36.教える
家に帰ってすぐ、デーレヴォを呼び出す。
デーレヴォは、かなりハイスペックで、一度の説明で、何でも完璧にこなした。
掃除機の使い方を説明し、以前は祖父ちゃんたちの部屋だったけど、今は居間として使っている六畳の和室の掃除をしてもらう。
その間、俺は、オカンが朝食を食べ散らかした台所を片付け、夕飯の仕込みをする。
因みに俺たちは、オカンに物事を教えられたことがない。
家事も、お手伝いからスタートではなく、いきなりメイン担当者として、丸投げされた。
とにかく、色んなことを「さっさとしなさい! この愚図!」と、せっつかれて、未知・未経験でも、自分で調べる時間すら、与えられない。
仕方なく、勘でやっても、オカンは「初回から成功して当たり前」な態度。
一度も褒められたことはない。
失敗したら「なんでこんなこともできないのッ? バカッ! 役立たずッ!」と殴られる。
小さい頃に「だって知らないもん……教えてよ」と言ったことがある。
オカンは「こんなの常識じゃない! 何でこんな当たり前のことも知らないのッ? 非常識なガキね!」と怒鳴って、グーでボコボコにしただけで、結局、何も教えてくれなかった。
俺と姉ちゃんは、オカンには、もう何も期待していない。
風呂掃除の仕方を説明し、続きを任せてから、狭い庭に干した洗濯物を取り込む。居間で洗濯物を畳んでいる最中に、風呂掃除完了の報告を受けた。
「お風呂掃除が終了しました」
「ありがとう」
お礼を言うとデーレヴォは、やわらかな微笑みを浮かべて、小さく頷いた。
「じゃ……じゃあ、次、洗濯物片付けるの手伝って」
「かしこまりました」
一緒に洗濯物の山から一枚ずつ服を取り、畳んで積み重ねる。
他所見して、洗濯物ではなく、デーレヴォの手を握ってしまった。
「わ! ご、ごめん!」
慌てて手を放したが、デーレヴォは不思議そうに首を傾げただけだった。
やわらかくてあたたかい。
姉ちゃんの手と何の違いもない、普通の女の子の手だった。
自分の頬が熱くなるのがわかった。耳も赤くなってるに違いない。
家事の負担が平等な新婚さんって、こんな感じ……?
いや……でも、この子は諜報用のゴーレム……
平静を装い、黙々と作業を再開する。
デーレヴォと二人でやると倍疲れたが、倍速以上に早く家事が終わった。
そして、一人でやるよりずっと楽しい。
そうやって作った空き時間に、証拠集めの続きに取り掛かる。
デーレヴォを衣裳部屋に連れて行き、今日はコンデジの写真撮影機能とICレコーダの使い方を説明した。
……だるい。このまま倒れそう……眠い。
「デーレヴォ、この部屋の服をこうやって一枚ずつ写真に撮ってから、元に戻して下さい。もし、作業中に誰か帰ってきたら、俺の鞄にカメラを仕舞って、腕環に戻って下さい」
「かしこまりました」
本当は、二人で作業したかったが、限界だった。
俺は自室に戻って、ベッドに潜り込んだ。




