼を伝え、
「……ありがとうですわ」
「ありがとう……ライラ姉」
いつもは厳しい二人もさすがにお礼を言ってきた。
(いつもこうなら二人ともいい子なんだけどなぁ……)
ライラの想いが顔に出ていたのか、
「お礼を言っただけで気色悪い顔をしないで下さいまし」
「そうだね……変態みたい」
(……前言撤回だわ)
ライラも紅茶を含みつつビスケットを齧る。
そうしながら道の先を見ていると……。
(う~ん、良くないなぁ……)
霧が出始めている……霧は方向を見失わせたり危険を発見しにくくすると同時に、体を濡らし冷やしてしまう。
まだ夕方まで時間はあるが、このまま進むのは良策には見えない。
「ねぇ、マリー。 貴方天気が分かる魔法とかある?」
「……そんなのあるわけないじゃないか。 魔法を何だと思っているの?」
「そ、そっか。 ごめん」
魔法をバカにした訳じゃないが、マリーの気に障ってしまったらしい……。
しかしそんな私に言い過ぎたと思ったのか、
「天気とか……自然を変化させる魔法はあるかもしれないけど、かなり大掛かりな魔法だと思う。 悪いけど僕はそこまでできない」
そっぽを向きながらそんなことを言ってきた。
どちらにしても駄目そうだ……。
(やっぱり今日はここで野宿かなぁ?)
そう考えている私の耳に、かすかに馬の駆ける音が聞こえてきた……しかも数頭いるようだ。
私は人より耳が良く、こういう危険察知に秀でている。
「リア、マリー。 戦闘準備」
リアとマリーは何も言わず立ち上がり杖を構える。
二人の耳には何も聞こえていないかもしれないが、こういった時の私の事は信じてくれているようだ。
この先は雪深き道となり、テッセンへ向かう道となる……そこへ馬でやってくる人は商人ぐらいである。
しかしそれならば馬数頭で全力で駆けてくるような体力の使い方はしないだろう。
つまり、私達の追っ手と見るべきと感じる。
坂道を馬で駆けあがってくる姿が見え始めた……あちらもこちらを視界に捉えたらしく、何事か叫んでいる。
(やっぱり狙いは私達か……)
私はみんなの前に出て剣を抜いた。
数は……結構多い、十数人という所か。
「僕が数を減らすよ」
ライラの横に並んだマリーが杖を構える。
どんどん近付いてくるが魔法の射程圏外なのか動かない。
そして距離が縮まり追手が抜剣した瞬間、
「『岩壁』」
追手たちの前に岩の壁が地面からそそり立つ!
ヒヒーン!!
急に出て来た岩に激突する者や、足を取られて馬ごと転倒する者、落馬する者……と半数近くがその数を減らす。
そうしつつも岩壁を抜け出した奴が急速に迫る!
私も駆け出してそいつに相対する!
「やりやがったな!」
先頭の男が馬上から剣を振り下ろしてきた!!
「華月流 双刃葵」
男の剣を剣で器用に受け流し……乗っている馬の首に剣が食い込む!!
と、同時に翻した剣で相手の太ももを切り裂いた!
ヒヒン!!
首を斬られた馬が二足に立ち上がり……そのまま転倒する!
足を斬られた男もそのまま落馬して地面に倒れた。
「おのれ!!」
「よくも!」
更に二人が岩壁を抜けてきた!
「『雷撃』」
ライラの横を雷が通り、二人のうち一人に命中する!!
「がぁはぁ!」
そのまま男は落馬し、馬は驚いて逃げていってしまった。
もう一人は私に襲い掛かってきたものの、先程の男同様に「双刃葵」で切り伏せてやった。
そうして数十人で来た割には、バラけて襲って来てくれた為各個撃破することが出来た。
そして……最後の一頭がゆったりと走って来た。
(こいつは……雑魚じゃないわね)
馬の走らせ方……構え、落ち着き方。
他のやつらとは違う雰囲気が出ている。
「ネーブル男爵!」
ライラの後ろからリアの驚いたような声がする。
名前を呼ばれたネーブル男爵はリアを……そしてライラ達をみるとニヤリとした。
「王女様達に名前を憶えて頂けているとは光栄ですね」
すみません……私は全く覚えておりませんでした。
「悪いけど、僕は君を知らないな」
マリーは正直者らしい。
ネーブル男爵は眉一つ動かさず、それどころか笑みを浮かべる。
「それはそれは……では、本日より覚えて頂くと致しましょう」
そう告げると剣を抜き放った!
(しかし……なぜ男爵が? そもそもカンナ王子とは結婚できないだろうに……)
「待って! 貴方何をしに私達のところに?」
私の問いに、
「もちろんカンナ王子をもらい受ける為ですよ」
「でも、貴方男でしょう? 結婚出来るわけがないでしょうに!」
どうやって結婚するというのか? もしかしてネーブル男爵は女なのだろうか?
そんな私にマリーが呆れたような声を出して、
「ライラ姉、それだけじゃないんだよ? 王子を売る事だってできる。 例えば……他国とかにね?」
マリーの鋭い目がネーブル男爵を貫く。
「……ほう、頭の良い人は嫌いではないのですが……残念です」
やれやれとばかりに頭を振る。
「下手に知り過ぎるのも困るものですよ。 城の中で籠の鳥となっていれば良かったものを……」
そうして馬上で大仰に手を広げると、
「素直に王子を渡せば命は助けようかと思っておりましたが……これもやむなし」
その言葉と共に馬を走らせて襲ってきた!!
お読み下さりありがとうございます。
まだ書き始めの方にはなりますので、色々ぶれているところもあるかもしれませんが
暖かく見守っていただけますと幸いです。
まだまだ新参者ですが宜しくお願いいたします。