no.54
私はうつぶせになった。
もうこうして体を動かしても痛くない。
本当にちょっとした傷だったんだろうな。
背中のテープが剥がされていく。
怖くない。
怖くない。
でもやっぱり怖い。
ガーゼを剥がされるとやっぱりめちゃくちゃ怖い!!
「ぎゃ~~~~~っ、やっぱりやだ! 怖い。先輩、やめて~~~~~」
「静かにしろ!」
だってだって、やっぱり怖い。
「体に力入れてるから余計痛いんだ。力抜けよ」
「そんなこと言ったって……」
どうやったら体から力が抜けるのかわからない。
後ろからすーっと先輩が近づいた。
「アリス、大丈夫だから……」
耳元で囁かれた。
そして耳にキスされた。
やだ、先輩。
こんな時に何してるの?
背中にかかっていた髪をよけて、暖かいものが触れた。
えっ、先輩?
「じっとしてろ」
きゃ~~~~~、先輩ってば背中にキスしてるぅ~~~~~!
「きれーだな……」
やだ、やだ、はずかしいよぉ~。
宮川の頬が触れる。
背中が熱いよ。
体中が熱いよ……。
すーっと宮川が離れた。
「よし、できあがり!」
「えっ?」
「痛くなかったろ。俺ってあったまいー」
「えっ、えっ?」
しっかり傷の手当てが済んでいた。
「せ、せんぱい……!」
なんか騙されたみたいでムカッとした。
「いーだろ。痛くなくてすんだんだから」
そう言って救急箱を片付けた。
なんてことするんだぁ。
痛くなかったけど、背中にキスした!
むすっとしていると宮川は何も言わずテントを出ていってしまった。
もー知らないんだから!
******
気持ちが落ち着いてくるとし~んと静まりかえった夜の空気がなんだか押しつぶしてきそうになってくる。
やっぱり夜はひとりにされるのは怖い。
皆もう寝ちゃったのかな……。
ちゃぷん……。
ん?
水の音で振りかえると宮川が桶を持っていた。
それってお風呂にあったやつじゃない。
「ちょっと風呂にいって汗流してきたんだ。おまえも汗かいたろ。これで拭け。俺、外に出ててやるから」
「う、うん」
わざわざ持って来てくれたんだ。
いっぱいいっぱい気を遣ってくれて、そんなに甘やかすとどんどんつけあがるんだからね。
先輩のばか……。
なんだか涙が出てきた。
せっかく持ってきてくれたんだから汗、拭こう。
タオルを濡らす。
とってもあったかいお湯。
冷めないように急いで持ってきてくれたんだろうなぁ。
ちゃんとお礼しなくちゃ。
それにしても足と前は拭けたけど、さて背中はどうしよ。
手を伸ばしてみたけど、やっぱりいててっ。
「アリス……」
ひぇ、まだ入っちゃダメ!
上、なにも着てないよ!
「背中、拭いてやるよ」
「えっ?」
「前に風邪引いたとき拭いてもらったお礼。ほら、タオルかせ」
「う、うん」
先輩が優しくそっと拭いてくれる背中。
またまた熱くなっちゃった。
「いいか、これで。あとは拭けたか?」
「うん」
「じゃ、これ、戻してくっからさ。なにか着ろよ」
宮川は桶を持って出ていった。
ふーっ。
なんだかドキドキだぁ。
私は急いで着替えをリュックの中から出した。
でも、どうもブラができない。
ちょうど紐が傷のあたりにいっちゃうんだよね。
仕方ない。
明日の朝するってことでTシャツだけ着よう。
もうなんとか着れそうだし。
宮川は息を切らせて帰ってきた。
「アリス、少し外歩くか……。もう皆いないし、静かだぞ」
「う、うん」
今日一日テントの中だったもんね。
少しゆっくり外の空気吸いたい。
「立てるか?」
「大丈夫」
テントを出ると満点の星空が見えた。
「ふぁ~、すごっい!」
「川岸に行くともっとよく見えるぞ」
「うん!」
差し出された手に素直に手が出せた。
吸いこまれそうな星空のお陰だね。
「こんなにたくさん星があるんだね、先輩」
「ああ。しかも俺達が生まれるずっとずっと昔の光がここに届いてるってわけ。すっげーよな」
「うん。すっごい」
川岸に座ってしばらく星空を眺めていた。
静かな静かな夜だった。




