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48 戦いの終わり

予約投稿の日付を間違えて、本日の投稿になっていました……。

と、いうわけで、本日は二話投稿になります……。


いい加減予約投稿を使いこなせと、そういう話です。

鮮血が噴き出す。

斬り飛ばされた肘から先が、遠くの地面にどしゃり、と音を立てて落ちた。


地面を踏みしめて、崩れた体制を立て直し、歯を食いしばって左腕を引き絞る。


「ぁあああああああッッッ!!」


痛みの絶叫か。

気勢の叫びか。


自分にも判断がつかぬ雄叫びを上げて貫手を放つ。


「ぬんッッ!」


ぐるり、とアラスターの巨体が廻る。

直後、胸に衝撃。


「ぐぁっ、は……がッッ!」


吹き飛ばされて、地面に転がる。

びしゃびしゃと血しぶきを撒き散らしながら地面を滑る。


「ぁ――は……ぅぐ……ぅううう……!」

「レイジ……!」


血が止まらない。

切断面がジュウジュウと焼け付いて、さらなる痛みを呼ぶ。


「はっ、はっ、ぅっ、く……」


息が整わない。

立ち上がろうとして、自分の血で滑って再び転がる。

血が足りない……意識が遠のく……。

立ち上がれ。立ち上がらなきゃ……立て、立って……あいつを……!


「レイジっ! 『炎よ』――!」


俺を振り返りながら、レイリィが呪文を詠唱する。


「だめ、だ、レイリィぃいッッ!!」


集中力を欠いたレイリィの魔法は、精彩を欠く。


「甘いわァッッ!!」


魔術を完成させる寸前のレイリィの眼前で、目くらましの魔力が弾ける。


「ッ!?」


収束した魔力が霧散し、白刃が迫る。

刃が、レイリィの首筋に届く――


「ッ……!」


――寸前。


白刃は、白銀に阻まれた。


「きさ、まッ!」

「ふッ……!」


短い気勢と鋭い剣閃が奔る。


「勇者、アレックスッッ!」

「人王ッ! 僕はッ!」


レイリィと人王の間に割り込んだアレックスが、聖剣を振るう。

軽やかに振るわれる剣が、しかし見た目の何倍もの重さと速度を以て、アラスターの大剣を打つ。


「絆された、出来損ないがッ!」

「違うッ!」

「何が違う! どう違うッ! 貴様は勇者! 闘争の為に在り、闘争こそが貴様の存在意義!」

「そんなものが……ッ!」


剣と剣がぶつかり合って、火花が散る。

上下左右、ありとあらゆる空間を、アレックスの剣が奔る。

受けて、弾き、逸らして、人王の剣が、アレックスの急所に迫らんとする。


二本の剣を繰る人王に対して、アレックスの剣は一本。

そうとは信じられぬほどの手数。


絶えぬ剣戟が、耳朶を叩く。

呻き、這いつくばって、俺は痛みを堪える。


「……レイジ……!」


そこに、レイリィが、切り離された俺の腕を持って走り込んできた。


「こ、これ、くっつく!?」

「ぅ、く……ぁ、ああ……今なら……まだ……」


自分の腕を受け取り、切断面に押し付ける。

ジュゥウウ、と肉を焼く音が大きく響き、痛みに絶叫を上げる。

痛い、痛い痛い痛い。

痛いなんてもんじゃない。

神経に直接焼きごてを当てられているような痛み。


くっつかない……。

いや、くっつく傍から癒着面が焼き切られている……?

