no.53
「起きられるか?」
支えてもらいながら体を起こそうとして……
「あ゛~~~~~~っ」
痛みにまた叫んでしまった。
「大丈夫か?」
はふ~っ。
いたたたっ。
でも上半身を起こせた。
「ほら、水」
「うん」
と言ったものの、腕が上がらない。
痛いとかじゃない。
ただ怖いだけ。
こんなことくらいで情けない。
「ほら」
宮川はふたを空けたペットボトルを口に近づけてくれた。
水まで飲ませてもらって、口拭いてもらって……やっぱり情けない。
「ごめんなさい……」
「謝るな。おまえは俺に甘えてればいい。わかったか」
「うん」
そっと頭を抱き寄せてくれた。
「このままの格好じゃなんだな。着替えるか?」
そっか。
昨日、Tシャツの後ろ、切っちゃったんだ。
「でも、消毒するのにまた着替えるんじゃ痛いか?」
どうしよう……。
「寒くないか?」
「うん、それは大丈夫。暑いくらい……」
「夏でよかったよ。そのままでいいか。タオルかけて」
「うん。皆のとこ、行かなくて大丈夫?」
「ああ」
タオルを肩から掛けてくれた。
******
外で皆がはしゃぐ声がした。
「皆、水遊びしてるんだ」
「そ~かぁ」
「つまんないか?」
「ううん」
先輩が側にいてくれるからそれだけでいい。
でも……。
「先輩も水遊びしてきてよ。私寝てるから」
「いや……」
そう言って前髪を掻きあげた。
「なんだ、なんだか皆すっげー誤解しててさ。ここにいたほうが楽つーか、はははっ」
「なに、誤解って?」
「いや、まぁ、なんだなぁ~。夜中のおまえの絶叫をヘンに誤解しててさ。参ったよ。でもまさか風呂でキスしてて怪我したって言うわけにもいかないしよ」
夜中の私の絶叫?
「そっかぁ、目一杯叫んじゃったもんね。皆に聞こえちゃったんだ。またお子様だって笑われてるね。こんな傷で騒いで……」
「へっ?」
「えっ?」
「あのさ、そうじゃなくてだな……」
「えっ、違うの?」
「いや、いい。まっ、今日はおとなしく寝ててくれ」
なに、真っ赤になってるんだか……。
訳わかんない先輩。
その日は結局テントの中で過ごした。
トイレも宮川におんぶしてもらって、こそっと行って戻ってくるような状態。
皆の顔も見なかった。
******
あっという間に夕方になっていた。
私、ここになにしに来たんだろうなぁ。
とほほっ。
「ほら、飯持ってきてやったぞ」
ちょっと寂しくなった頃、宮川がテントに入ってきた。
「食べなくちゃだめだからな。昼も食ってないし」
「うん」
「おかゆだ、どうしたの、これ? もしかして作ってくれたの?」
宮川は前髪を掻きあげて言った。
「朝も昼も食わなかったんだ。おかゆのほうがいいだろ」
「おかゆまで作れちゃうんだね。なんでもできちゃう」
「俺はお袋と二人暮しだったから。お袋は朝から晩まで働いてたし」
そうか。
二人だったんだよね。
お母さんが具合悪くなれば先輩が食事作ったりしたんだろうな。
「ほら、口、開けろ」
「えっ、大丈夫、自分で食べられる」
「いいから」
まっすぐ見つめられて頷いた。
甘えてばかりで何もできない自分が情けない。
でも今は甘えていたい。
食事が終わって、それも片付けてもらって、どんどん自分が情けなくなっていく。
甘えてていいっていったって、やっぱりいつか鬱陶しくなっていくんじゃないかって、ものすごく不安になるんだよね。
ゆっくり皆と楽しんできてと言ったのに、宮川は随分早くテントに戻ってきた。
「皆といていいのに。私、もう大丈夫だよ」
「いや、皆自分のテント入るって言うからさ」
「そう言えば静かだね。今夜はゲームとかしないの?」
「昨日は遅くまで騒いじまったから今夜は早く寝るんだと。それより傷見せてみろ。ガーゼ取り替えないとな」
「えっ、いいよ。明日帰るんだし……」
うろたえて後ずさりする。
もう体動かしてもそれほど痛くないし、きっともう大丈夫。
でも触られるのは、めちゃくちゃ怖い。
「知らないぞぉ。バイキン入っても~っと痛いことになっても」
脅かさないでよ……。
でもしっかり救急箱用意してる宮川。
「ほれ、捕まえた。逃げられませんよ、泣き虫お姫様」
「ぎゃ~~~~~っ」
叫んだ途端、腕を離された。
「あのさ、今夜はちょっと叫ぶのやめろよな」
宮川はそっぽを向いて言った。
「だって、先輩が……先輩が……」
「俺はおまえを襲ってるわけじゃないんだからな。ったく、もうそんなに痛くねーよ。そんなにひどい傷じゃなかったし」
そんなことわかってる……。
そんな怖い顔、しなくったっていいじゃない。
「うつ伏せになれ。さっさとすますから」
うっ……。
本気で怒ってる……。
表情でわかる。
言うこと聞かないと本当に愛想つかされちゃうかも。




