第4王子と初回契約 1
昼下がり、春の陽気で暖かかった。
王宮内の中庭で、着飾った女性達が、優雅に話しをしてる。そのまわりで6人子どもが楽しく遊んでいた。
女性達は子ども達を微笑ましく見守っている。
「母様、この花今日咲きました。」
中でもとくに幼い子どもはきらきらとした笑顔で母親に花を手渡す。天使たちの楽園。
その光景を目にした者たちは、一様に眩しさを感じ、ほほえましい家族のひと時を遠目から拝していた。
「ありがとう。母さまたちはいつでも貴方達を見守っていますから」
「はい。母さまがた」
一人一人を抱擁し、最後に一番幼い子どもに話しかけた。
「アル様、ルーベンスお兄様の邪魔をしない様、目に入らない様にしなさい」
「はい。わかりました」
庭園に白い軍服を着た女性達が、頭を下げて待っていた。
「お預かり致します。約定通り、成人までは一人も欠けることなく御守りすることを誓います。」
これから後宮へ入り、出ることが許されない立場にある女性達は、その契約を信じるしかなかった。
新しくお輿入れする大国の皇女が、唯一の正妃になることを望んだためだった。
「母様たちに会いたいな」
「無理だな」
「うぅ」
王宮の東端の部屋。第4王子アルバートの部屋。
ここへ移ってきてから、常に侍女が付き、外では騎士が護衛している。
実母は自分を産んですぐ亡くなった。
育ててくれたのは、父の元正妃たちだった。母様達は分け隔てなく王子王女達を可愛がった。そんな母様たちにも会えなくなった。
父王は、7人いる子ども達に同じ指示を出した。
教育と臣下を持たせること。
乳母や幼馴染のいないアルバートにも、お守りとして家を継ぎそうにない子どもたちと合わせた。
たとえ継承順位が低くても王族の御学友になることは、魅力的だったらしい。ほとんどの御子息は、御学友になることを望んだ。熱心さを超えて、引くぐらいアピールする者もいた。おかしいくらいに。
逆に、ここへ連れてこられたこと意味がわからない、興味のない少年や、あえて距離を置く者もいた。
「はじめまして、僕の名は ジェスタ ハルキ クロムウェスト。国王陛下から頼まれた。君が成人になるまでのお付き合いだ。よろしく、アルバート様」
父王からの命令できたという少年 ジェスタは、完璧な臣下の礼をとった。
しかも教育係を兼ねていたようだ。
「お前、自分で何をしているのかわかってる?その容姿でさびしい、かまってちゃんアピール全開して引っかけて、いざ、かかったら怖いから捨てるって、バカだよね。子どもの喧嘩で済んでいるうちはごまかせるけど。」
男同士の刃傷沙汰は勘弁してほしい。めんどくさい。これは言葉にしなかった。
「ことはない…と思う」
全く自覚のないアルバートだが、なんの後ろ盾もなく、王宮で生きていくため、とにかく嫌われたくないという思いはある。
黒髪に琥珀の瞳を持つ少年は、理知的な目でアルバートを見据えた。
「そんでもって、見てくれない奴には落ちるまで口説く。たいした傷のないお子様な奴らには効かない手だよ。今はそういうお子様な奴だけそばにおけ。」
「口説くって、そんなことはしていない。しかもいきなり、命令口調でいろいろ言われる筋合いはない」
ないけど、怒ってもう来るなと言ってはいけないと、思った。
「国王陛下からの伝言だ。目立つな。死にたければ、勝手にすればいい、てさ。意外に気に入られているんだな。」
「どう聞いても、嫌われているようにしか思えないよ。」