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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第06章.情報戦

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32.浪費癖

 玄関が開く音で、二人とも息を止めて固まった。

 思ったより早く、オカンが帰ってきてしまった。


 いつもは夜遅いのに、今日は夕飯の味噌汁がまだ冷めきっていない。

 姉ちゃんはオカンに呼ばれて一階へ。クソ兄貴はまだ帰っていない。


 デーレヴォに機器類の使い方を教えるのは、(あきら)める。声を聞かれて怪しまれるとマズイ。

 腕環に戻して通学鞄の底に隠した。


 念の為、ポケットにICレコーダを忍ばせて、衣裳部屋(いしょうべや)に入った。

 二階は階段に近い方から、姉ちゃん&俺の部屋、衣裳部屋、クソ兄貴の部屋。


 灯を()け、一旦、廊下に出て部屋全体をコンデジで撮る。

 シャッター音が廊下に響き渡り、心臓が止まりそうになった。


 設定をいじって、消音モードに切り替える。


 今日のミッションは、オカンの浪費の証拠集めだ。

 姉ちゃんは「納品書の補足説明だから、コンデジの写真でいい」と言っていた。

 オカンがこちらの動きに勘付いて、証拠隠滅した場合の対策として、画像を残す。


 レシートは、その場で捨ててくるのか、家のゴミ箱では見たことがない。

 ネット通販の納品書は、既に姉ちゃんが押さえている。通販だけでもかなりの額だ。


 たくさんのハンガーラックに、服がぎっしり掛けられ、服屋みたいになっている。

 ラックの下には、靴の紙箱が幾つも積み上がり、部屋の隅には、半透明の衣装ケースが五段重ねになっている。中身はハンドバッグやショルダーバッグの類だ。


 ……これ全部フリマで売ったら、一体、幾らになるんだろう。


 膨大な量に眩暈(めまい)がした。


 これをひとつずつ写真に撮るのか……


 オカンの在宅を考慮し、今日は一番数が少ない靴だけ撮って、撤退することにした。


 箱を床の空きスペースに置き、蓋を開ける。

 紫色のハイヒール。

 手ブレを考慮し、数枚撮って蓋を閉め、元の位置に戻して次の箱に取り掛かる。


 一階から、オカンが(わめ)く声が聞こえてきた。

 ドアを閉めているので、内容まではわからない。

 一階に行くべきか、躊躇(ちゅうちょ)する。


 俺が行っても、姉ちゃんを助けることはできない。

 きっと姉ちゃんなら、致命傷にならないように、オカンの攻撃を回避してくれる(はず)だ。今までずっと、そうだった。


 ……と言うか、姉ちゃんがオカンを引きつけてくれてる間に、作業を進めないと。


 俺は姉ちゃんを信じて、ミッションを続行した。


 部屋に仕舞ってある靴は、三十四足だった。まだ、玄関の靴箱にもある。

 足は二本しかないのに、こんな大量にあってどうすんだよ。


 姉ちゃんは、学校指定の革靴と運動靴、俺は運動靴と百均のビーチサンダル各一足なのに。


 箱を全て元の位置に戻し、灯を消して廊下に出る。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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