62.緊急用
姉ちゃんが、バスタオルで頭を拭きながら戻ってきた。
俺は父ちゃんにどうやって知らせるのか、聞いてみた。
「音声と動画は、腕環の子の分もDVDにまとめて、印画紙の写真とクレカの明細と通販伝票のコピーも一緒に、お父さんの会社に郵送するの。発送は早くても月曜日かな? ネガは店長に預かってもらったから、大丈夫。今日、写真屋さんで、印画紙にプリントしてもらった分だけでも、充分過ぎるくらい威力あると思う」
姉ちゃんは引き出しから、緊急連絡用にもらっていた父ちゃんの名刺を出した。
うん。スゲー緊急事態だ。
「転送した携帯メールは、受信用アカウントのIDとパスをメールで送って、先にあっちで見てもらう。わかった?」
メールサーバには、デジカメの画像データもある。
「わかった。やっぱ、姉ちゃん、頭いいわ」
「またまたー。おだてたって何も出ないよ」
姉ちゃんは、ミッションの報告を再開した。
スーパーから出てきた二人の写真。色々買いこんだスーパーの袋一個を二人掛かりで持っている。鳥肌が立った。
「バカップルの動作」コンプリートだ。
もし、デートの場所が海辺だったら、砂浜を走って「ホホホ……捕まえてごらんなさーい」も、やるに違いない。
俺たちは、証拠を集めやすくて助かるけど、こいつら、人として終わってる。
もしかすると、龍寿はオカンに「二十代の独身」って騙されてるかもしれない。でも、オカンが結婚してるの知ってて、不貞行為したなら、父ちゃんは、龍寿にも慰謝料を請求できる。
主婦のオカンに飯を奢らせてるような男に払えるんだろうか?
ディスプレイには、住宅街を歩く二人の後ろ姿が表示されている。
二人がアパートの外階段を上がる様子。二階の一室に入る様子。部屋番号は二○三。
アパートの全景。電柱の青い住所表示板が写り込んでいる。
アパートの郵便受けの写真。こちらにも住所表示がある。二人が入った部屋の番号には名札が入っていなかった。
姉ちゃんは、その住所をテキストファイルに入力した。
「相手の名前、携帯のアドレス帳にはあった。野田龍寿……偽名じゃなきゃね」
オカンがまだ帰っていないから、デーレヴォもまだだ。
午前零時過ぎ。
もう終電も行った。タクシーを使わない限り、今夜はもう帰らないだろう。
さっきまで寝ていたのに、まだ眠い。
「私たちは、ここで帰ったから、後の事は腕環の子が戻るまでわからないんだけど、まぁ……お父さんに任せよう。画像のコピーとかは、私がしとくから、あんたはもう寝なさい」
姉ちゃんはそう言って、部屋の灯を消した。




