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03 再・再臨の駄女神


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

「……はい……機会があれば……」


少年が困ったように頬を掻きながらそう言う。

黒髪に黒い瞳。

優しげな顔の作りからは、ぬぐいきれぬ人の良さを感じる。

一見、何の変哲もない少年に見えるが……その実、彼の周りには途轍もない魔力が漂っていた。


――吸血鬼、この目でそう呼ばれる、化生の類を見るのは初めてだったが……なるほど、我々人間と性能が違うというのは本当のことらしい。


(ほほ……勝てる気は……しませぬなぁ)


頭を下げながらそんなことを考える。

そして、はっとした。

勝てるかどうかなどと……そんなことを考えている自分に。


(なるほど、年老いたとは言え、わたくしもおのこ、と、そういうことですか)


自嘲する。


そして、少年たちが歩いて行った方向にもう一度頭を下げた。


(主の悲願をかなえて頂き、本当に……ありがとうございました)


『平和』

主――レイシア様が幼少の頃より、わたくしによく話して聞かせてくれた言葉。

曰く――「争いなどしなくていいのだ」と。


――「そうしたらフレデリックも、引退して趣味の服屋でも始めたらいいわ。好きなんでしょう? 人を着飾らせるってことが」


いつだったか、レイシア様がわたくしに言った言葉。

まさか、引退した自分が本当にこんなことを始めることになるとは思いもしなかったが……。


主が切に求め、しかし他者には理解されぬその願望。

我が身では成すことの出来なかったその悲願。

既に主の元からは離れた身とはいえ、それが叶った事実が嬉しい。


故にこそ、あの少年に感謝を。


「もー、店長! フレデリックさん!」

「ほほ、どうしましたかな」


店の奥で店員の少女がぷりぷりと怒っている。


「あのドレスとワンピース! 原価で売るなんて信じられないですよもう! 大赤字ですよ!?」

「いえいえ。わたくしなりのお礼ですので……。ここはご容赦を」

「むー……」


むくれる少女を宥め、大通りを振り返る。


「そろそろ乾季ですなぁ」

「ごまかさないでくださいー!!」


じりじりとした太陽が、ザインの石畳を照らしていた。



――――――



夜。

夕飯を済ませた俺達は、テーブルに広げた世界地図を前に、次の方針について話し合っていた。


「そろそろ次の目的地に行こうと思う。ザインですることももうないしな」

「ふむ。そうじゃの」

「わかったなの!」

「えーっと、次はたしか、ドワーフの国、だったか。この地図だと……アイゼンガルド? ってところになるのか?」

「うむ。機械都市と呼ばれておるところじゃ」

「機械都市……」


ちょいちょい耳に挟んではいたが、この世界にも機械という概念……というか、文明は存在するらしい。

しかし、ヘイムガルドを見て回った限りでは、この世界、控えめに言って日本でいう江戸時代程度の文明レベルだ。


(江戸時代……機械……)


