第28話『体育祭の打ち上げ』
11月23日、土曜日。
クラスでの体育祭の打ち上げと、結衣の家でのお泊まり当日となった。
今日は午前10時から午後3時までバイトがある。打ち上げとお泊まりという楽しみなイベントがあるので、5時間のバイトもあっという間に感じられた。
シフト通りにバイトが終わり、俺はお泊まりの荷物を持って結衣の家に行った。
打ち上げの集合時間の近くまでは結衣とお家デートだ。
現在放送中で2人とも好きなアニメを観る。いつもはアニメを観るときには飲み物を飲んだり、お菓子を食べたりすることが多いけど、この後は焼肉の食べ放題があるのでお菓子は食べずに温かい紅茶を飲むに留めたのであった。
「じゃあ、クラスの打ち上げにいってきます!」
「いってきます」
「いってらっしゃい! 結衣、悠真君、いっぱい食べてきてね!」
「2人ともいってらっしゃい。打ち上げ楽しんでおいで」
「いってらっしゃい、お姉ちゃん、悠真さん! 焼肉をいっぱい食べて、打ち上げをいっぱい楽しんできてください!」
午後5時40分頃。
裕子さんと卓哉さん、柚月ちゃんに見送られながら、結衣と俺は打ち上げ会場である駅の北口近くの焼き肉屋さんに向かって、結衣の家を出発する。この後、午後5時50分にお店の前で集合することになっている。
今の時期だと、この時間になるともうすっかりと日が暮れている。それもあり、空気は結構冷えていて寒い。ただ、そんな気候だから、結衣と繋いでいる手の温もりがとても心地良く感じられる。この先はもっと温もりが恋しくなっていくのだろう。
「焼肉楽しみだね、悠真君!」
「楽しみだな! お腹空いているし、結衣達と一緒だから」
打ち上げの幹事であり体育祭実行委員でもある岡崎と鈴木さん曰く、予約した食べ放題コースは午後6時からの90分。カルビやハラミ、ホルモン、タン、鶏肉など様々な種類のお肉が食べられるとのこと。野菜も食べ放題で、ドリンクも飲み放題とのこと。楽しみだ。
「ねえ、悠真君ってこれまでお店で焼肉を食べたことってある?」
「家族や親戚と何回かあるよ。今日行くお店も駅前にあるから行ったことある」
「そうなんだね」
「結衣はこれまでにお店で焼肉を食べたことはあるか?」
「うん、何度もあるよ。家族とはもちろん友達とも。あと、中学生のとき、体育祭の後にクラスの打ち上げで焼肉食べたよ。姫奈ちゃんも一緒だった」
「そうだったのか」
中学生のときも、今日のように体育祭で焼肉を食べに行ったのか。
俺が中学生のときは学校のイベントの後の打ち上げとかには参加しなかったな。そもそも、あったのかどうかも分からないけど。実際にはあったけど、クラスメイトとは最低限の会話をする程度だったから誘われなかったパターンもありそう。
「家族や親戚以外とは焼肉を一緒に食べたことがないから、今日の打ち上げでの焼肉が楽しみだよ」
「そっか! 見送ってくれたときに柚月が言っていたけど、一緒に焼肉をいっぱい食べて、打ち上げをいっぱい楽しもうね!」
結衣は持ち前の明るく可愛い笑顔でそう言ってくれた。恋人の結衣はもちろんのこと、伊集院さん、福王寺先生、クラスメイトも俺の出席番号の一つ前の橋本とか、体育祭実行委員の岡崎、文化祭実行委員をしていた佐藤を中心に楽しく話せる人が何人もいる。だから、この後の打ち上げが楽しみだ。
それからも結衣と談笑しながら、集合場所である駅の北口近くの焼き肉屋さんの前に向かった。
「あっ、結衣と低田君来たのです」
「本当ね、姫奈ちゃん。おーい」
焼き肉屋さんの前に行くと、俺達に気付いた伊集院さんと福王寺先生が手を振ってくれた。それをきっかけに、他のクラスメイトも。そんな彼らに結衣と俺は手を振った。
集合時間まであと5分を切っているので、既に多くのクラスメイトが来ている。中には部活があったのか制服姿で、スクールバッグとか部活のものが入っていると思われるエナメルバッグを持っているクラスメイトもいる。
「結衣と低田君は一緒に来たのですね。……そういえば、今日は低田君が結衣の家に泊まると言っていましたか」
「ああ。さっきまで結衣の家でお家デートしてた」
「なるほどなのです。打ち上げで結衣達と焼肉を食べるの楽しみなのです! せっかくの焼肉ですし食べ放題なのでお腹を空かせてきました」
