87.八百源
「あ……! あの、おばあさんって……?」
須磨春花の家には、オカンに盆栽を破壊されて怒り狂っていたじいさんは居るが、ばあさんは見た事がない。
「八百屋さん。商店街の八百源」
「えっ……? でも、名前……?」
八百源の正式名称は、本山商店八百源だ。
「母方のお祖母ちゃんだから、苗字が違うの。フルネームは本山セツ」
八百源の婆さんのやさしい笑顔と、朗らかな声が、脳裡を駆け巡る。そして、何故、単なる客の俺に、毎回、お駄賃をくれたのか、謎が解けた。
八百源の婆さんは、孫の須磨春花から俺たちの窮状を聞いて……
「それでね、今日のお昼ご飯、どうするの?」
「えっ昼? コンビニで弁当買うようにって金、渡されたけど……?」
急に話題を変えられ、思わずバカ正直に答えてしまう。
「やっぱり。じゃあ、これ、よかったらどうぞ。お母さんと作ったの」
須磨春花は、鞄の中から水色の弁当包みを取り出した。
「えっ? えぇえぇぇっ!? いっいや、そんな、悪いし……」
「ずっと知ってたのに、助けてあげられなくて、ごめんね。私、こんなことくらいしかできないけど……迷惑かな?」
「えっ? いや、あの、何で謝るんだよ? 迷惑掛けてんの、ウチの方だし……えっと……あの……」
「………………」
二人の間に沈黙が降りる。
何事もなければ、幼馴染になる筈だった同い年の隣人は、弁当を持ったまま、俺から目を逸らした。
「……ありがとう」
俺は、魔法戦士の助言を思い出し、差し出された弁当をしっかり受け取った。
それから二人並んで、でも、微妙に距離を開けて、学校に向かった。