ガラガラと、大量のからくり人形が町を闊歩している様を思い浮かべる。

ちょっとしたホラーだ。


「ん、と二人はアイゼンガルドには行ったことあるのか?」

「ミリィはないよ」

「わしはあるのじゃ」

「おぉ。どんなところなんだ?」

「そうじゃの。この国の人間が全部ドワーフに置き換わったような国じゃの」

「……なのに機械都市?」

「ふむ。何と言ったらいいのかの。ドワーフ共は手先が器用での」

「あぁ、そういうイメージはある」


大体創作ではそんな感じだし。

ファンタズマゴリアでも多分に漏れないらしい。


「機械というものを作るのじゃ」

「前から思ってたけど、アリスって物知りかもだけど語彙力ないよね」

「なんじゃと!?」

「で? 機械ってどんなもんなんだ?」

「無礼なレイジには教えてやらんのじゃー」


つーん、とそっぽを向くアリス。


「ごめんごめん。教えて物知りアリス様! よっ、生き字引き! アリペディア!」

「……最後のはよくわからんのじゃが……。まぁ、そこまで言うなら教えてやるのじゃ」


ごほん、と咳ばらいをする。


「そうじゃの。ドワーフ連中は、そもそもの全体数が少ないのじゃ。人間の……そうじゃの、10分の1ほどしかおらんのじゃ」

「へぇ。そうなのか」

「じゃから、労働力や兵力の大半を自動人形オートマタと呼ばれる人形で賄っておる」

「オートマタ……」


おっと、SFっぽい単語が出て来た。


「歯車や金属で出来た人形じゃな。見た目はほとんど人間じゃ。魔力で動く。ただ、単純な命令にしか従えぬし、一度命令を下すと壊れるまで永久に同じことを繰り返す」

「ふむふむ……」


普通に機械だ。魔力を使って動いてることを除けば。


「魂は宿らず、自我も意識もない。ま、わしから言わせればナンセンスな人形じゃの」

「で、機械都市、ってわけか」

「うむ。あとは、そうじゃの……他の国にない特徴としては、戦争では主に銃なるものを使うの」

「銃……ってあの銃か?」

「どの銃かは知らぬが、火薬を炸裂させ弾丸と呼ばれるものを発射する武器じゃ。魔法より発動が早くて、なかなかに便利なものらしいのじゃ」

「俺の知ってる銃と同じだな。なるほど、銃があるのかぁ……」


ちょっとワクワクする。

俺に向けられたりしなければ。


「ん? 銃を知っておるのか? 見たことはないじゃろ?」

「いや、俺の世界にもあった。俺の世界では大分ポピュラーな武器だな」

「ふむ……なるほどの」

「訓練なしで一般人がすぐに使っても戦力になるから、大量生産されるんだよ」

「ほう。お主の世界では銃を使うのに才能はいらぬのか」

「え、こっちだと必要なのか」

「魔力を使うからの。【重火器】という才能があるのじゃ」

「……じゃあ俺使えないじゃん……」


がっかりした。

ガンカタとかやってみたかった……。


「んー、まあアイゼンガルドについてはいいや。問題は、どうやって迷宮探索までこぎつけるか、だよな」

「その辺はわしに任せればいいのじゃ」

「え? アリスがなんとかしてくれるのか?」

「機王……ドワーフの王と昔馴染みでの。……ま、ヤツはわしの頼みは断れぬ」

「ふーん……貸しでもあるのか?」

「そんなところじゃ」

「そっか。じゃあ任せるよ」

「任されたのじゃ」


うむ、と頷くアリス。

と、ここまで話して、ミリィがこくりこくりと船をこいでいることに気が付いた。


「ミリィ、寝るならベッドに行こう」

「んー……? うぅん……?」

「ほら……よいしょ、と……」


ミリィを抱え上げる。

……ん?


「なぁアリス」

「なんじゃ?」

「ミリィ、おっきくなってないか……?」


迷宮でミリィを抱えて走っていたから、気が付いたが……身長が伸びている気がする。

ていうか、いろいろ成長してないか……?

お、主に、その……あれとかそれが。


「前にも言ったのじゃ? 魔族は成長が早いのじゃ」

「早い、って一か月で目に見えて変わるくらい早いのかよ……」


なんてこった。

このままだと美少女が美女に……!?

……まあいいか。ミリィはミリィだ。かわいい妹的なミリィだ。

バインバインになろうとも、俺は邪な感情は持たないぞ。

……多分。


ミリィをベッドに寝かせて、掛布団をかけてやる。

すぅすぅと心地よさそうな寝息を立てている。


「よし……あとは」

「ん? まだ何かあるのじゃ?」

「あぁ。……そうだな、アリスならいいかな?」

「なにがじゃ?」


ん? と首をかしげるアリス。

まぁまぁ、と手で制して、天を見上げる。


「リィン! 見てるんだろ! でてこーい!」


と、天井に向けて叫ぶ。

一瞬の間、の後……光が部屋中に広がる。


「む……」


アリスがまぶしそうに目を細めた。


「はぁーい! 呼ばれて飛び出て! 美少女女神・リィンの参上ですよぉ!」


光が収まると、机の上でなんか変なポーズをとっている駄目な女神が立っていた。

脚を肩幅に開き、片腕を腰に当て、もう片方の手はピースサインを横にして顔の横に。

ぱちん、とウィンクまで決めている。


「死ぬほどウザい!! あと机から降りろ!! 行儀悪いぞ!」

「ひぇ……あ、は、はい! おります! いそいそ……」


俺に叱られて、いそいそと机から降りるリィン。

久々に見たけど相変わらずのようだ。


「はい! 改めて! 呼ばれて飛び出て……」

「改めなくていいから座れ」

「もぉー。こういうのは様式美ですよ? レイジさんはワビサビってやつが分からないお人ですねぇ」

「お前よりは分かるよ。俺はワビサビの国から来たんだ」

「そうなんですか???」

「そうなんだよ」


ふむふむ、と頷いて、リィンがアリスに目を止める。


「あ! どうもです! わたくし、ファンタズマゴリアに連なる第三級女神、輪廻と転生を司る女神リィンと申します!」


わーい、と両腕を上げてアリスに言うリィン。

胸部の二つのメロンがメロンメロンした。

……いや、目は行くよ? 俺、男の子だから。


「……ふむ」


アリスは訝し気に目を細める。


「……レイジ。こやつ、本当に女神リィンなのじゃ?」

「……え?」


アリスが変なことを言い出した。


「なにを言うんですか! ほらほら、見てくださいよ! 女神ですよー? すごい聖の力を感じませんかー!?」

「……確かに、聖力は凄まじいものがあるのじゃ。じゃが……いや」


ま、いいか、と呟いてアリスが立ち上がる。


「ふざけた女神じゃが、礼は失さぬ。我が名はアリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルト。吸血鬼が王にして、そこのレイジの祖じゃ」


俺の買ったドレスのスカートの端をつまみ、優雅に礼をするアリス。


「わわわ、これはご丁寧にどうもです……どもどもです……」


ぺこぺこと日本人っぽい頭の下げ方をするリィン。

……こいつほんとに女神なのか? 俺もなんか不安になって来たぞ……。


「はい! と、いうわけで!」

「どういうわけだ。芸人みたいな話の始め方をするな」

「えへへー。えっと、それで何かご用事ですか?」


何がうれしいのかふにゃふにゃと頬を緩めて、リィンが俺に尋ねる。

そうだった。用事があって呼んだんだった。

こいつ出てくるとボケ倒すからついつい突っ込んでしまうんだよな。

ていうか用事が無ければこいつと積極的に関わり合いになりたくない。


「迷宮の最奥で人族の集合知とかいうのに会った。……何か知ってるか?」

「……ああ」


なるほど、と呟いて、緩い表情を引き締めるリィン。

それでもまだ緩い表情だが。


「えぇ。知っています。……そうですね、そろそろいいかもしれませんね」

「ん、なにがだ?」

「以前お話しできなかったことが、今ならお話しできるかもしれない、ってことです」

「あぁ、禁則事項がどうこう……」

「はい。ええと……長くなってしまうかもしれませんが、構いませんか?」

「あぁ。俺は大丈夫。……アリスも、な?」

「うむ。話すのじゃ。自称女神」

「自称じゃないんですけどぉ……。えっと、解りました。それではお話しします」


まずは――と呟いて、リィンが話し始める。


――なぜ俺がこの世界に呼ばれたのか。その理由を。

すこしお話が進みます。

明日もまた同じ時間に一話投稿です。


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