「先生もだよ。休日の午後はスイーツを食べることが多いけど、今日はやめておいた」
「姫奈ちゃんと杏樹先生もお腹空かせてきたんですね。私達もです。お家デートでアニメを観るときはお菓子を食べることが多いですけど、今日はやめておきました」
「そうだな。温かい紅茶だけにしたよな」
俺達みたいに、お腹を空かせてきた人はいっぱいいるかもしれない。
それから数分ほどして、集合時間の午後5時50分になった。
打ち上げの幹事である岡崎と鈴木さんが点呼を取り、無事に1年2組の生徒達全員と担任の福王寺先生がいると確認できた。
時刻も予約している午後6時に迫っていたので、1年2組の生徒達と福王寺先生は焼き肉屋さんの中に入った。
お店に入り、店員さんによって案内される。
40人近くの団体で予約してもOKなだけあり、店内はかなり広い。以前に家族で来たことはあるけど、今日は大勢で来ているので以前よりも広い印象を抱く。
俺達は、予約席として確保されている複数の4人席や6人席がズラリと並んだエリアに案内された。
岡崎と鈴木さん曰く、好きなところで座ってOKとのこと。
結衣の誘いで俺、伊集院さん、福王寺先生で4人席のテーブルに座ることに。俺は結衣と隣同士で座り、テーブルを挟んで正面には先生がいる形だ。結衣や特に親しい伊集院さんと先生と同じテーブルから楽しめそうだな。
全員が席に座ってすぐ、複数の店員さんにより、最初のお肉や野菜、飲み物の注文を取ってくれた。お肉はカルビやハラミ、タン、ホルモンなど、野菜については人参やタマネギ、カボチャといった焼肉では定番のもの、飲み物については俺はコーラ、結衣はオレンジジュース、伊集院さんはリンゴジュース、福王寺先生はジンジャーエールを頼んだ。あとは4人とも白飯も注文した。
数分ほどして俺達が注文したお肉や野菜、白飯、飲み物が運ばれてきた。
「全員、食べ物と飲み物が来たな。じゃあ、みんなで乾杯しよう!」
岡崎がそう言うと、多くのクラスメイトが「賛成!」と返事した。
岡崎と鈴木さんは飲み物が入ったグラスを持って椅子から立ち上がる。
「みんな、水曜日の体育祭お疲れ様でした! これから1年2組の体育祭の打ち上げを始めます!」
鈴木さんが元気良く言う。そのことにみんなで拍手する。
「午後7時半までの90分間、飲み食い自由だ! いっぱい食べて楽しい打ち上げにしよう! それじゃ、みんなグラスを持ってくれ!」
鈴木さん以上に元気良く岡崎がそう言い、俺達はみんな飲み物が入ったグラスを持つ。
「体育祭お疲れ様! そして、俺達1年2組がいる青チーム優勝おめでとう! それらのことに乾杯!」
『かんぱーい!』
鈴木の音頭で俺達は元気良く乾杯をした。
同じテーブルにいる結衣や伊集院さんや伊集院さんとはもちろん、近くのテーブルにいるクラスメイト達ともグラスを軽く当てた。
コーラを一口飲むと……甘くて美味しいなぁ。
「コーラ美味しい」
「オレンジジュース美味しい!」
「リンゴジュース甘くて美味しいのですっ」
「ジンジャーエール美味しい。……じゃあ、さっそく焼いていこうか」
4人で肉や野菜を鉄板に乗せていく。肉を乗せたときのジューッという音がいいな。
肉や野菜がちょうどいい焼き加減になるまでの間に、俺達はそれぞれタレなどを用意する。俺はタレとレモン汁の2種類を用意した。メインは甘辛いタレだけど、レモン汁につけてさっぱり食べるのも好きだから。
4人とも自分の近くでは、それぞれが特に食べたい肉を焼いている。
俺はカルビを焼いている。焦げてしまわないようにたまに焼き加減を確認し、片面がいい具合に焼けたときにひっくり返した。こういうことをするのを確か「育てる」って言うんだっけ。
結衣達3人も自分の目の前にある食べたいお肉の焼き加減を見ている。また、福王寺先生と結衣は、各々の前で焼いているお肉以外のお肉や野菜とかの焼き加減も見ていた。
俺が焼いているカルビは……うん、いい焼き加減だ。食べよう。
「いただきます」
焼いたカルビを取り、甘辛いタレにつけて、口の中に入れる。
ジューシーでとても美味しい。咀嚼すると出てくるカルビの甘い肉汁と甘辛いタレがよく合っていて。あと、こんなに美味しく感じるのはお腹を空かせてきたからかもしれない。
「あぁ、カルビ美味い」
甘辛いタレを付けて食べたからご飯がとても欲しくなる。なので、ご飯を一口食べると……合うなぁ。たまらない。
