第二百五十五話 毛骨悚然
今の今まで誰もいなかった……魔王が消えた場所。
場に似つかわしくない恰好の少女はそこにいた。
小柄な顔、その眉をひそめつつ口を尖らす。
「もう~なんなのですよ! あの術式組み上げるの大変なんですよ?」
一方的に怒る少女。
黒を基調としたひらひらドレス。
裾は短くミニスカートといってもいいかもしれない。
あちこちに黒いバラがあしらえてある。
そして真っ白い肌に対して髪や眼は真っ黒。
濡羽色といっていい髪はゆるふわツインテで長さは腰までもある。
そんな見た目はロリータファッションの少女。
だけど私達はそれを見た瞬間動けなくなった。
その見た目とは違う何か。
心臓を鷲掴みにされるような恐怖。
知らずうちに身体が震え思わず跪きそうになる畏怖。
舌が張り付いて言葉が出ない。
そしてそれは私の隣りにいる二人もそうで……震えが伝わってくる。
そんな私達の様子に構わず少女は一人話を続ける。
「う〜ん、まさかルールの穴を見つけて魔王を倒しちゃうなんて思わなかったですよ」
そう言いながら近付いてくる……私達は……私は息をすることも出来ない。
少しでも音を立てると殺されるイメージさえ浮かぶ。
「そ、そうか……君が最後の神」
呻くように声を出したのはマリー。
顔は真っ青で今にも倒れそうだが、マリーが声を出した事でこちらに進んでいた足を止めた。
「ふう~ん、神を知っているんですよ?」
少女の問いかけに必死に体を抑え、
「魔王も勇者も……『古のルール』に縛られていた。 ふ、二人を縛るような存在、それはもう神しか考えられない」
「正解なんですよ〜。 ヘラは魔神ヘラって言うんですよ」
そう言ってニッコリと笑う、その顔は無邪気な子供の様だ。
しかしそこには楽しさも嬉しさも何も感じられない。
それどころか、
死ぬ……殺される……
私の脳裏をそんな言葉がよぎって行く。
私は少しずつ後ろに下がりつつ二人を庇う様に移動させる。
それに気付いているか気付いていないか……ヘラは見た目だけの笑いを浮かべ、
「ヘラは魔族達を助け闇と死を管理する者。 魔族達が滅ばぬように仕組んでたんですよ?」
「っ!」
相変わらず笑みを浮かべる、しかしその目は笑っておらず瞳の中に沈む深い闇がこちらに手招きしている様な感覚に捕らわれる。
「さてと、じゃあもう一度術式を組み直さなきゃですよ! リセットするからそこの勇者には消えてもらうですよ」
横たわるカンナに向かって片手を突き出す!
「な……!」
『何を!?』という暇もなく、ヘラの手から黒い……言いようがない禍々しい物が放たれた!
ただ黒い何か……それがカンナに向かって行く!!
「カン……」
私が叫ぶ前にパチン! という音が響いた!
カンナの姿が消え私達の傍に現れる!
「あら? あらら?? もしかしてヘラの邪魔をするのですよ?」
悪戯っぽく、それでいて好奇心に溢れたような顔を見せる。
「カンナは殺させ__ 」
「だったら死んじゃえですよ」
マリーが言葉を言い終わる前に、私達四人を囲むように黒いカーテンが現れる!
「可愛い死の寝台ですよ? 『生への幕引き』」
その言葉を合図にカーテンが狭まって来る!
「『聖光障壁』」
リアが障壁を張ったが触れた瞬間、障壁が消えた!
「け、消されましたわ!」
私は手にする剣をギュっと握りしめた。
お父さん……力を貸して…………
カーテンがどんどん迫り……ヘラの見ている前で閉じられていく……。
「ばいばいですよ~~」
ヘラが立ち去ろうと後ろを向きかけ……その動きを止める。
「あら? そんな事……」
少し驚いたような声を上げた。
その黒い瞳に黒いカーテンが切断され地面にふわりと舞い落ちるのが映る。
「華月流 奥義之参 万華鏡」
ふらつく体を押さえ、必死に放った技は黒いカーテンを切り裂いた。
恐らく魔法だったハズだが……神剣デュランダルは私の願いに応えて斬り払ってくれたようだ。
だけど……もう力が……
私の手から剣が落ちて地面で跳ねる。
魔王との戦いで全力を使ったため、正真正銘今のが最後の斬撃だった。
手には力が入らず立っているのも辛い状況だった。
「リア……マリー……私が時間を稼ぐから……」
「そんな! ライラ姉様の今の状態でどの様になさるというのですか!?」
「そうだよ! ライラ姉ふらふらだし!」
私は苦しさを必死に押さえ、ここ一番の笑顔を向ける。
こう見えても……表情を隠すのはうまいんだから……
「大丈夫、私にはまだ手があるから……だからカンナをお願い」
そこまで言った時、再びヘラから黒い塊が撃ち出される!!
「危ない! マリー!!」
力の入らない体を無理矢理動かしマリーを突き飛ばす!!
そんな私の両腕を黒い塊が通過した!!
……そう、通過しただけ。
痛みもなく血も流れない。
だが私の両腕はまるで折れたかのようにプラーンとぶら下がった。
いうなれば……腕だけが死んだ……という表現が適正だろうか?
私の意に反して動かないし感覚もなかった。
「ライラ姉! よくも!! 『雷撃』」
「マリー援護しますわ! 『聖刃』」
二人の魔法が重なる様に飛んで行きヘラを直撃する!
と思われたすぐ目の前で魔法が消失した!!
「!?」
「そんな……」
ヘラは指をチッチと振ると、
「ヘラは死の神様ですよ~。 魔法だろうが何だろうが消滅できるのですよ」
「だったら広範囲に巻き込む! 『吹雪』」
ドームの中に吹雪が吹き荒れ始める!
「もう! 服が濡れたのですよ!! 『永遠の消滅』」
吹雪が一瞬で消え去った!
「いい加減うっとおしいですよ」
そうしてあの黒い塊が複数現れるとマリーに向かって放たれたのだった!




