32.浪費癖
玄関が開く音で、二人とも息を止めて固まった。
思ったより早く、オカンが帰ってきてしまった。
いつもは夜遅いのに、今日は夕飯の味噌汁がまだ冷めきっていない。
姉ちゃんはオカンに呼ばれて一階へ。クソ兄貴はまだ帰っていない。
デーレヴォに機器類の使い方を教えるのは、諦める。声を聞かれて怪しまれるとマズイ。
腕環に戻して通学鞄の底に隠した。
念の為、ポケットにICレコーダを忍ばせて、衣裳部屋に入った。
二階は階段に近い方から、姉ちゃん&俺の部屋、衣裳部屋、クソ兄貴の部屋。
灯を点け、一旦、廊下に出て部屋全体をコンデジで撮る。
シャッター音が廊下に響き渡り、心臓が止まりそうになった。
設定をいじって、消音モードに切り替える。
今日のミッションは、オカンの浪費の証拠集めだ。
姉ちゃんは「納品書の補足説明だから、コンデジの写真でいい」と言っていた。
オカンがこちらの動きに勘付いて、証拠隠滅した場合の対策として、画像を残す。
レシートは、その場で捨ててくるのか、家のゴミ箱では見たことがない。
ネット通販の納品書は、既に姉ちゃんが押さえている。通販だけでもかなりの額だ。
たくさんのハンガーラックに、服がぎっしり掛けられ、服屋みたいになっている。
ラックの下には、靴の紙箱が幾つも積み上がり、部屋の隅には、半透明の衣装ケースが五段重ねになっている。中身はハンドバッグやショルダーバッグの類だ。
……これ全部フリマで売ったら、一体、幾らになるんだろう。
膨大な量に眩暈がした。
これをひとつずつ写真に撮るのか……
オカンの在宅を考慮し、今日は一番数が少ない靴だけ撮って、撤退することにした。
箱を床の空きスペースに置き、蓋を開ける。
紫色のハイヒール。
手ブレを考慮し、数枚撮って蓋を閉め、元の位置に戻して次の箱に取り掛かる。
一階から、オカンが喚く声が聞こえてきた。
ドアを閉めているので、内容まではわからない。
一階に行くべきか、躊躇する。
俺が行っても、姉ちゃんを助けることはできない。
きっと姉ちゃんなら、致命傷にならないように、オカンの攻撃を回避してくれる筈だ。今までずっと、そうだった。
……と言うか、姉ちゃんがオカンを引きつけてくれてる間に、作業を進めないと。
俺は姉ちゃんを信じて、ミッションを続行した。
部屋に仕舞ってある靴は、三十四足だった。まだ、玄関の靴箱にもある。
足は二本しかないのに、こんな大量にあってどうすんだよ。
姉ちゃんは、学校指定の革靴と運動靴、俺は運動靴と百均のビーチサンダル各一足なのに。
箱を全て元の位置に戻し、灯を消して廊下に出る。




