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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第03章.フリマ

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17.お屋敷

 (ともえ)の家は、瀬戸川(せとがわ)公園の北側にあった。


 古くて大きな洋館で、博物館っぽい雰囲気のお屋敷だ。

 庭はないけど、鉄柵の門扉の向こうは、車が二台くらい停められそうな煉瓦(れんが)敷きのスペースになっている。玄関はその奥にあった。


 玄関ポーチに寝そべっていた犬が、尻尾を振って駆け寄ってきた。

 土佐闘犬をダックスフント色に染めたみたいな黒茶の奴……犬に詳しくないから、よくわからない。とにかく、でかくて強そうな犬だ。

 こんなのに襲われたら、絶対食い殺される自信がある。


 無理。

 やっぱ大金持ちは、こういうヤバい犬放して、泥棒対策してるんだなぁ。


 「ポテ子、ハウス」

 巴の叔父さんが命令すると、でかい犬は素直に玄関ポーチの犬小屋に入ってお座りした。

 叔父さんが、門扉を細く開けて俺たちを中に入れ、最後に自分が入って、素早く閉める。


 巨大なポテ子が、腰を浮かせて一声吠えた。

 巴がびくりと身を竦ませる。俺も固まった。


 「ポテ子、お座り」

 叔父さんの声で、ポテ子は座り直して、こっちを見た。

 俺たちはまだ固まっている。


 叔父さんは玄関の鍵を開けると、犬小屋の前にしゃがんで、ポテ子の頭を撫でた。

 「今の内に入って」

 叔父さんに声を掛けられて、呪縛が解けた。

 俺たちはポテ子から目を離さず、()り足で叔父さんの背後を通り、ドアの内側に体を滑り込ませた。


 巴がドアを閉めた途端、全身の力が抜けた。

 「よしよし、ポテ子、お利口さんだな。おやつあげよう」

 ドア越しに叔父さんの声が聞こえる。


 あんな怖い顔なのに飼い主には懐くんだ。

 って言うか、巴は自分ちの犬が恐いんだ。ホント気の小さい奴だな。


 巴は既に靴を脱いで、スリッパに履き替えていた。

 玄関ホールは、俺の家の居間くらいの広さがあった。


 左右は両開きの木製扉。

 植物っぽい飾りが彫刻されていて、扉なのに芸術品みたいにキレイだ。


 正面は、上三分の一くらいにガラスが(はま)っている両開きの扉。ガラス越しに中庭が見えた。中庭は色々な花が咲いていて、花畑みたいになっている。


 玄関ホールの隅には、木製のこれまた立派な電話台。反対側の隅にはAEDがあった。

 電話は普通のプッシュホン。これはわかる。

 でも、何で、駅とかに置いてあるみたいなAEDが、一般家庭にあるんだ?


 金持ちスゲー……


 「叔父さん、心臓悪いから」

 俺の視線に気付いた巴が、ぽつりと説明した。

 靴を脱ぎかけた姿勢のまま、思わず玄関を振り返る。


 「もう一人の叔父さん」

 巴は補足説明をして、左の扉を開けた。

 俺は靴を揃えて、高そうなスリッパに足を突っ込み、巴の後を追った。


 扉の向こうは、板張りの広い廊下だった。

 壁はシミひとつない白。腰板にも、ちょっとした彫刻が施されている。地味だけど、上品で落ちついた雰囲気。


 世界が違い過ぎて、羨ましいとすら思えない。

 博物館って言うか、貴族の館だ。


 巴は、呆然とする俺を置いて、廊下の奥へと歩いて行く。


 右手側は、窓があって中庭が見える。中庭の三分の一くらいのスペースは煉瓦敷きで、頑丈そうな物干し台が置いてあった。

 この豪邸は、中庭を囲んで建てられ「口」の字型になっているようだ。


 左手側には、ドアが幾つも並んでいる。

 今見た範囲だけでも、俺の家より広い。


 巴は、右手側の廊下の曲がり角を素通りして直進し、ドアを開けた状態に固定してある部屋の前で立ち止まった。

 「ここ、洗面所。トイレは手前」

 「う……うん」


 テレビで見た高級ホテルみたいな洗面所で、ビビりながら手を洗う。

 俺たちが洗面所を出ようとしたところに、入れ違いで叔父さんが入って来た。


 「台所で待ってて。すぐ用意するから」

 叔父さんに言われた巴は、(うなず)いて廊下を引き返した。玄関ホールの右側の扉を抜け、反対側の奥へ向かう。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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