18.使い魔
台所は広くて立派な厨房だった。
背広姿の年配の男性が、流しで何かしている。
「取敢えず座って」
「う……うん」
勧められるまま、八人掛けダイニングテーブルの真ん中の椅子に腰を降ろした。
俺ん家の台所にこんな物があったら、身動きとれなくなってしまうが、巴の家の台所は全然、余裕だ。
巴は食器棚に向かった。
男性が、水を止めてこちらを向いた。
水を入れていたらしい。右手に俺の家と同じ機種の湯沸かしポットを提げて、テーブルの横を通る。
「おかえりなさい」
「う……うん。ただいま」
執事さんっぽい渋い雰囲気の大男は、俺の存在に気付いていないかのように、巴にだけ声を掛けた。
巴は、ガラスのコップをテーブルに並べながら、ぎこちなく返事をした。
何だ、巴の奴、執事さんも怖いのか?
あ……!
俺は思わず立ち上がった。
この「人」見ことある……!
もし、他人の空似じゃないなら、そりゃ怖いわ。
「あ……あの……もしかして……黒江……さんですか?」
「そうですが、それが何か? 政晶さん、ご飯と味噌汁はできています。生地は念のために冷凍庫に入れてあります」
「う……うん、ありがとう」
黒江さんはそれだけ言って、台所を出て行った。
「あ……あのさ、巴って、ひょっとして親戚に帝大の先生……居る?」
「……何で黒江知っとん? 何でおっちゃんの仕事知っとん? 会うたことあるん?」
巴は驚いて、矢継ぎ早に質問を返して来た。
完全な方言。これが素なんだろう。
「帝大のサイトで見た。あの黒江さんって、魔道学部の巴先生の使い魔だよな? さっきの叔父さんが巴先生?」
「違う。も一人のおっちゃん」
こんな偶然って、ありかよ。
たまたま、巴が俺のクラスに転校してきて、たまたま、フリマで巴の叔父さんにぶつかって、家に招待されて、使い魔に会った。
使い魔が居るってことは、つまり、今、まさに、現在、この瞬間、この家に、あの巴先生も居るってことだ。
本物の魔法使いの先生と、ひとつ屋根の下……
緊張で口の中がカラカラに乾いた。掌がじっとり汗ばみ、鼓動が早くなる。




