35.いじめ
巴は、無言で大粒の涙を零していた。
「ちょっとー、委員長の癖に何いじめてんのよー」
副委員長の網干さんが、箸を握ったまま、こっちに来て赤穂を非難する。
それに呼応するように、他の女子たちもガタガタと音を立てて席を立ち、あっという間に赤穂を包囲した。みんな険しい表情だ。
立ち上がっていた俺は、図らずも人垣の一部になってしまった。
「あ……その、いじめじゃなくって、ちょっとしたおフザケって言うか、美味そうだったからつい……まさか、泣くとは思ってなくて、その……」
「いじめっ子って大抵そう言うよねー」
「相手が嫌がった時点でいじめじゃん」
「悪気がなかったら何してもいいってもんじゃないのよ」
「赤穂君、最悪~」
「委員長サイテー」
女子達が囂々と非難する中、巴は首を横に振り、ブレザーの袖で涙を拭った。
男子たちは、恐ろしい物を見る目で固唾を呑み、こちらを見守っている。弁当に集中して無関係を決め込んでいる奴もいた。
「いっ……いじ……違……これ、母さんじゃ……違う……」
嗚咽で言葉にならない。
あ……あぁ、そう言うことか。
巴が何を言おうとしているのか、わかった。でも、これ、俺が言ってもいいのか?
やや迷ったが、俺は口を開いた。
「あ……あの……」
みんなの視線が集中し、ドキリとする。背中がひやりと冷たくなった。
「とっ巴の母ちゃん、先月亡くなったばっかりなんだって……それで、多分……いじめじゃなくって、単に委員長が『母ちゃんの弁当』って、地雷踏んだだけって言うか……」
巴がしゃくりあげながら頷く。
教室は、水を打ったように静まり返った。
「うわ! マジごめん! 知らなくって、その、ホントごめん!」
「えッウソ……マジで……?」
「えぇーッ!? 可哀想~……」
「あー……取敢えず、これ使って」
平謝りする赤穂。一気にざわつく教室。同情する女子たち。
網干副委員長が、そっとポケットティッシュを差し出した。




