18 迷宮探索Ⅴ
機械の兵士達がその双眸を俺たちに向ける。
どのようにして俺たちを感知しているのか。
温度のない視線がはっきりと俺を貫いた。
「――来るぞ!」
そして、手に持った銃を構える。
彼我の距離は100mほど。
この世界の近代的な銃なら、十分射程距離――!
「おいおい! あんなもん、以前聖人の門に到達したときは居なかったぞ!?」
銃を構えながら、機王が叫ぶ。
「そうなのか!?」
「あァ! この階層を護ってた魔物はロックゴーレムだった筈だ! それも討伐されてる!」
「なんでか守護者が補充されてるってことか……!」
人の迷宮でのミノタウロスを思い出す。
あれも、倒されたはずの階層ボス。
その理由は……。
(俺の存在、か……?)
向けられる銃口から身を逸らし、射線軸から体を逃がす。
全身に魔力を通し、相当な速度で動いてるはずだが、俺に狙いをつけた銃口は、ピタリと俺の体を捉えたままエイムし続けていた。
そして、微かな機械の駆動音を俺の耳が捉え――
「ミリィ! ダイモン! 物陰に隠れろォ!!」
強烈な発火炎と、銃声と共に、都合10本の銃から、一斉に俺に向けて弾丸が放たれた。
ジグザグに走りながら、弾丸の雨の隙間を抜けてゆく。
この世界の銃に弾切れはない。
なぜなら、魔力で再装填を行うからだ。
つまりこの弾丸の雨は際限なく俺に飛来する。
何とか近づかないと……。
最悪、何発か食らってでも……!
『レイジ』
「ッ、なん、だ!?」
『一発も貰うでないぞ』
「どう、して!?」
壁を駆け上がり、機械を蹴りつけ、地面を滑り、時には後ろに大きく飛びずさって。
弾丸を躱し続ける。
『この銃弾、聖銀で出来ておる。急所に貰えば死ぬのじゃ』
「聖銀う!? まじ、かよ!?」
背筋を形容しがたい悪寒が走る。
一発一発が致死の弾丸。それが際限なく降り続ける。
「っちぃ……!」
この弾丸、貫通力はどの程度だ?
何かを壁にすれば防げるのか?
聖銀での攻撃を食らったときの肉体の修復速度はどの程度だ?
籠手では防げるか?
様々な思考が俺の脳内で渦巻く。
体を常に動かし、弾丸を貰わないように走りながら、徐々にだが、敵集団に肉薄していった。
「――つぁッ!」
声を発し、気合を入れながら、先頭の兵士を自身の間合いに捉えた。
「ふっ……!」
短く息を吐きながら、魔力を込めた水面蹴りを放つ。
脚を捉え、その金属で出来た足を一息で蹴り折った。
即座に浮いたその体を蹴り飛ばして、銃弾への壁にする。
放たれた銃弾が次々とその体にぶち当たり、一瞬の間にハチの巣に変えた。
「や――ば!」
抜けて来た弾丸が、俺の顔スレスレを抜けて行く。
貫通力も高いようだ。
地面を蹴りつけて、バックステップで大きく距離をあけ、再び足を止めぬように走り続ける。
魔力の残滓が俺の通ったラインに鈍色の残像を残し、聖銀の弾丸が、その残像を追うように俺に追いすがる。
その時、俺の背後から、ダァン! とひときわ大きい銃声が響き、兵士の一体の頭を吹き飛ばした。
「機王!」
「援護するぜ! ちょっと次までに時間はかかるけどなぁ!」
「助かる……!」
言いながら、崩れ落ちた兵士の足をつかんで、スイングして集団に放り投げた。
即座に移動し、再び俺に照準を合わせる兵士達。
冷静に、冷酷に、俺を殺す為にひたすら銃のトリガーが引かれる。
だが、二体減った。
致死の弾幕に、若干だが隙が産まれる。
その細い線のような隙間を縫って、俺は駆ける。
兵士に肉薄し、魔力を放出する。
銃の間合いの内側に入り込まれた兵士が、すかさず腰から白銀の短剣を抜き放つ。
――だが、遅い。
その白銀が振るわれる前に、俺の掌底が兵士の頭を破壊していた。
消失した首から上に火花を散らし、兵士が崩れ落ちた。
その手から滑り落ちた短剣を蹴り飛ばして、他の兵士へのけん制とする。
一体の肩口に上手い事当たって、深々と短剣が突き刺さった。
「――いくぞォ!」
背後から機王の合図。
その場から飛びずさり、距離を開ける。
直後、肩に短剣が突き刺さったままの兵士の頭が爆散した。
(これで、4……!)
