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17 迷宮探索Ⅳ

下ってきた細い道を、新たに加わった機王ロック・アイゼンを加え、俺たちは戻る。


「で、聖人レイジと賢王アリシアは分かった。その嬢ちゃんは誰だ?」

「ん? あぁ、この子はミリィ。ミリアルド・ファランティスだ」

「ファランティス!? そりゃ、魔王の名前じゃねぇか」

「娘なのー! ミリアルドです! よろしくお願いします!」


わあい、と両手を上げてミリィが自己紹介した。


「ちゃんと自己紹介出来て偉いな」

「えへへー……」


頭を撫でると、ふにゃふにゃとミリィが笑顔になった。


「聖人よぉ」

「ん?」

「賢王と魔王の娘を手なずけて、お前、どうするつもりだ? 世界征服でもすんのか?」

「いや……手なずけてないし……。世界征服にも興味はない」

「ま、世界征服は冗談だ。……目的が知りたいのは冗談じゃないがな」

「だから世界を平和にするのが目的だって」

「『ヘイワ』ねぇ。クレインから聞いたことある言葉だが……どういう意味だ?」

「んー……それがな……――」


機王に説明する。

この世界の人類の魂には制限がかかっていること。

その制限を俺の才能なら解除できること。

その為には迷宮の最奥にある『情報端末コンソール』にアクセスする必要があること。

人間族の制限は既に解除したこと。

その為に今世界中の迷宮を探索して回っている最中であること。


「ふぅん、なるほどなあ。『情報端末コンソール』ねぇ……。あの奥にはそんなモンがあるんだな」

「あぁ。『無限物質エタニティマター』ともいうらしい。世界中の迷宮の基になった物質らしい」

「迷宮の基……。材料ってことか?」


ダイモンが横から口をはさんでくる。


「あぁ。その物質を、先代の聖人……聖人ユウトが【創造魔法】っていう才能で加工して造ったのが、世界各地の迷宮らしい」

「【創造魔法】……聞いたことないな」

「わしもないのじゃ」

「ユウトは自分のオリジナルじゃないか、って言ってたぞ」

「ほー。物質を加工して迷宮に……ねえ。なるほど? お前さんの例もあるし、聖人が世界の理を書き換えるってハナシはあながち間違いでもねぇってワケか」

「あぁ……そういう言い伝えがあるんだっけ」

「ミリィも聞いたことあるなの」

「人の迷宮でも言ってたな」

「うんうん」


こくこくと、ミリィが頷いた。


「ん、そろそろ出口だ」


機械の駆動音が大きくなってきた。

四角く切り取られた光が、俺たちを照らす。


「ま、機王は見つけたし、さっさと15層まで行って、聖人の門を抜けよう」

「そうじゃな」

「はいなの!」

「15層……そして、その奥……前人未踏の迷宮の最奥……」

「マシナーズハートを探すのも忘れんなよ」

「それはお前の目的だろ……」



――――――



それから3日。

俺たちは2層下って、機械の迷宮、第13層まで降りて来ていた。


「おぉ、坊主! そいつァ頼んだぞー!」

「あぁ、任された!」


ロックリザード……巨大な亀のような魔物、その亜種に挟撃され、狭い通路で俺たちは大立ち回りを繰り広げている最中だ。


「『装填ローディング』……『土よ、強く』――『物質強化マテリアルブースト』」


俺に背を預けた機王が、対物ライフルのようなものを構えて魔法を行使する。

弾丸に強化術をかけ、威力を上げているらしい。


「『檄砕の銃弾(ブロウクンバレット)』――」


スキル名を詠唱し、引き金を引く。

ライフルの銃口から弾丸が発射され、空間すら砕きながら寸分の違いなく魔物の眉間を、その頭ごと爆砕した。


「すげー威力……」


亀がひっこめた首を、腕力で引きずりだして頭を拳でつぶしながら言う。

魔法とスキルで強化された銃弾。

あのカブトムシの硬い甲殻すら砕くそれが、ロック・アイゼンの戦闘スタイルだ。

他にもライフル銃からマシンガンの様に弾を連射するスキルや、手榴弾グレネードのように炸裂する弾丸を発射するスキルがあるらしい。多彩だった。


「いや、坊主もよくもまぁアイアンリザードなんて素手で倒しやがるな……」


頭をつぶされ絶命した亀をうへー、と顔をしかめ、見ながら機王が言う。

ちょっと引き気味だ。


格闘コレしか戦闘の才能が無いんだよ……」

