no.52
ブラのホックを外してタオルを外された。
「う~~~~~~っ」
「大丈夫だ。深く切れてるわけじゃないよ。かすった感じで」
わかってる。
本当にぐっさり切れてたらこんなもんじゃないって。
痛みだって包丁で指を切ったときよりはマシ。
でも痛みを我慢する方法がわからない。
腕も回せないんだもん。
「薬つけるけど、じっとしていられるか?」
「痛いよ。わかんない……」
力が入らないから暴れたりしないかな。
でもわからなかった。
「ごめん、じゃ、乗るぞ」
えっ?
左腕をぴったり体につけるとその横に宮川が左膝を立てて、私の体をまたいだ。
うっうっそー。
腰のあたりに座られて、でも重くない。
「これ、握ってろ」
そう言って右手にタオルを持たせてくれた。
「うっ、うっ、……」
「さっさとすませてやる。すぐ痛くなくなるから、な」
先輩がやってくれるんだから大丈夫。
指を切った時だって先輩がやってくれたんだから。
ぴたっとなにかひんやりしたものが背中に落ちた。
その一瞬で我慢していたものが歯止めも効かないほど押し寄せた。
「痛い、痛い、いた~い、いたいよ~~~~! いや~~~っ!! うわぁ~~~~~!!!」
「もう、終わるから、終わるから!」
「や~~~~~っ、いちゃ、いちゃ……いちゃ~~~~!!」
ハァハァ……。
うっ……うぐっ……。
テープを切る音がした。
うっ、うっ……。
「ほら、終わったよ。もう大丈夫だ。アリス?」
ふぇ、ふぇ……。
「大丈夫か、おい、アリス!!」
「……叫んでもう力出ない……」
「おいおい……ったく、おまえって奴は」
そう言いながら救急箱を片付けて、なにか探してる。
「タオル、もう1本ないか?」
「うん、底のほうに入ってると思うよ」
「あっ、これか、これでいいな」
そう言ってバスタオルを背中に掛けてくれた。
「ねっ、先輩。ホントに傷たいしたことない?」
「うん。血がひどく出るほどじゃない。嘘はつかないよ。安心しろ。ただ痛みに弱いおまえにとっては大怪我なんだろうけどな」
そう言って自分のリュックをガサガサやって、何かを出した。
シュ、シュボッ。
フーッ。
「あっ、そんなの持ってきたの」
タバコを吸っていた。
「1本だけ……ダメか?」
「ううん、いいよ。ごめんなさい。また大騒ぎしちゃった」
「いいよ、いつものことだ。それに俺も悪い。あんなとこで……悪かったな」
ボッ。
「ううん……」
涙が出てきた。
もう顔の下にあるタオルびしょびしょなのに。
タバコを吸い終わって、宮川が顔を覗きこんできた。
「疲れたろ。寝ろ」
「うん」
「あっ、ちょっと待て」
またガサガサやってる。
「ほら、俺のタオル。こっち濡れちまったもんな。頭上げるぞ」
私の顔の下にあったタオルを替えてくれた。
「髪もまだ濡れてるな。これ取るぞ」
「うん」
アップにしていた髪を解いて優しく拭いてくれた。
すーっと体が深いところに落ちていく感じになった。
いつのまにか眠っていたみたいで、気付くと目の前に宮川の寝顔があった。
私をそっと抱きしめるようにして眠っている宮川。
すうすうと静かな吐息も聞こえて心地いい。
もう少し寝よう。
******
「大丈夫なの、アリス」
「ああ、ちょっと目が覚めたかどうか見てみるよ」
山内と宮川の声が聞こえた。
「いきなり無理しすぎなんじゃないの。昨夜、絶叫してたもんね。こっちはお陰でしらけちゃったわよ」
「わりぃわりぃ、ははははっ」
「じゃ、目が覚めてて食事できそうだったら言ってね。アリスの分、とってあるんだから」
「ああ」
そう返事をしながら宮川がテントに入ってきた。
「おっ、起きてたのか。大丈夫か?」
「うん。あんまり痛くない。でも体だるい……」
「疲れたんだろ。今日は休んでたほうがいいな。なにか食べるか?」
「ううん、いらない。お水、欲しい」
「わかった」
そう言ってリュックの横にあったペットボトルをとってくれた。




