16.ご招待
「よかったら、うちでお茶でもどう?」
「えっ? いえいえいえいえ、そんな、ご迷惑になりますし……」
俺は胸の前で手を振って全力でお断りした。
今、ここでこうしてるのが見つかってもヤバいのに、家に行くとか、洒落にならん。オカンが巴の家に、植木鉢で窓割りに行くっつーの!
「おうちの人と一緒に来てるの?」
「あ、いえ、一人です。今日はみんな出掛けてて、夜まで俺一人なんで……」
そうだった。
今、オカンは、よくわからんインディーズバンドのライブツアーで、杜の都に行ってるんだった。
安堵で、少し肩の力が抜けた。
「お昼ご飯は?」
「今から帰って作ります」
作るっつーか、昨日のカレーの残りを温め直すだけだけどな。
「よかったら、うちで一緒に食べない? この子は遠くから引っ越して来たばかりで、心細いから、色々教えて貰えると、ありがたいんだけど……」
巴オリジナルは、拡大コピーの陰から、ニュートラルな表情で俺を見ている。
「いえいえ、そんな、他所んちでお昼ご飯なんて、厚かましい……」
「今日、この子の父親は、急に仕事が入って、一人分余ってるんだ」
この拡大コピー、巴の父ちゃんじゃないのかよッ?
驚いたのが顔に出てしまったんだろう。
拡大コピーは、笑いながら説明した。
「私は、この子の叔父なんだ。うちは全然迷惑じゃないから、遠慮しなくていいよ」
巴の叔父さんと、八百源の婆さんが重なった。
今、オカンは新幹線で片道一時間半、更に電車とバスを乗り継いで、一時間掛かる遥か北の街だ。順調に行っても、帰りは深夜になる。
いっそ帰って来るな。
だが、ここで招待に応じると、友達認定されてしまう。
何故か、仏の明石の慈愛に満ちた笑顔と、赤穂の屈託のない笑顔が、脳裡を過った。
もし、巴に友達認定されたとしても、赤穂みたいに学校限定で、ちょっと喋るだけにしとけば、大丈夫かもしれない。
パーカーのポケット越しに、魔法の腕環に触れてみた。
固い金属の感触と「何か」の気配のようなものが、確かに感じられる。
爺さんのブースに目を遣ると、きれいな女の人が、しゃがんでアクセサリーを見ていた。
祖母ちゃんの事を聞くのは、腕環を返しに行った時にしよう。
「じゃあ、あの、図々しいんですけど、お言葉に甘えて……」
今の俺には、魔法の腕環がある。俺は招待に応じることにした。




