第一話 「目隠し」
【562年】
かつて世界を力で支配していたアラクネ・オーガの国は滅んだ。
エルフの英雄クリオスは世界をこの二種族から救った。彼の望みは、争いの無い世になる事だった。
【756年】
世界は一つになっていた。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人、リザードマン、ヴァンパイア。
多様な種族が暮らしていた。
ただ、ボロボロと音を立てて世界は崩れつつあった。
現在の王国は32年前に成立した。
「フェンネル王国」
エルフの王国を滅ぼして、グラン・フェンネルという人間が王になった。
王は昔、エルフにトラウマがあった。
すぐ、エルフは差別され始めた。
統一から一年ほど経ったとある日、王は秘密裏に腕のいい魔術師をかき集めた。
全てのエルフに呪いをかけるためであった。
エルフの四百年余りの寿命は、六十年程度にまで縮まった。
長く生きることの出来なくなったエルフの生活は大きく変化した。
一瞬に感じていた十年は、宝になった。
長年をかけて培う技術は消えつつあった。
生き証人としての役割も、終焉を迎えた。
圧倒的な魔力も、大きく抑えられた。
呪いをかけた後、王は魔術師らを殺した。
この事実を、揉み消すためであった。
その数日後、王は死んだ。
三十九歳、病死だった。
二代目の王はそのとき十六歳、養子だった。
二代目の王は、呪いの事を知らなかった。
平和な世は訪れたように見えた。
ただ、すぐ人々は違和感を覚えた。
いきなり、百歳を越えるエルフらが変死し始めたからだ。
エルフらは、何かがおかしいと抗議し、反乱を起こした。
王は軍を派遣し、武力で抑えようとしていた。
ただ、それは反乱を増やすばかりであった。
エルフへの差別は激しくなった。
そして二代目の王は、父と同じように病死した。三十歳だった。
現在三代目の王は、遊んでばかりだった。
世が音を立て、移り変わる事を知らずに。
民も、それは同じであった。
とあるエルフと人間が世を変える事を知らずに。半分反乱の諍いを恐れ、半分のんびりと暮らしていた。
そんなとある日の昼頃。
『フェンネル王国中央街』
ルテティアはギルドに来ていた。
彼女はいつも黒いフードで顔を隠していた。
彼女は、エルフであったために、顔を隠していた。
あの尖った耳を見られまいと。
もう、あんな事にはなるまいと。
彼女は早い足取りで受付に向かう。
「この近くで報酬が高い物は?」
「ありますけど……一人ですか?」
「そうだけど。」
「この任務は一人は危ないです……せめてもう一人腕の立つ人を……」
「大丈夫。」
ルテティアは、ギルドを出た。
「ねぇ!」
後ろから声がした。少年が立っていた。
「一人で本当に大丈夫?」
「大丈夫。」
「でも……心配だよ……!」
「大丈夫……絶対。」
「僕もついていくよ!」
「いい。」
ルテティアは去ろうとした。
「危険だよ!僕も行く!」
「……そう……」
彼女は渋々了承した。
むしろ必ず断るつもりだった。
全員、嫌いだからだ。
あの時の記憶が、そうさせた。
彼女はあれ以来自分を封じ込めたままだった。
少年は彼女の境界線に堂々と入り込んだのだ。
「僕、マーズ。マーズ・シュテインス。」
「私は……ルテティア・サンダーソニア。」
「ルテティア……!よろしく!」
「……」
ルテティアは少し頷いて、歩き始めた。
マーズは、少し早足でついていった。
彼女の早い足取りに追いつくため。
第一話 「目隠し」 完