「その才能をこれでもかって程活かせるんだ。もっと自信もっていいと思うぜ」

「あぁ。レイジは凄いと思う」


迷宮に潜ってからダイモンの評価が、胡散臭い自称聖人から、戦闘は強い男に格上げされたらしい。

強さだけとはいえ、認められるのは素直にうれしかった。


「走ったりすると、俺じゃ見えないくらい速いしな……それでまだ本気じゃないんだろう?」

「んー、そうだな。魔力も併用すれば、もうちょっと早く動けるな」

「凄まじいな……」

「まぁ、吸血鬼ってヤツらはそんなもんだ」

「ふん、わしとやりあって何も出来なかったヤツがよく言うのじゃ」

「いや、お前さんはまた別格だろうよ……」

「え、二人は戦ったことがあるのか?」

「うむ。こやつらがわしの城に攻めて来たことがあっての」

「ちげーよ! 先祖が施したお前さんの封印の様子を確認しに行ったら封印が解けてて、勘違いしたお前に一方的に攻撃されただけだろ!」

「ふん。そもそもわしを封印したのがお主らドワーフなのじゃ。一族根絶やしにされても文句は言えぬのじゃ」

「アリス封印されてたの……?」

「そうなのじゃ。200年ほど前から20年前までの。こやつらが造った変な機械で封印されておったのじゃ。わしを殺すのは無理じゃからな。小賢しい弱小種族の考えそうなことなのじゃ」

「俺としては別に、賢王が封印されてようがされてまいが、どっちでも構わなかったんだよ。ただ、王族に伝わる義務として、その装置の様子を見に行ったら、壊れてたんだ。そんで……襲われて、殺さない代わりに一度命令を聞けって言われたんだよ」

「なるほどなぁ……」


だからアリスは、アイゼンガルドに来るときに、迷宮進入の件は自分に任せろって言ったのか。

王に貸しがあるなら、確かに迷宮進入の許可をとるくらいは容易いだろう。


「そん時に思ったやな。吸血鬼ってやつは俺達とは作りからして違うんだってよ。さすがは龍と並び称される最強種だぜ」

「最強種? そんな風に呼ばれてるのか?」

「ぁん? 坊主は何も知らねぇな。そうだ。南の龍族、北の吸血鬼、ってな。この世界の生物としての頂点がその2種族だ」

「へぇえ。アリス凄かったんだな」

「今更なのじゃ!?」

「いや、強いのは知ってたけど、最強種とかは知らなかったぞ」


賢王なのに語彙力なかったり、ミスで俺を眷属にしたり。

迷宮では魔力が使えなかったりで、ポンコツな部分ばっかり目につくし。


「ふふん。どうじゃ? もう少しわしを敬ってもいいのじゃぞ」


薄い胸を張ってアリスがドヤる。

はいはい、と頭を撫でてやると、むふー、と満足気に鼻を鳴らした。


「……本当にまぁ、よく飼いならされちまって……」


そんなアリスの様子を、機王が痛ましげに見ていた。



――――――



さらに3日後。


機械迷宮、第14層。

ミリィの的確なマッピングと、俺と機王の戦闘力。

そして機王の迷宮に対する知識で、俺たちは着々と迷宮を進んでいた。


「ん……なんだこの反応」

「お兄ちゃんどうしたの?」


俺の頭の上からミリィの声が降ってくる。

俺の『遠見』に、妙な反応がひっかかった。


「魔物とも、人間とも違う……変な反応が先にあるんだ」

「変な反応?」


なあに、それ、とミリィが首をかしげる気配。


「大きさは……俺よりちょっと大きいくらいか。ん、なんか感じたことのある反応だな……?」


いつ、何処でだったか……。


「戦闘になりそうか?」

「まぁ、迷宮のこんな奥で味方にバッタリ出会うってことはないだろうなァ」


ドワーフ二人が肩から銃を降ろし、戦闘態勢を取る。

ミリィも俺の背中から飛び降りて、盾を構えた。


「動いては……いないな。この先って何があるかわかるか?」


ミリィに尋ねる。


「たぶん、そろそろ下への階段なの」

「……じゃあ守護者ってところかな……。戦闘になりそうだ」

「はいなの!」


俺も籠手ガントレットを嵌め、戦闘態勢を取る。

そうして、俺たちはじりじりとした速度で、その先に進んでいった。



そして――


「そうか。あの広間で感じた気配と同じだったのか……!」



――俺の視線の先には、広間で見たあのロボットを、そのまま人間大にしたような……機械の兵士が武器を構えて待っていた。

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