20.襲撃譚
バレンタイン事件での須磨家の被害は、植木鉢の投擲による玄関燈と窓と車の破壊、スコップの打撃によるドア破壊、止めに入った須磨春花の母ちゃんの負傷……だったらしい。
事件の発端は、幼稚園のおやつ。
当時、姉ちゃんと須磨春花の兄ちゃんは、同じ幼稚園の同級生だった。
バレンタインのその日、幼稚園のおやつは、チョコウエハースだったが、姉ちゃんは「虫歯が痛いからいらない」と、須磨春花の兄ちゃんに個別包装の袋のままあげたそうだ。
須磨春花の兄ちゃんは、余分にゲットしたお菓子をその場で食べず、持って帰ったそうだ。
帰りの園バスから仲良く降りて、迎えに来た母親たちに、二人でおやつを見せながら説明したら、うちのオカン、まさかのマジ切れ。
「ガキの分際で色気付きやがって気持ち悪い!」とか何とか絶叫。
姉ちゃんに情け容赦ない本気のグーパン。
口汚く罵りながら、倒れた姉ちゃんに殴る蹴るの追加攻撃。
オカンは、須磨春花の母ちゃんたちに引き離され、園バスの運転手さんに取り押さえられても、まだ暴れようとしていたらしい。
この時に、須磨春花の母ちゃんたちは全員、オカンに打撲や捻挫の軽傷を負わされ、服もちょっと破られたりしたそうだ。
顔中血だらけで倒れていた姉ちゃんは、近所の人が呼んでくれた救急車で病院へ。須磨春花の母ちゃんが付き添ってくれたそうだ。
オカンは、別の人が呼んだパトカーで警察へ。「母親だから」と言う理由で、この日は事情聴取だけされて、晩ご飯前に帰らされたらしい。
翌朝。
オカン、まさかの幼稚園襲撃。
「幼稚園児にバレンタインなんて早過ぎる! 園が非常識! チョコなんて出すな!」的なことを怒鳴り散らして、暴れたそうだ。
どう見ても、モンスターペアレントです本当に(以下ry
と言う訳で、当時ウチで同居していた祖父ちゃんが、幼稚園に呼び出された。
父ちゃんはその時、杜の都に出張中で、すぐには帝都に戻れなかったらしい。
祖母ちゃんは、念の為に入院した姉ちゃんの付添、クソ兄貴と俺は、愛子叔母さんの家に預けられたそうだ。
祖父ちゃんは、幼稚園で平謝り。
オカンにも頭を下げさせ、お隣の須磨さんや近所の人たちにも、菓子折り持ってお詫び&お礼行脚。
オカンの実家にも連絡したが、オカンの実家は本州の北の端なので、すぐには帝都に来られず、後日改めて、と言う事になったらしい。
深夜。
オカン、家を抜け出して、何故か須磨さん宅を襲撃。
須磨さんの庭に置いてあった植木鉢を全部投げて、玄関燈と、庭に面した窓ガラスと、車のフロントガラスを破壊。
「エロガキぶっ殺す!」などと意味不明な供述をしつつ、須磨さん家の庭にあったスコップで、玄関のドアをガンガン殴りつけているところを、通報で駆けつけた警察官に取り押さえられたそうだ。
騒ぎに気付いたウチの祖父ちゃんは、オカンを止めようとして、怪我をしたらしい。
後日。
弁護士を交えて、両家の話し合いが行われたそうだ。
オカンの中では「乳児が居るのに、夫が出張したせいで、育児ノイローゼになりました」ということになっていて、何故か、父ちゃんと赤ん坊の俺に、責任が擦り付けられた。
壊した物の弁償と治療費は、父ちゃんの生命保険を解約して、自家用車を売って、父方の親戚に頭を下げまくって、金借りて払ったそうだ。
植木鉢の大半が、須磨さんのお祖父さんの盆栽で、どれも一鉢が数十万円する物だったらしい。
慰謝料は、帝都に来た母方の祖父ちゃん祖母ちゃんが、須磨家で土下座して払って、警察への被害届を取り下げるようにお願いしたそうだ。
須磨さんたちは、母親が前科者になったら、子供たちが可哀想だから……と、「オカンが落ち着くまで、実家に帰らせること」を条件に、取り下げてくれたそうだ。
和解条件は、この他にも「家人同士の接触禁止」など、色々あるらしい。
オカンは1年くらい実家に帰った。
世話が必要な一歳児の俺ではなく、小学生の兄貴だけを連れて行った。その間、兄貴はオカン公認で、学校サボリ。
姉ちゃんと俺は、祖父ちゃん祖母ちゃんに面倒を看てもらい、父ちゃんは、家のローンと借金返済の為に会社の他、バイトもした。でも、過労で倒れて、バイトはやめたそうだ。
因みに、その借金は、まだ完済できていない。




