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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第11章.決着

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85/95

85.あの女

 「私たちは、誰とも遊ばないようにお母さんに監視されて、私たちと遊んでくれた子に空缶ぶつけたりして、暴力で追い払われて、そのことがみんなに知れ渡ってるから、学校でも近所でも、ずっと一人ぼっちだったの」


 二人は驚いた目で、姉ちゃんの顔をまじまじと見る。


 「私たちは何も悪いことしてなくても、殴られたり、出来損ない、ゴミクズって罵られたり、病院で取り違えられた他所(よそ)の子だとか、こんなブス要らないとか、お前みたいな不細工、生きてても仕方ないとか……毎日毎日、ずっとそう言うことしか、言われてないの」


 姉ちゃんは無表情で、ニュースの原稿でも読み上げるように、淡々と言った。

 祖母ちゃんは、声を上げて泣き出した。


 父ちゃんが大きく息を吐いてから、言葉を続けた。

 「連休前の木曜、児童相談所に行きました。何年も前から繰り返し、近所の方々が何人も通報して下さっていました。生命に別条はなさそうだと判断され、役所が直接、我が家に関与することはありませんでしたが、通報の記録は多数残されています」


 「今までずっと、お母さんに邪魔されて言えなかったけど、いつか伝えられると思って、記録を付けて、証拠を残しといたの」

 姉ちゃんが、不貞と浪費の封筒の上に、虐待の証拠のコピーが入った封筒を積み重ねた。


 「昨日、離婚の話し合いをしている時に、笑美華(えみか)は包丁で娘を殺そうとしました。私が殴って気絶させたので、この通り、娘は無事です。悲鳴を聞いたご近所の皆さんが通報して下さって、笑美華は一旦、病院に運ばれましたが、事情聴取の警察官に暴力を振るって逮捕され、今は留置場に移されています」


 友田の親戚がざわつく。

 祖母ちゃんと義一伯父さんは息を呑み、廊下に出て土下座した。


 「笑美華が起訴されても、されなくても離婚します。こんなことになるまで気付かなかったのは、私の不徳(ふとく)(いた)す所ですが、ご了承下さい」


 父ちゃんは、そこで一旦言葉を切って、廊下の二人を見た。

 二人は少し顔を上げて、何度も頷きながら、平伏した。


 「現在、DNA鑑定の結果を待っています。私の子なら、私が親権者になります。私の子でなかったとしても、この子たちは、福祉施設に預けて、笑美華の手の届く所には、置きません」


 「あの女を本家の裏山にでも埋めてくれるんなら、会いに行ってもいいけど、私もこの子も、あの女が生きてる限り、絶対に花隈(はなくま)の親戚には会わないし、連絡もしませんから」


 姉ちゃんが、オカンをあの女呼ばわりしても、誰も何も言わなかった。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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