公爵兄妹と解毒契約 3
兄王ルーベンスとは18歳離れている。唯一の同母兄である。
アルバートが物ごころついた頃には、母は亡くなっていた。さらに長兄は皇太子になっており、ほぼ接することはなかった。
兄王がどんな人間なのかもわからなかった。ただ、嫌われているだろうということだけは思い知らされた。
兄が即位してからここ数年、この王宮で生き延びる事が最大目標になろうとは思いもしなかった。
「また、籠っていたのですね。その様子だと、何も食べていなさそう」
クロムウェスト公爵令嬢は、王宮書庫で本を読み散らかしている少年に声をかけた。少年は地べたに座り、丸めた背を壁にもたれながら、ページを進めていた。
「ヴィラ嬢がわざわざ来るとは思わなかった」
「イスタ王妃様のお茶会参加ついでに様子を見にきただけですわ。」
クロムウェスト公爵家の第3子以降の男子は全て養子。本当の血を引く直系は第1子、第2子と第6子であるこの公爵令嬢ヴィラ。
『ヴィエレッタ フォン レガート クロムウェストでございます。お兄様からはヴィラと呼ばれております。以後お見知りおきを。』
ジェスタに紹介された同じ黒髪の少女は、気が向いたときに予告なく現れる。まるで主治医のように軽く観ると、ジェスタとともに帰っていく。
俯いているアルバートの顎に手をかけ、上を向かせた。痩せた頬、生気のない暗い光を宿すアクアブルーの目。両目の下を、引っ張って問題ないか確認する。最後にくちびるに何かを塗りつける。一気にチアノーゼのような色に変わった。
「よし、ジェスタお兄様を煩わせないで。あとできちんと食べなさいね。」
ヴィエレッターヴィラは、少し離れたところにあるテーブルに水と匂いのなさそうな食べ物を並べ、手作りの小袋を置き、去っていた。
一刻はたっただろうか。アルバートは、ゆっくりと立ち上がり、ヴィラがセットした食べ物を咀嚼した。
味はあまりなく、栄養価だけはありそうだった。
小袋から薬を一粒、水で押し流した。
王家の濃い血を持つものは、最低成人の日まで、ここを出ていくことができない。
その代わり、その日までは命が担保されているらしい。らしいというのは、父王時代までにはの決まりであるので、今のルーベンス王では、どうなるのかわからない。2番目の兄は、成人してすぐに病死、3番目の兄も最近姿を見ない。
まだ、兄王に世嗣ぎはいない。だから、まだ命だけは大丈夫だろう。
それに、後宮に軟禁されている母様たちを捨てて出ていくことはできなかった。兄王にとって母様たちはいらない存在だが、アルバートたちにとっては、育ての母。
どうすればいいのか、どう動けばいいのか。
自分の身を守ることを考えて、日々は過ぎていった。