いずれにしろ、このまま固定しておくほかない。


痛みに呻きながら、アレックスとアラスターを見る。

絶えず剣戟が激しく続き、鋼がぶつかり合うごとに白銀の火花が両者の間に散る。


戦局は、当然といえば当然だが、アレックス有利だ。

二本の剣を繰るアラスターに対し、アレックスの持つ剣は一本。

しかし、明らかに手数が違う。

アラスターが対の剣を一振りする間にアレックスはその剣を3度は振り払う。

速く、重く、鋭い剣が、一合切り結ぶごとに、アラスターを追い詰めていく。


「ぐ、ぅ、ぉおお!」


裂帛の気勢を上げ、アラスターが大剣を大きく振り回す。

最小限の動きでその剣を打ち払い、アレックスが一歩大きく踏み込む。


「シッ……!」


そのまま腰の辺りまで引いた剣を、横一閃。

金属のぶつかり合う音が大きく響き、アラスターの手から大剣が弾かれ、大きく飛んで行った。


「勇、者ァアアッ!!」

「違う、僕はっ!」


返す刃、慌てて長剣を引き戻し、アラスターがそれを受ける。

……が。


「ぬうぅうッ!?」


長剣の腹を聖剣が叩き、もう一本の剣も、アラスターの手を離れ飛んで行った。

そして、無手となったアラスターの首筋に、曇りなき白銀の刃が付きつけられた。

……圧倒的だった。

時間にして2分ほど。


たった数合の打ち合いで、アラスターを制圧せしめたアレックス。

彼の表情に、勝利の愉悦はなく、ただただ苦しそうな表情をアラスターに向けている。


「……僕は、アレックス・エイリウス。……勇者は、もう、やめます。王……いえ、師匠」

「……ふ……ふふふははははッッ! 勇者はやめる! ハハハッ! やめられると! 貴様は勇者!生まれついての戦闘者! 命を奪い、人を斬ることしか出来ぬ、ただそれだけの存在よ! 剣を捨て、只人になろうとも、貴様の背には、必ず死が纏わりつこうよ! そう、教えた筈だ!」

「っ!?」


アラスターの両手に、光が集まる。

光は形を成し、剣の姿をとって、無手だったその手に握られる。


「形成術……っ! そんなものを多用すればあなたの命は!」

「命っ! 命と言ったか勇者! そんなもの、戦場に立ち、あまねく世界に武を敷くと、そう決めた時から捨てておるわァッ!! 甘い、甘いぞ勇者! 聖人! レイシアァ!!」


