40.透明化
オカンは、やたら上機嫌で夕飯を終えた。
機嫌が良くても、何かでスイッチが入ると豹変するので、一切、気を抜けない。こっちとしては、全く気が休まらないことに変わりはなかった。
オカンが風呂場に行った事を確認し、部屋に戻る。
「姉ちゃんゴメン。今日はオカンが家でステレオ掛けてたから、家事しかできなかった」
「いいよいいよ。あんたのせいじゃないんだし。その分、夜に頑張ろう」
昨日中止になった作戦を再開する。
俺が、腕環を外すまで、姉ちゃんの指示に従うように言うと、デーレヴォは、いつも通り「かしこまりました」と返事をした。
姉ちゃんが腕環を着けた方が話は早い。
でも、バイトで疲れてる姉ちゃんに、こんな体力を消耗するマジックアイテムを使わせるなんて、とんでもなかった。男で、体力のある俺が使った方がいいに決まってる。
姉ちゃんは、透明化したデーレヴォを連れて、階段を下りて行った。
ディスプレイに目を戻して、リロードする。巴からレスがあった。
件名:Re:友田です
本文:了解。金曜5時半に家で待ってます。
ドライヤーの音が聞こえて暫くしてから、二人は戻ってきた。
「今日、家事手伝ってもらってないんだっけ? 余裕ある? 大丈夫?」
「えっ? あっああ、うん」
「今夜、お母さんが眠ったら、メールを転送させたいんだけど、いい?」
「うん」
「一晩中だけど、いい?」
「……うん?」
「朝六時に返しに行かせる。それまで、腕環着けたままだけど、いい?」
「うん」
確かに、今夜はチャンスだ。俺は躊躇なく同意した。
姉ちゃんは、オカンケータイについて、半笑いで語ってくれた。
ロックのパスは、オカンの誕生日まんまだったので、あっさり解除。
アドレス帳を開いて、父ちゃんの項目のメルアド二つ目の欄に、例のフリメのひとつを登録した。
新規メールの送り方がわからないらしく、来たメールへの返信ばかり。きっとアドレス帳がいじられたことにも、気付かないだろう。
振り分け方がわからないのか、メールは、全て受信ボックスと送信ボックスに入っていて、最初からあるフォルダは、どれもこれも空っぽだった。
「どうせフォルダ見ないし、過去のメールも見ないでしょ。こっちの作業がやりやすいようにしてやればいいのよ」
姉ちゃんはそう言って、デーレヴォに指示を出した。
透明化してオカンの部屋で待機。
オカンが眠ったら、携帯電話と充電器を衣裳部屋に持って行き、充電しながら作業する。
父ちゃん発・父ちゃん宛のメールは、何もせずにフォルダ1に移動。
その他のメールは、古い物から順にフリメに転送。転送の履歴はすぐに削除。
転送後、浮気相手らしき個人のメールはフォルダ2、通販とかの業者のメールは、フォルダ3に振り分ける。
転送作業が進んでも、一昨日のメールまでで止める。
終わらなくても、翌朝午前六時で作業終了。携帯電話と充電器を元の場所に戻し、腕環に戻る。
時間までに作業が済んだ場合も、終了して同様に戻る。
デーレヴォは、姉ちゃんにも俺に言うのと同じように「かしこまりました」と応答して、任務に就いた。
俺は腕環を着けたまま、ベッドに入った。




