42.フリメ
食べ終わった食器を持って、台所に降りる。廊下の奥から姉ちゃんが出てきた。
ドライヤーの音は続いている。
「あ、起きた。それ洗っとくから、お風呂入んなさい。お母さん、もうすぐ終わるから」
「今日……」
姉ちゃんは、シーッと言って俺を黙らせ、親指で風呂の方を指差した。
俺は無言で頷いて、トイレに行った。オカンと入れ替わりに風呂に入る。
「鯉澄まだだったの? さっさと入って寝なさい」
「はい」
機嫌がいいのか、オカンは普通の母親みたいに言って、自分の部屋に引き揚げていった。
今夜もシャワーだけで済ませて、部屋に戻る。
姉ちゃんは更に何か印刷しつつ、フリメに転送した不倫メールを別のフリメに転送して保険を掛けていた。
メールは……何かの暗号っぽかった。
小文字と顔文字が乱れ飛び、誤変換だらけ。所々■なのは、絵文字の文字化けだろう。
「到底、四十代のオバンのメールとは、思えないわ……」
姉ちゃんが溜息を吐いた。
「俺、こんなの解読できない……ってか、直視できない」
「ギャルっぽくて痛いだけで、暗号ってワケじゃないから、私、読んどくね」
「うん」
頭はまだぼんやりしているが、体は大分マシになってきた。
「ごめんね。一晩中無理させて」
「えっいや、大丈夫」
「メールの転送、お母さんがお風呂に入ってる間にやっといた。あの子、凄い処理早いのね。これで一昨日の分まで終わったから、今夜はもういいよ。ゆっくり休んでて」
「何か……ごめん」
「何で謝るの。腕環、私が着ければよかったのに、大変なこと、あんたに押し付けて」
「そっ……そんなことない! ないから!」
「……休むのも大事よ。倒れたら、何にもならないんだからね」
「うん。……あ、明日の夕方、巴の家に呼ばれてるんだ」
「えっ? 何で? 行くの?」
「腕環の調子とか見たいって、巴先生が」
「そうなの……じゃ、気を付けて行ってね。おやすみ」
「うん、おやすみ」
姉ちゃんは再びノーパソに向かい、俺は丸一日デーレヴォに会えないまま眠りに落ちた。




