SIRAN 2
外の接客も、日が傾きだすと人の往来も少ない。
いつものように七時になるのを待って、一人で花を店にしまっていく。
「のんのん、悪い。
裏の仕事、後ででいいから手伝ってくれない?」
店長は明日の仕入れの為に外に出ていて、副店長は裏で注文の品を箱に詰める作業をしていた。
花屋としては八時で閉まるが、この店は雑貨も取り扱っているのだ。
「別にいいですけど」
静かな店内に、一人。遅番は初めてだ。
土日くらい早く帰りたいとわがままを言って、いつも早番にしてもらっていた。
エプロンについた泥を落とし、裏にある箒を手に取る。
「ストップ」
「え…」
急に腕を握られた。副店長の太い指先。
手を取られた腕が、熱い。
私が言葉を失っているのをよそに、副店長は
そのまま私の手から箒を奪う。
「のんのん、離れて!」
ゴルフのスイングのように、思い切り箒を振りあげる。
掛け声とともに、副店長は人気のなくなった表道路に、『なにか』をふっとばした。
「あの…副店長、今の」
「ありがと。あぁ、イモムシだよ。
春だからね」
「なんでまた、店の外に…」
副店長は恥ずかしそうに、首に手を当てる。
そして消え入るような声で、苦手なのと呟いた。
「ぷ…」
は・花屋なのに…。
私はついおかしくて吹き出してしまった。
笑われたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にする副店長。
「裏に行ってきます…あとはよろしく…」
背中を向けてよろよろと裏に戻っていく。
私は悪いと思いながらも、面白くて返事もできなかった。
そして、九時。
レジの精算をするために副店長を呼びに行く。
「…はいはいー」
顔を見るなり、あの出来事がフラッシュバック。
そしてこみあげてくる、おかしさ。
そんな私の様子に、副店長も苦笑いで返す。
「もー秘密だからな。店長にも虫嫌いだって隠してるんだから」
「大変ですね」
温かい雰囲気。副店長はいつものようにレジ閉めを始める。
私は完成したブーケを箱に詰めていく。
「ま、でもそのおつりが来たからいいとしよう」
ガムテープを手に取りながら、なんですかそれと笑う。
「のんのんが笑ってくれたの初めてじゃない」
鼓動が、反応した。
「嫌われてんのかと思ったからさ、俺」
顔が、耳まで熱を帯びていく。
息が詰まる。胸が、苦しい。
鼓動が死にそうなくらい高く鳴っている。
「…違います」
ガムテープを切る手が、指が、力が、声が
震えた。
「嫌いじゃ、ないです…」
「そっか、よかった。ありがとう」
優しい彼の声。温かい彼の言葉。
私はようやく自覚した。
―――これが恋じゃなくて、なんだというの。




