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21 迷宮探索Ⅶ

「……ドラ、ゴン……」


その姿、その存在感。

暴威の化身が、吼える。

翼を翻し、俺たちの頭上を旋回する。

そして、頭をこちらに向け――


「レイジ! 来るのじゃ! レイジ!!」


唖然とドラゴンを見上げる俺に、アリスの怒鳴り声が届く。

ハッとし、未だ痛む体をおして、重たい腕を上げて拳を構える。


急降下するドラゴン。

あごを大きく開いて、咆哮。

腕を振り上げ――


――グゥウウァアアアア!!


一直線に、俺に向かって、その暴力の塊を振りぬいた。

ただ腕を振りぬくだけのその攻撃。

ただそれだけで、その身から溢れる魔力が迸り、辺りの霧が霧散する。


空気を引き裂いて、爪が迫る。

魔力を全身に流す。

時間間隔が引き伸ばされる。


身を屈める。

ただ腕を振りぬくだけの単調な攻撃。

だがそれすらも彼我のサイズ差を鑑みれば最早ほぼ面攻撃だ。


前に転がって、その攻撃をかわす。


先ほどまで俺のいた場所の地面を、ドラゴンの爪が深く削り取る。

クレーターのように地面が抉れ、魔力が爆ぜる。

弾けとんだ地面の石が礫となって、俺の全身を強かに打つ。

痛みを堪えて、尚も地面を転がる。


一瞬後、もう一度振られた腕が、さらに地面を抉った。

さらに1撃、2撃、3撃。

立て続けに振るわれる腕。

一撃一撃が俺の五体を粉砕して余りあるその威力。


背筋に冷たいものが走る。

常に放っている『遠見』が、聖力の反応を返してきている。

つまり、ドラゴンの攻撃は、俺を害することが出来る、ということだ。

急所に貰えば、つまりそれは――死。


「ッ――!」


視界の端に、疾駆する紅い影。

爪を避け続ける俺の脇を抜けて、アリスが槍をドラゴンの脚目掛けて振りぬいた。


――ギィン!


と、硬質な音が鳴り響き、アリスの振るった槍が、ドラゴンの鱗に弾かれる。

目を見開いた。

アリスの攻撃が、通じない……!?


「やっぱり、魔力なしじゃ……!」


歯を噛み、鬱陶しいとばかりに粗雑に振るわれたドラゴンの腕を、低く駆けることでかわしながらアリスがごちる。

アリスの気を取られたその一瞬。

俺は、ドラゴンの股下を駆け抜けて、後ろからその巨木のような後ろ足に、魔力を籠めた回し蹴りを叩き込む。


タイミングもフォームも魔力の伝達も申し分なし。

凡庸な……否、多少強い程度の魔物であれば、一撃で屠るであろう渾身の一撃。


だが――


「うそ、だろ!?」


硬い外皮に阻まれ、内部に流し込んだはずの魔力が、弾かれ霧散する。

そして、驚愕に硬直した俺の体を、


「ガッ!?」


ドラゴンの後ろ足が、真正面から蹴り抜いた。

ガードも間に合わず、モロに食らう。

全身の骨が砕ける音が体内で響き、ボロクズのように吹き飛ばされた。


「ごっ、が、っ! ぐぁ……!」


岩肌に何回か叩きつけられバウンドし、地面を無様に転がる。


「か――は……!」


息が出来ない。

体の中が滅茶苦茶になっている。


痛みに意識が白熱する。


激しく咳き込み、黒い血が口から溢れ出す。


――怪我が治らない。

傷の治癒を、叩き込まれたドラゴンの聖力が阻害している。


腕も足もへし折れてる。

力が入らない……!


「レイジ!」


瀕死の俺を踏み潰そうと振り上げられたドラゴンの足を、アリスが槍で弾きながら、俺を庇う様にして立ちふさがった。


「あ、りす……」

「大丈夫! 気をしっかり持って! 遅いだけでちゃんと治る! その程度で吸血鬼わたしたちは死なない!」


次々と繰り出される爪を、足を、弾きながらアリスが檄を飛ばす。

飛来する銃弾が、ドラゴンの視界を遮る。ロックが放った銃撃だろう。

しかし、ダメージはない。

歯牙にもかけず、俺にトドメをささんと、振るわれるドラゴンの攻撃。

そのすべてを槍術のみで捌くアリス。


徐々に、徐々にだが、傷が治癒してゆくのを感じる。

しかし、遅い。

げほっ、と咳き込んで、再び口から血がこぼれた。


「魔力を循環させて! 大丈夫、大丈夫だから! 絶対に護る! レイジは殺させない……!」


言われたとおり、体内の魔力を循環させる。

壮絶な痛みが前身を走り、魔力の制御に集中できない。


「く……ぅう!」


ドラゴンの猛撃にアリスが押されはじめる。


「こ、のぉ……!」


ギン、ギン! と鉄がぶつかるような音を上げ、ドラゴンと槍がぶつかり合う。

火花が散る。

衝撃で地面にクレーターが出来る。


「はぁあっ!」


裂帛の気勢を上げ、アリスが踏み込む。

紅の軌跡がドラゴンに奔り、その外皮を穿たんと振るわれる槍が、しかし阻まれる。


「む、りだ……ありす……」


大量の血を吐きながら、手足に力を籠める。

骨折は治癒した。

立ち上がれ。立ち上がって戦え……!

彼女アリスだけに戦わせるな……!


がくり、と膝が折れる。

膝をつき、血を吐く。

まだ中身が治りきっていない……!


「く、そぉ……!」


駄目だ、倒れるな。

アリスは魔力が使えない。

体術だけでアレと戦うのは、いくらアリスでも……!

笑う膝に力を入れて、立ち上がる。

魔力を回し、治癒を早める。

早く、もっと、もっとはやく……!


「く、ぅうっ!!」


上から振り下ろされたドラゴンの爪を、掲げた槍で受け止めるアリス。

踏みしめた足元にクレーターが出来、その攻撃の重さを物語る。


鍔迫り合いのように力が拮抗し、しかし。


「くぁっ!?」


横に振るわれた腕で、アリスの体が吹き飛ばされた。

空中で猫のように体を翻し、体制を整えるアリス。

だが、その隙に、まだ立ち上がれないでいる俺に向かって、ドラゴンの爪が振るわれた。


「坊主!」


ダァン! と銃声。

ドラゴンの肩口に放たれた弾丸が直撃するが、鱗が少し焦げた程度で意味がない。

迫る爪、時間間隔が引き伸ばされて、やたらとスローに感じる。


「レイジぃ!!」


アリスの悲痛な叫びが届く。

体を動かそうと、魔力を籠めるが……駄目だ、動かない。

直撃――すなわち死。


だめ、だ。

よけ、られない……。


諦観に心が支配される寸前、その刹那。


黒い影が、俺の背後から飛び出して、真正面からドラゴンの爪を弾き返した。


「……ぁ……?」

「すみ、ません。助けに、入るのが、遅れ、ました」


漆黒のマフラーをたなびかせ、両手に真紅の短剣を逆手に構えたセシリアが、俺を庇うようにして、ドラゴンの前に立ちふさがった。

ヒーローは遅れてやってくる。


短いので、一時間後にもう一話投稿します。

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