その数を減じ、兵士の数は6体まで減っていた。
ここまでくれば、物量による弾幕もずいぶんと薄くなってきている。
明確な隙間が産まれ、俺はそこに体を捻じ込むようにして、兵士たちに肉薄した。
短剣を抜き放つ兵士達。
逆手に持ったそれを、俺の首筋に向かって振り下ろす。
確かに聖銀による弾幕は脅威だ。
だが、こいつら自身の戦闘能力は、たいして高くない。
隙だらけのその斬撃を、相手の腕に掌底を当てることで逸らし、開いた体に肘撃ちを撃ち込んだ、
兵士の体内で魔力が弾け、その動作を停止させる。
背後から突き出された短剣を、感覚だけで躱し、その伸び切った腕を絡めとった。
体重をかけて引き倒し、頭を踏み潰す。
(これで6!)
そう頭の中で数を数えた瞬間、俺に銃口を向け、今にもトリガーを引かんとしていた奥の兵士の頭が吹き飛んだ。
機王の援護射撃だ。
(7!)
数を数え直して、さらに一歩踏み込む。
勢いを利用した、飛び込むような膝蹴りが兵士の頭をつぶした。
(8!)
地面をブーツで擦りながら着地して、ぐるりと体を回す。
直線上の兵士。その胴体に回し蹴りを叩き込む。
胴体を貫いて貫通した足が、兵士を機能停止に追い込んだ。
(ラストォ!)
上半身と下半身をちぎり飛ばすように足を振るう。
兵士の体が両断されて、火花を散らしながら転がった。
低い姿勢から地面を擦るように足を回し、水面蹴り。
脚を破壊して、その兵士が地面に倒れ伏す前に浮いたままのその体を蹴り上げて、貫手を放つ。
滞空したままの兵士の胸を、俺の貫手が空中に縫い留めて、最後の一体を仕留めた。
「……ふぅ」
腕を引き抜いて残心をきめ、周囲に『遠見』を放つ。
……これ以上敵は居ないみたいだ。
「……終わったみたいだ。機王、援護助かった」
「あァ。……そういえば、ロックでいいぞ」
「ロック? あぁ、名前か。分かった、ロック」
「俺もレイジって呼ぶわな。……しっかし、暴れたなあ」
機械達の残骸を乗り越えながら、皆が近寄ってくる。
「お兄ちゃん、怪我無いなの?」
「大丈夫だ。ありがとう」
「よかったの!」
「……凄まじかったな……」
若干顔色が悪いダイモンが機械達の残骸を見つめて、そう呟いた。
「二人は大丈夫だったか?」
「いくつか流れ弾が飛んできたけど……その子が盾で防いでくれた」
「おぉ、流石ミリィだ。偉かったなぁ」
ぐしぐし、と頭を撫でると、ミリィがえっへんと胸を張った。
「褒められたなの!」
「あぁ、偉いぞ。さすがミリィだ」
「えへへー……」
気持ちよさそうに目を細め、ミリィがふにゃふにゃと笑った。
「一体くらいはサンプルとして取っておきたかったんだがなァ……全部滅茶苦茶に壊しやがって」
機王――ロックが、兵士たちの残骸を興味深そうに拾って眺めながらそう言う。
「仕方ないだろ、余裕なかったんだ……聖銀の弾丸なんて当たったら死んじゃう……」
「ま、少しでも残骸を持って帰れれば何かの役に立つかもな……」
そう言いながら幾つか細かい残骸を自分のバックパックに詰め込んでいくロック。
アレを量産したりするんだろうか……。
「お兄ちゃん、こっちに階段あるよー!」
先を見に行っていたミリィが、こっちに手を振りながらそう言う。
14層の階段。
つまり、聖人の門のある15層へ続く道が、そこに在った。