ごう、とアラスターの体から魔力風が吹き荒れる。

それは、凄まじい魔力密度をもって辺りを破壊しながら立ち上がる。

まるで……そう、まるで命を削るかのように。


「……レイジ、立てる?」

「あ、あぁ、なんとか……」


痛みは続き、なんとかくっついているだけに過ぎない右腕は動かないが……それでも立ち上がることは出来た。

ふらつく脚に喝を入れて、直立する。

振るわれる二本の光剣から逃れ、大きく背後に跳んだアレックスが、俺の隣に並ぶ。


「レイジ、大丈夫かい」

「あぁ。助かったよアレックス」

「いや、遅くなってすまない。……レイリィも」

「……アレックス、あなたは」

「……うん。僕は人王を止める。たとえ、命を奪うことになっても。……それが、僕の贖罪だ」

「……そう。そうね……わたしも……」

「感傷に浸ってるところ悪いけど、来るぞ! 二人とも!」


両手に光剣を構え、背後に幾本もの光剣を浮かべたアラスターがこちらに向かって駆けてくる。

魔力風が吹き荒れ、踏みしめる地面を破砕しながら駆けるアラスターの動きは精彩を欠くことなく、むしろ、先ほどよりも鋭く、早い。


レイリィが腕を振るい、爆炎を放ち牽制するが、剣の一振りでその魔法を弾き散らすアラスター。

爆炎を縫うようにしてアレックスが走る。

アレックスを貫かんと、背後に浮遊している光剣を放ち、アレックスを狙うアラスター。

その全てを剣で、体捌きで弾き、躱し、アレックスが肉薄する。


「「『聖身強化ホーリィブースト』ォ!」」


アレックスとアラスターが、同時に叫ぶ。

両者の体をを白銀のオーラが包み、速度が上がる。


「なっ……あれって、アレックスの『スキル』じゃ……」

「えぇ……父上のスキル。『全てを統べる王の威光』……他人のスキルを、そっくりそのまま使える『スキル』の効果よ」

「な……なんだよそのチート!?」

「そうでもなければ、わたしとあなたを相手にあれだけ戦えないわよ。父上は、それほど戦闘力が高いっていわけではないもの」

「ど、どうりで矢鱈強いと思った……。……まさか、あの浮いてる剣も……」

「えぇ。……あぁ、そうね、レイジはロザミアにも会っているんだっけ……そうよ。彼女の『スキル』」

「……チートすぎるだろ……」

「でも……あの『スキル』は……」


アレックスが振るう剣と、アラスターの剣が交差する。

横一閃。

それで、アラスターの握った剣が、二本とも霧散する。

アラスターの体が発光し、再び剣が現れ、さらにアラスターの速度が上がる。

他者のスキルを惜しげもなく使い、それでも尚、両者の間には圧倒的な能力の差があった。

アレックスの体がブれ、アラスターの武器が霧散する。

その繰り返し。


「『狂暴化バーサーク』ゥウァ!!」


アラスターが吼える。

白銀のオーラの上に、さらに赤黒いオーラを纏い、さらに速度を、力を増していくアラスター。

その姿はもはや極彩色の光の塊に見えるほどに歪み、いびつだ。

そんな父親の姿を見つめるレイリィの表情は悲痛に歪んでいる。


「……命を、削ってるんだな」

「……なんで……」

「『魂魄情報ステータス』を見た。……最初いくつあったのか分からないけど……アラスターのレベルは、もう2しかない」

「……そう。じゃあ……」

「あぁ……」


俺も同じような代償のある『スキル』を持っているからわかる。

『スキル』を発動させ、その効果が切れた時に味わった、途轍もない喪失感。

あれは、魂を削られる感覚だ。

使い過ぎれば……代償として消費されるレベルが底をつけば、それは、魂の終わりだ。

つまり……。


「……ぅ、ぐ……」


最後の光剣を、アレックスに切り払われて、膝をつくアラスター。

……限界なのだ。

もう『スキル』を使えるほどのレベルが……魂の情報が残っていない。

身体のあちこちにひび割れが走り、そこからとめどなく血が流れ出している。


「……人王、アラスター」

「勇者……く、はは……己が全てを、死す迄使い倒して……貴様には、傷、ひとつ……」

「戦い方は、あなたが教えてくれました」

「そう、そうだな……故にこそ……貴様は、戦いからは、逃れられぬ……」

「……逃げられないというのなら、立ち向かいます。僕に宿命が追いすがるというのなら、その宿命とも戦います。……それが、僕に出来るただ一つのことだというのなら」

「……その、力、なんとする。何のために、振るう」

「……平和の為に」

「く、はは……やはり、貴様も絆された……出来損ないの勇者よ……。出来損ないであれば……出来損ないであればこそ……貴様にしか、出来ぬ戦いを、するがいい。あがき、そして……最後には絶望する。……この世界は、そう出来ている……いずれ、貴様にも理解出来ようよ……」

「……たとえ僕の選んだ道の先に、何が待っていても。僕は……僕として、戦います。それが、勇者として与えられた天命に背くことになっても」

「……ならば……貴様はもう、勇者では、あるまいよ……」

「えぇ。僕は、もう勇者ではありません。……ただの、ただのアレックスです」

「……よきに、はからえ」

「……はい。……師匠」

「……レイシア」

「……はい」


崩れゆく体をなんとか押しとどめ、アラスターがレイリィを呼ぶ。

その隣に膝をつき、レイリィがアラスターの手を取った。


「父上……あなたは、最初から……」

「余計な問答はよい……。結果が全てだ」

「……はい」

「……すまなかった」

「っ、なにを、今更……」

「……オレは、自分の、したことを恥じる気持ちは、微塵もない。……そう。結果が全てだ。

己の全てを懸け、己を止めようとする貴様らと対峙し……それでも、負けた。故に、人王アラスターとして語る言葉は持たぬ。……これは……父親として……レイシア、お前に……」


レイリィの手を優しく握り。

その瞳を見つめる瞳には、そう、たしかに肉親に対する情のようなものが見て取れる。

優し気な、父親の、それだ。


「……母さんの事、すまなかった……オレが、護れず……そのせいで」

「そのせいで、こんなことをしたっていうんですか……父上……父様は……母様のことを……」

「あぁ……そうだなぁ……おれは……認めたくなかったんだろう……ステンシアが、無為に……死んだなどと。……だから、こんなことをして、ステンシアの死には、意味があったんだって……証明したくて……」


