第二百五十八話 エピローグ
爽やかな風が私の頬を撫でて流れていく。
風に乱された髪を軽く手で撫で付け私は少し目を細める。
暖かな日差しに照らされ、遠くの方まで広い景色が見えていた。
魔王、そして魔神を倒した私達がストケシア王国に戻ると、戦いは収まっていた。
なんでもいきなり全ての魔族が消えたとのことで……恐らく魔王を倒して、勇者との輪廻を断った時点で魔族達は消えたのだろう。
ヘラも『リセットしないと』とか言ってたし……。
それでも戦火の傷跡は深く……ストケシア連合軍はほぼ壊滅していた。
テッセン国軍はダリア一人以外は全滅。
ダリアの四人の仲間達も全て駄目だったそうだ……。
私達の姿を見た彼は、泣き笑いの表情で『終わったんですね……』そう呟くと、その場に崩れ落ちて号泣していた。
スノーフレークの兵達はシルベル女王によって守られた為か半数が無事ではあったが……シルベル女王はその引き換えに命を落としていた。
シルベル女王の最後はハルナ女王が看取ったそうだ。
ハルナ女王が『お茶会……しようと言いましたのに……』そう言って抱きかかえたシルベル女王に涙を落としていたという事だった。
クレアも連れて来た騎兵隊を全て失ったが『ライラお姉さまの帰る場所は守りました。 ……お二人でお幸せに』そう告げて私達に会わず国へと戻って行ったそうだ。
カエデとスミレ、そしてソニアは城を出た所で合流したが、ストケシアに戻るなり挨拶もそこそこにみんな戻って行った。
カエデは『ライラ殿の事もあります故、傷心を忘れるぐらい国の政に打ち込むでござるよ』と寂しそうに告げて国に戻り、スミレは『修行の旅に出て桜花流を世界一の剣技にする』そういって旅に出た。
ソニアはシルベル女王の件で元気をなくしたハルナ女王を支えるようにして戻って行ったのだった。
あれから二年が過ぎようとしている。
各国のみんなとはたまに手紙をやり取りするぐらいとなっていた。
いつかはまた会いに行きたいけど、今はまだどこも落ち着いてないみたい……
会いに行ったらこれ以上ない感謝の言葉を伝えたい
私は城のバルコニーから遠くの山々に目を向ける。
遠くにブルースター霊峰が見え、その山頂を雲に隠されていた。
二年前はあそこにも登っていたのよねぇ……懐かしいわ
もう旅には出ていないが、あの時の事は色あせず思い出せる。
手作りソリで山頂から下って……カンナは気絶するわ、二人には怒られるわと散々だったわね
懐かしさから思わず笑みが零れた。
そんな私の足に小さな手が触れる。
足元に目を向けると、小さなつぶらな瞳が私を見上げていた。
「ママ~どうちたの?」
「ううん、何でもないわよ~」
私は足元に立つ我が子を持ち上げて抱っこする。
たちまち甘えたような笑顔を見せ、私の胸に顔をうずめた。
「あ、ライラ。 ここにいたの?」
今度は背後から声が掛かり……振り向かなくてもわかる愛しい声。
カンナは私の隣に並ぶと……残念ながら身長は私の方がまだ高い。
少し屈んであげてカンナにキスをした。
「やー、ママはわたちの!」
「えー」
私の腕の中で不満そうな声を上げた私達の子。
たちまちカンナが情けないような、寂しそうな顔をする。
「はいはい、あんまりパパをいじめないのよ」
「ぶー」
「ほら、パパにも仲直りのちゅーしてあげて」
素直にカンナにキスをする我が子を私とカンナが挟むように抱きしめた。
三人で遠くの景色に目を向ける。
目を向けたまま、
「リアやマリーは元気かなぁ?」
「あの二人なら大丈夫だよ。 ライラよりはしっかりしているしね」
「あら? カンナにしては意地悪ね?」
「あわわ、冗談だよ!?」
拗ねたような私の口調に慌てて取り繕う。
私はそれをみてクスッと笑った。
あの二人はこの城にはいない。
二人は二人の道へと進んで行った。
リアは聖女ミントがそうであったように世界を回って人々を助ける旅に出た。
マリーはスノーフレークに行き魔法の研究をするそうだ。
一部から女王にならないかと誘われているらしいが本人はその気はなさそうとの事。
ちなみに二人からは『カンナが幸せじゃないならいつでも奪うから覚悟しておくように!!』と何度も念押しされた。
ふふっ……奪われないようにしないとね
そして私は……え、えっと隣にいるカンナと……夫婦になった。
未だにあの言葉はトラウマなので口にし辛いが……それでもカンナと一緒になりたかった。
そして私達の子……カイナが生まれた。
まぁ何と言うか……図らずもアスター王の言った通りカンナの初めての人が妃となったと言う訳よ!
子供が生まれた時のアスター王といったら……まぁひ孫だものね
でも一か月間国を挙げてのお祭りはやりすぎだわ!! 国財の十分の一は消えたわよ! 全く!!
「寝ちゃったみたいだね」
カンナの言葉でカイナがスヤスヤ寝息を立てているのに気付いた。
「……可愛い」
可愛いもの好きの私が一番可愛いと思う。
柔らかいほっぺに安らぐ温もり。
金色の髪はカンナ譲りで……ゴワゴワの髪質は私譲り。
たまに櫛で梳いているおかげでそこまで酷くない……そのブラシはリアに貰った大切なものだ。
カイナの髪をそっと撫で、頬を触る。
儚いけど力強い命。
この宝だけは私が絶対守るわ!
そう決意する私の腰に腕が回され、
「違うよ? 二人で守る……でしょ?」
「あう! 何で分かったの?」
「ライラは顔に出やすいからね」
そう言って微笑むカンナ。
そうだ……私は一人じゃない
カンナがいて、リアがいて、マリーがいて……そして多くの人達と繋がり合い支え合って今がある
旅に出た過去も記憶も全て今に繋がっている
そして私は今、これ以上ないぐらいとても幸せだわ!
「僕もだよ、ライラ」
微笑ながらカンナが答え……また考えを読まれちゃったわ
爽やかな風が吹き抜ける……何でもない日常。
私は幸せを嚙みしめるように、カンナともう一度口づけを交わすのだった。
END
長い間お読みいただきありがとうございました。
ここまで来れたのも皆様のおかげです。
心より感謝を申し上げます。
ありがとうございました。




