80回目 厄介な味方 9
破滅への道を好んで進む北原。
その姿は笑うしかない。
だが、笑いながらもトシキは、これを決して軽く扱いはしなかった。
馬鹿な事をやればこのようになる。
その生きた実例として北原は重宝していた。
決して同じようにはなるまいと決意をさせてくれる。
「そんなにヒーローになりたいのかねえ……」
そんな疑問を抱かせる。
北原の、そしてその周囲の者達を見ていて思う。
ヒーロー症候群と言うべき行動を見ながら。
それは、誇大妄想と言えるのかもしれない。
自分が崇高な存在であると思い込んでいるような。
それ故に、偉そうな態度や行動をとろうとする。
自分の力量を考える事もなく。
あるいは極度に肥大した自己愛とでも言うべきか。
もっと高い評価が欲しい、もっと周りに良い印象を与えたい。
自分を良く見せておきたい。
そのような考えで動いている。
その結果、無理や無茶をする。
その結果、きれい事ばかり口にする。
それでいて、現実への対処などは全く考えない。
夢想や理想だけを考えている。
夢想や理想だけで行動していく。
現実を無視して、妄想した自分の姿を前提に行動していく。
能力や実力が伴っていれば良い。
まだ救いはある。
しかし、それらを全く考えないのが問題だ。
それで失敗しても、自分に責任があるとは考えない。
想像すらもしない。
問題が自分にあるとは考えず、全てを他に押しつける。
他人や周りの状態などに。
今回の失敗も、北原は決して自分の責任だとは思ってない。
敵を倒せない仲間が悪い。
ちゃんと準備をしなかった仲間が悪い。
そんな事を考えている。
「どうしてこうなるんだか」
肥大した自我の持ち主というわけではない。
肥大も何も、自我だけを持ち合わせているのだ。
他人の事など何も考えない。
そう言ってよければ、ナルシストといえるだろう。
「こうならないように気をつけないと……」
悪い意味での見本がある。
だから、このようにならないように気をつける。
もっとも、自分の行動が正しいのかどうか。
それに気付くのは難しい。
自分がどういう状態なのかは、自分で分からないものだ。
かといって他人に聞いてもしょうがない。
他人の言ってることが正しいかどうかも分からない。
だから気をつけるしかない。
せめて最悪なまでに道を踏み外さないように。
とりあえず今は、北原というわかりやすい基準がある。
それを見て、こうはなるまいと気をつけていく。