威厳ある王の口調ではなく、その語り口は、後悔する男……最愛の妻を亡くし、ただ、後悔する男の口調で……。


「父様……」

「……聖人よ」

「……ん」


呼ばれ、レイリィの横に跪く。

俺を見つめるその瞳。

顔の全体には深いしわが刻まれ、しかし、そこから除く、確かな知性を感じる瞳には、既に何の光も灯っていない。

理解する。

この男は、もう、死ぬのだ。


「……貴様が否定した、己のやりかた……貴様が、通す、貴様のやり方。どちらも所詮は世界の掌の上よ。この世界は、我らに安寧など許さぬ。そう、出来ている……」

「それは……人間が争いを繰り返す生き物だからか?」

「それもあろう……しかし……それだけではない。……それは、世界の理……。オレにも終ぞ理解はできなんだが……貴様にも"才能"があれば、いつか理解出来よう。……しかし、それでも、託そう。あまねく世界に、平和を……安寧を……貴様が否定した、オレの正義を、乗り越えて……さらにその先に……行くと、いうのなら」

「……ああ。俺は行くよ。そして、成し遂げる。あんたに言われなくても」

「さもありなん……。それほどまでの力……決して、間違った方向に使わぬよう……オレのようにな……。……ときに、ローレンツオは……」

「ローレンツォ……?」

「満足して、逝ったか?」

「――――……あぁ。楽しかったって、そう、言い残した」

「……そう、か。……であれば、聖人よ……礼を、言おう。……アレは……あいつは、おれの……友、だったからな……」


人王が、目を閉じる。

指先から、その体が光の粒子になって、天に昇っていく。


「父様……父様っ!」

「泣くな、レイシア……自分の、したことに、胸を張り……人王として、人々を……導く……」

「わ、わたし、わたし、本当は……っ!」

「言うな。……ここから先は、茨の道ぞ。……解って、いるだろう……。レイシア、お前も……王の血族、なれば……」

「……はい」

「よい……。あぁ、ステンシア。……いま、逝く、ぞ」


そして……人王アラスターは、魂の情報になって、天に昇った。


ひしゃげた鎧とその衣服……そして、王冠のみを残して。


「……。アレックス、レイジ」


一瞬だけ俯き、顔を上げてレイリィが立ち上がる。

涙の跡が頬に残っているが、しかし、その瞳は決然としたものだ。


「ん」

「うん」


「わたしたちの、勝ちよ。人王アラスターは討たれ……クーデターは成功したわ。アレックス。その旨を外の皆に」

「わかった。王冠を、借りるよ」

「えぇ」


王冠を拾い上げ、アレックスが玉座の間を後にする。

それを見送って、レイリィが俺を振り返った。

弱弱しく笑みを作る。


「……レイジ。改めて、ありがとう。あなたが居なければ……わたしたちだけでは、このクーデターは成せなかったわ」

「いや、俺は……俺の感情に従って行動しただけだ。……それより……レイリィは、大丈夫か?」

「えぇ。……大丈夫よ。わたしは、大丈夫。そうでなければ……ここまで来るために散っていった人たち……そして、母様にも、父様にも、示しがつかないから……」

「……そうか。……でもさ……今くらいは……いいんじゃないか。俺以外、誰も見てないし」

「え……? なにが……」

「いや、だってさ……ついさっき……父親を失ったんだぞ。……泣くくらいの自由は、あってもいいと思う」

「……ぇ」

「……ほら、まぁ、よければ、胸くらい貸すしさ。……血まみれだし、久しく風呂にも入ってないから臭いかもわからな……うぉっ!?」


言い終わらぬうちに、胸に軽い衝撃。

レイリィが、俺の胸に飛び込んできた。

頭を俺の胸に押し付け、その肩が細かく震えている。


「……ぅっ……く……ぅ」


その肩に手を置く。

右腕は未だに動かないが……まぁ、それでよかったとも思う。

でなければ、俺の胸の中で小さく震える彼女を、きつく抱きしめてしまったろうから。


レイリィの泣き声は、遅れて外から聞こえてくる、大きな歓声にかき消され、誰にも届かなかった。



――俺を、除いては。



こうして、ヘイムガルド王国に於ける反乱は、決着を見た。

人王アラスターが、勇者アレックスに討たれ、レイシア・ジゼル・ヘイムガルドの勝利という結果で。


その結果が、この先の俺たちになにを齎すことになるのか……誰にも知られることのないまま。

本日は一時間後にもう一話、投稿になります。

長いこと続きました2章も、残り数話。

最後までお付き合いいただけますと幸いです。


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