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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第03章.フリマ

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16.ご招待

 「よかったら、うちでお茶でもどう?」

 「えっ? いえいえいえいえ、そんな、ご迷惑になりますし……」

 俺は胸の前で手を振って全力でお断りした。


 今、ここでこうしてるのが見つかってもヤバいのに、家に行くとか、洒落にならん。オカンが(ともえ)の家に、植木鉢で窓割りに行くっつーの!


 「おうちの人と一緒に来てるの?」

 「あ、いえ、一人です。今日はみんな出掛けてて、夜まで俺一人なんで……」


 そうだった。

 今、オカンは、よくわからんインディーズバンドのライブツアーで、杜の都(もりのみやこ)に行ってるんだった。


 安堵で、少し肩の力が抜けた。

 「お昼ご飯は?」

 「今から帰って作ります」


 作るっつーか、昨日のカレーの残りを温め直すだけだけどな。


 「よかったら、うちで一緒に食べない? この子は遠くから引っ越して来たばかりで、心細いから、色々教えて貰えると、ありがたいんだけど……」

 巴オリジナルは、拡大コピーの陰から、ニュートラルな表情で俺を見ている。


 「いえいえ、そんな、他所(よそ)んちでお昼ご飯なんて、(あつ)かましい……」

 「今日、この子の父親は、急に仕事が入って、一人分余ってるんだ」


 この拡大コピー、巴の父ちゃんじゃないのかよッ?


 驚いたのが顔に出てしまったんだろう。

 拡大コピーは、笑いながら説明した。

 「私は、この子の叔父なんだ。うちは全然迷惑じゃないから、遠慮しなくていいよ」


 巴の叔父さんと、八百源(やおげん)の婆さんが重なった。

 今、オカンは新幹線で片道一時間半、更に電車とバスを乗り継いで、一時間掛かる遥か北の街だ。順調に行っても、帰りは深夜になる。


 いっそ帰って来るな。


 だが、ここで招待に応じると、友達認定されてしまう。


 何故か、仏の明石(あかし)の慈愛に満ちた笑顔と、赤穂(あこう)の屈託のない笑顔が、脳裡(のうり)(よぎ)った。

 もし、巴に友達認定されたとしても、赤穂みたいに学校限定で、ちょっと喋るだけにしとけば、大丈夫かもしれない。


 パーカーのポケット越しに、魔法の腕環に触れてみた。

 固い金属の感触と「何か」の気配のようなものが、確かに感じられる。


 爺さんのブースに目を()ると、きれいな女の人が、しゃがんでアクセサリーを見ていた。

 祖母ちゃんの事を聞くのは、腕環を返しに行った時にしよう。


 「じゃあ、あの、図々しいんですけど、お言葉に甘えて……」

 今の俺には、魔法の腕環がある。俺は招待に応じることにした。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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