44.警備員
先生は真剣な表情で腕環を調べる。
暫く色んな方向から見ていたが、何か見つけたらしい。
内側の一点を見詰めて、何か呟く。腕環全体がぼんやり光って、空中にお盆のような光が浮かび上がった。
「なっ……何ですか、それ!?」
「んー……取扱説明書……かな? 内側に書いてあるコマンドワードを言ったら、展開するようになってたみたい。ちゃんと読むから、ちょっと待ってね」
巴先生は、黒江さんに隣の部屋からルーズリーフとペンを持って来させた。ベッド付属のテーブルに腕環を乗せて、光の中に表示された文字を書き写す。
少し時間が掛かりそうなので、金髪の女性に話し掛けてみた。
「あ、あの、質問、いいですか?」
「どうぞ」
「失礼かもしれないんですけど、このお家の方とは、どういったご関係ですか?」
「警備担当者です」
「あ……あぁ、そうなんですか。ありがとうございます」
何それ、怖い。
【急降下する鷲】の警備が要るって、この家は一体、どんな魔物に狙われてるんだッ?
「友田君、この間、鷲がどうとか言ってたけど、何の話?」
「えっ? あれっ? 巴、知らないの?」
巴の意外な質問に驚いて、問い返す。
「自分が何を知らないのかも、わからないんだけど、何か知ってるの?」
「ん? うん。俺が知ってるのは、ペンダントの意味。魔術師連盟【霊性の翼団】の身分証で、その人が専攻してる魔術の系統を示してるんだ。巴先生のは【舞い降りる白鳥】で、呪いの解除や術の解析、警備のお姉さんのは【急降下する鷲】で魔物退治の専門家」
「へぇーそうなん……えぇッ?この家、魔物に狙われとんッ?」
方言に戻る巴。
うん。俺と同じ感想で安心した。
「この家は、結界があるので安全ですが、念の為に常駐しています」
「そしたら、いっつもおっちゃんの傍に居るん、おっちゃんが狙われとうからなん?」
「数年前に拉致され、魔物の餌食にされかけたことがあります。その件は既に解決しておりますが、再びそのようなことがないように、私がお傍に居ります」
「あれっ? 黒江さんって、人間よりも強いですよね? 誘拐……」
「魔法の武器で傷を負わされッ、ご主人様をッ、お守りできませんでしたッ!」
俺は、また、黒江さんの地雷を踏んでしまったらしい。
泣きそうな顔で睨まれ、言葉を失う。
「クロ、おいで、だっこしよう」
先生が翻訳の手を止め、優しく声を掛ける。
にゃんこ形態になった黒江さんは、先生の腕の中に飛び込んだ。
先生は黒猫を抱きしめて、背中を撫でながら言った。
「よしよし。クロは人間に悪さしないいい子だもんね~。そもそも、僕が大袈裟だと思って、警備を断ったのがいけないんだから、クロは気にしなくていいんだよ」
先生にしっかりしがみついた黒猫は、落ち着いたのか、目を閉じて喉を鳴らし始めた。
あやされてゴロゴロ言う姿は、猫そのものだが、先生の本で見た黒江さんの正体は、体長五メートルで、悪魔っぽい外見の魔法生物だ。
アレを行動不能にするとか、どんな達人が、どれだけ強力な魔法の武器を使ったんだよ。
「この種類の使い魔は戦う力を付与されておりませんので、護身用には適さないのです」
警備のお姉さんが説明してくれた。
「……ですが、直接戦う力がなくとも、身を守る方法はあります」
「どうやってですか?」