「ご飯も美味い」
「ふふっ、美味しそうに食べるね、悠真君」
結衣がそう言うので結衣の方を見ると……結衣はニッコリとした笑顔で俺のことを見ていた。
「カルビもご飯も凄く美味しくてさ」
「ふふっ、良かったね。普段から、悠真君は美味しそうにご飯を食べるよね。好きだなぁ」
「確かに、学校でお昼を食べるときも、低田君は美味しそうに食べるのです」
「たまにしか見ないけど、低田君は美味しそうに食べているね。それは素敵なことだと思うよ」
「ですねっ、杏樹先生」
「同感なのです」
「俺は普通に食べているだけですけど、そう言ってもらえるのは嬉しいです」
結衣達が褒めてくれたおかげで、口の中に残っている肉の旨味が復活した気がした。
「美味しそうに食べている悠真君を見たら、私も食べたくなってきた!」
「ですね。そろそろいい焼き加減だと思うので、あたしも食べるのです。いただきます」
「先生も。いただきます」
「いただきますっ」
結衣、伊集院さん、福王寺先生はそれぞれ自分の目の前で焼いていたお肉を箸で取り、自分で用意したタレやレモン汁を付けて食べる。ほぼ同じタイミングで食べたのもあり、
『う~んっ』
と、3人の声が重なる。美味しいのか、3人ともモグモグと噛みながらいい笑顔になっていく。美味しそうに食べていて可愛いな。あと、美味しそうに食べる人を見ると俺も食べたくなる。
「ハラミ美味しいっ!」
「ホルモン美味しいのですっ!」
「タン美味しいよっ!」
結衣、伊集院さん、福王寺先生はニッコリとした笑顔でそう言った。
「そうですか、良かったですね。あと、結衣達も美味しそうに食べていていいなって思いますよ」
さっき、結衣達から俺が食べる姿のことを言われたので、俺も結衣達が食べている姿の感想を言った。
「えへへっ、ありがとう、悠真君」
「学校ではお昼を一緒に食べていますし、低田君にそう言ってもらえて嬉しいのです」
「先生も嬉しいよ」
そう言う結衣達3人の笑顔は嬉しいものに変わって。そんな今の3人もまた可愛らしかった。
「さっき、カルビを美味しそうに食べる悠真君を見ていたら、悠真君のためにお肉を焼いて食べさせてあげたくなってきたよ! してもいいかな? それとも、悠真君は自分で食べるお肉は自分で焼きたいタイプ?」
「ううん、特には。自分で焼くこともあるけど、誰かに焼いてもらうのも全然かまわないよ。芹花姉さんが俺のために焼いてくれたり、食べさせてくれたりすることが結構あるから」
『あ~』
と、結衣だけでなく、伊集院さんと福王寺先生も声を漏らしている。3人とも何度も頷いていて。
「お姉様らしいね。その光景が容易に想像できる」
「低田君のために喜んで焼いて食べさせていそうなのです」
「焼いているときも食べさせるときも芹花ちゃんは楽しそうにやってそう」
今言ったことを想像しているのか、3人とも楽しそうな様子になっている。3人とも芹花姉さんの俺へのブラコンぶりはよく分かっているもんな。
「3人とも凄いですね。まるでその場面を見ていたかのようです。理解度が凄い。……実際、俺のために肉を焼いたり食べさせたりするときの芹花姉さんはとても楽しそうにしていました」
「やっぱりそうなんだ。可愛いね、お姉様」
「そうね。ただ、芹花ちゃんの気持ちが分かるわ。私も実家にいた頃、家やお店で焼肉を食べたとき、弟の雄大や妹の遥のためにお肉を焼いたり、食べさせたりすることあったから。2人とも美味しそうに食べてくれるし、それが可愛いから」
「私も分かります。妹の柚月が小さい頃は柚月のために焼いて、食べさせたことがありました。美味しそうに食べてくれると嬉しいですし、可愛いですよね」
「だよねっ」
結衣と福王寺先生は笑顔で頷き合っている。2人とも弟とか妹がいるお姉さんだし、好きだからこそ共感できるんだろうな。今のような、長女ならではの共通のエピソードがまだまだあるかもしれない。
「あたしはどちらかというと低田君タイプなのです。小さいときは両親に食べさせてもらいましたし、年上のいとこが何人もいるので、親戚が集まって焼肉やバーベキューをすると、いとこに食べさせてもらうことがありましたから」
「そうなんだ。俺も親戚で焼肉やバーベキューをすると食べさせてもらうことがあったよ。芹花姉さんの影響で、年上だけじゃなくて年下の親戚からも食べさせてもらったけど」
