SIRAN 3
「…で? のん君」
崩れるように由井の部屋の玄関先で、私は座り込んでいた。
どうやら彼氏さんはいないらしい。
でもいようがいまいが、私はきっとここに来ただろう。
由井は私の懺悔のような告白を、ビール片手につまみのドーナツをほおばりながら、
彼女なりに、とっても真剣に聞いてくれた。
「…なんと自転車が盗まれまして…」
「マジでー、ぶっそうだな」
「…そして副店長は車で送ってくれました…」
「おー、ぶらーぼ」
ぱちぱちという拍手が場を白けさせる。
私はため息を、はき落とした。
「気づいちゃったね、のん君」
見上げると、由井はビールを口に含みながら微笑んでいる。
「…こんなの、気付いたところでどうなるの。
胸が苦しくて、顔もまともに見れないし…
すっごく好きなのに、」
まぁ上がんなさいよという由井の気楽な受け答えに、涙が出てくる。
別に由井のせいじゃない。でも、涙が出てきた。
「私、どっちにしても、苦しいよ…」
副店長の指に光る、あの指輪。
結婚しているのか、婚約しているのか、それとも恋人とのおそろい指輪なのか。
私は知らない。知りたくもない。
「いつも楽しそうに笑ってるけどさ…」
幸せだと口にする彼の声を聞いた。
その幸せに私はいない。含まれていない。
彼にとって私は特別な、あの指輪の相手と同じじゃあない。
「どうしたって、私の気持ちは終わりだよ…」
もし彼が私の気持ちを受け入れたとしても、彼は少なからず傷つく。
奪ってやろうなんて思えない。
幸せでいてほしい、誰よりも、いつでも。
じゃあ、私の気持ちはどうすればいいの。
ぎし、と床が軋む。
由井が歩み寄ってきた。
「今日ね、彼氏が出て行ったのさ」
思わず由井の顔を見た。由井の目は、少し赤かった。
「あたしも、どうしようもない気持ち、持ってるんだ。
でも、これは本当にどうしようもない。
自分で何とかするしかないよ」
床に胡坐をかいて座る。由井は強いて気楽そうに話していた。
「別にいいじゃない、好きだって。
問題はその気持ちをどうするかだと思うよ。
あたしは、この気持ちを時間をかけてでも、
…全力で、忘れる。
のん君は、どうするの」
忘れていきたい? それとも、
「…私、初めてなんだ。
片思いはいっぱいしてきたけど、いつも言葉にしなくて終って、それでいいって思ってた。
でも、この気持ちは…伝えたいの」
結果を望んでるわけじゃない。
ただ知っておいてほしい、私のわがまま。
「わがままじゃないでしょ」
由井はビールを飲み干して、私に言った。
「だって、恋してるんだもんね」
笑う。この気持ちを持っているのは辛い。
好きになった瞬間に失恋してるけれど。
かなってほしくもないし、かなうはずもない。
悲しくて苦しい、どうしようもない恋だけど。
「…そうだよね」
私は、彼のことが好き。しかもすっごく。
それは、私にとって大切な気持ちなんだ。




