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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
156/156

no.156

 ******



 それから3日間は、大道寺の家の中庭の椅子に座って、モデルをやった。

 木陰で涼やかな風が吹き抜ける中で、私は、ただぼーっとしているだけ。


 絵を描ていてる時の大道寺は無口だった。

 大きく息を吐いて、大道寺が筆を置いた。

 

「ありがとう。君のお陰でいい絵が描けました。あとは僕一人でも描けますから大丈夫です」

「はい」


「個展にはご招待しますから、ご主人と一緒にいらっしゃい」

「はい。ありがとうございます」


「その服は君に差し上げますよ」

「いえ、そんな……」


「僕が持っていても使い道がありませんよ」

 大道寺は苦笑いした。


 そう言われてみれば、確かに使い道はない。

 昔の写真のように女装するわけでもないだろうし。


「モデルになってもらったお礼ですよ。本当はもっと何か君にプレゼントをしたいんだけれど」

「いえ、あの、このお洋服だけで。私はただ座ってただけですし。それに先生の個展が見られれば、嬉しいです。それとあの、私が書いた童話に絵を描いていただけたら……」


「それはもちろん。君の童話には僕の絵を使ってもらいたい」

「嬉しいです」


 心底、嬉しかった。

 童話の世界では、大道寺は大御所だ。


「これからも童話、書き続けてくださいね」

「はい!」


 それから少し雑談をして、私は大道寺の家を後にした。

 一時はどうなることかと不安になったが、今は清々しい気持ちで一杯だった。


 大道寺が大人だったからだろう。

 感謝しなければならないと、手の中の洋服が入った袋を見つめて思った。



 ******



 夏休みも残り少なくなった頃、私は、童話をひとつ書き上げた。

 大道寺がくれたイラストを見て、そこから流れ出すストーリーは、どこか神聖なもののような気がした。


 意気揚々とその童話を持って、出版社へ出かけた。

 待っていてくれた金倉は、ソファーに座って、原稿に目を落とす。


 読まれている間、心臓はバクバク。

 エアコンが効いているのに、背中に汗をかいた。


 すっくと顔を上げた金倉の視線が、まっすぐに私を捉えた。

 何も言わず数秒。


「あ、あの……ダメ、です、か?」

「いや、いい!」


「はい?」

「幾つか言葉を変えた方がいい部分はあったけど、ストーリーはGOOD。2作目、これで行きましよう!」


 全身にかかっていた力が抜けた。


 その後、夏休みのうちに、何度か出版社に行き、金倉と会い、2作目は秋に出版することになった。

 絵はもちろん大道寺が担当する。


「もうすっかり童話作家ね。1本書けても、2本目が書けないって人もいるのよ。でもあなたならきっとできると思ってた。担当になって、本当によかったわ。先が楽しみね」


「そ、そんな……。で、でも、私、童話書いていて、とっても楽しいんです」

「楽しいっていうのが一番大切よね。その気持ち忘れないで、書き続けてね」


「はい」

「私生活も幸せだし、その幸せを皆に分けてほしいわ」


 金倉は、微笑みながらそんなことを言う。

 私は照れて、言葉が出ない。


「私なんて、仕事に追われて、結婚どころか、恋愛さえ、近寄ってこないわよ」

「でも、金倉さん、仕事できるから、男性陣にモテるんじゃないですか?」


「ううん。ここでは皆、仕事はできて当たり前。かえって失敗する新人のほうがかわいがられるんだから」

「え~、そうなんですか?」


「まっ、そういう新人もいつかは、こうなるんだけどね」

 そう言って、自分を指さした。


「じゃ、金倉さんも新人の時は、モテたんですね」

「いやぁ~ね、かわいがられてはいたけど、モテるのとは違うわよ」


「そういうものなんですか?」

「そういうものよ。あぁ、私も恋愛したいわぁ~」


「金倉さんなら、きっといい人、見つかりますよ」

「行き遅れる前に見つけないとね」


 そう言って、ウィンクしてみせる。

 金倉のお茶目なところがかわいかった。


「金倉さんが結婚するときは、式に呼んでくださいね。私、金倉さんの花嫁姿、見たいです」

 そう言いつつ、目の前にいる金倉の花嫁姿が想像できず、噴き出した。


「なによ、そこで笑う? まぁ、いいけど。見てらっしゃい。立派な花嫁になってみせるから」

「楽しみにしてます。ぷぷっ」


「こういうことについては、高校生のあなたのほうが先輩なのよね。参っちゃう」

 拗ねて見せたりする金倉もかわいい。


「先輩ってほどじゃないです。まだ数ヶ月ですし」

「その数ヶ月が、大きな差なのよ」


 こんな女同士の雑談も金倉とならできた。

 担当が金倉で本当によかったと思った。


 そして童話もこれから書き続けていきたいと改めて思えた。

 金倉とは長い付き合いになりそうだとも思えた。

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