「ふふっ、年下の方からもですか」
「きっと、楽しそうなお姉様を見てやりたくなったんだろうね」
「そういう感じ」
食べたお肉のうちのほとんどが芹花姉さんや親戚の子達に食べさせてもらったっていうときもあったな。
「あと、俺も芹花姉さんに食べさせることもあったよ。そのときの姉さんは幸せそうだったな」
「そうなんだね。その光景も想像できるよ」
結衣がそう言うと、伊集院さんと福王寺先生がうんうんと頷いている。ほんと、芹花姉さんのことをよく分かってらっしゃる。
「お姉様の気持ち分かるなぁ。柚月が食べさせてくれると本当に美味しくて幸せな気持ちになったもん」
「私も。『お姉ちゃん、食べさせてあげる』って雄大と遥が食べさせてくれると特別に美味しかったなぁ。幸せも感じたわぁ」
結衣と福王寺先生も芹花姉さんと同じだったか。あと、さっそく長女ならではの新たな共通エピソードが出たな。
「話がちょっと逸れたけど、結衣に焼いてもらって、食べさせてもらうのは嬉しい提案だ。お願いするよ」
「うんっ、ありがとう! 何を食べたい?」
「じゃあ……結衣が美味しそうに食べていたハラミを」
「ハラミだね!」
「ああ。……俺も結衣のために焼いて食べさせたいな」
「嬉しい! じゃあ、悠真君が美味しそうに食べていたカルビを!」
「了解。じゃあ、お互いに相手のために焼いて食べさせよう」
「うんっ」
俺はお皿からカルビを1枚取って、鉄板の自分の目の前に置いた。また、結衣はハラミをお皿から1枚取って、自分の目の前に置いていた。
結衣のためのカルビの焼き加減を時折確認しながら、俺は他に焼いているお肉や野菜を食べていく。美味しい。結衣も同じようにしている。
「うん、いい感じに焼けたよ。悠真君、ハラミに何を付ける?」
「タレでお願いします」
「タレだね。了解」
結衣は鉄板からハラミを取り、取り皿に出しているタレにつける。煙がまだちょっと出ているからか、何度か息を吹きかけた。
「はい、悠真君。ハラミだよ。あ~ん」
「あーん」
結衣にハラミを食べさせてもらう。
ハラミはカルビよりもさっぱりしているけど、ジューシーさがあって美味しい。甘辛いタレにもよく合っているし。あと、結衣に焼いてもらって食べさせてもらったのもあるな。こんなに美味しいものを焼いて食べさせてもらえて幸せだ。
「凄く美味しいよ、結衣。ありがとう。食べさせてもらえて幸せだ」
「いえいえ。美味しく食べてくれて嬉しいよ。幸せだとも言ってくれて幸せ。自分で焼いて食べさせたから。お姉様が悠真君に食べさせたくなる気持ちがよーく分かる」
「ははっ、そっか」
これはもしかしたら、この後も何度か結衣にお肉などを焼いて食べさせてもらうことがあるかもしれないな。
よし、結衣に食べさせてもらったし、俺も結衣にカルビを食べさせよう。そう決めて、カルビの焼き加減を見る。
「……うん、いい焼き具合だ。結衣、カルビに何を付ける?」
「甘いタレでお願いします」
「了解」
俺は鉄板からカルビを取って、小皿に出してある甘辛いタレにつける。タレで多少は冷めただろうけど、まだまだ煙が出ているので何度か息を吹きかけた。
「はい、結衣。あーん」
「あ~ん」
俺は結衣にカルビを食べさせる。
結衣はモグモグと咀嚼しながら可愛らしい笑顔になっていく。
「すっごく美味しいよ。幸せ」
と言い、結衣の笑顔が幸せそうなものに変わった。柚月ちゃんに食べさせてもらったときはこういう感じだったのかもしれない。あと、俺が食べさせたときの芹花姉さんに重なる部分がある。
「そっか、良かった。嬉しいし、俺も幸せだよ」
その人のために焼いたものを美味しそうに食べてくれるのは、とても嬉しいし幸せな気持ちになれる。
「ありがとう、悠真君!」
「いえいえ」
「ふふっ、本当に結衣と低田君はラブラブなのです」
「そうだね、姫奈ちゃん。2人のラブラブぶりはこの鉄板よりも熱そう」
「言えてるのです」
伊集院さんと福王寺先生は楽しそうな様子で俺達のことを見ていた。
その後も俺は結衣や伊集院さんや福王寺先生達と一緒に焼肉を食べていく。様々な種類のお肉や野菜を食べていって。時には結衣とお互いに焼いて食べさせ合ったりもして。
体育祭の打ち上げが焼肉で良かったと思いながら焼肉を楽しむのであった。




