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02 ザインにて2

日常回です。

人ごみをするすると抜けてスライド移動するセシリアを追って、ザインの街を歩く。


「なんか、今日は人が多くないか?」

「ねー?」


辺りを見回しながら俺が言うと、ミリィがにこにこと同意した。

可愛い奴め。


「レイジ殿、たちが、迷宮を、踏破してからこっち、ザイン以外の街、でも、人々に活気が、増えた、と報告が」


と、こちらを振り返りながらセシリアが言う。


「そうなのか?」

「はい」

「俺はザインに来てからまだ一週間も経ってないからな。なんとなく人が多いかなぁ、くらいしか分からない」

「ザインは、もともと、人が多くて、ごみごみしているので、そんなに変わらない、ですが。エノムや、王都では顕著だと」

「へぇ」


ふむ、と頷く。

つまり、俺のしたことは確実に人々の心に何かをもたらした……と自惚れてもいいのだろうか。


「そろそろ、着きます」

「あ、うん」


セシリアに促されて、先を見る。

ザインの、全体的に雑多とした雰囲気の中にあって、不釣り合いなほど洗練された建物があった。

店先には花壇が設えられ、ショウウィンドウには煌びやかなドレスが陳列されている。

控えめに言って高級店っぽい雰囲気だ。


「……高級店……」

「おねだんは、リーズナブル」


ぶい、と指をこちらに2本立てるセシリア。お茶目ちゃんめ。


「お、俺にはお父さんの給料30年分の金貨がある……!」


自らを鼓舞して、店を見上げる。

そもそも、女性用衣料品店なんて入ったことが無いことに気が付き、足が震えて来た。

なんなら迷宮で白騎士と闘った時よりも怖いかもわからん……。

十七年彼女無どうていを舐めるなと言いたい。


「レイジ、殿?」


どうした? という目で俺を見てくるセシリア。


「いや、行こう……」


ぐ、と拳を握り、扉を開く。

いざ、鎌倉……!!


「いらっしゃいませ」


店に入ると、燕尾服を着た執事っぽい店員さんに深々と頭を下げられた。

おもわず仰け反る。

高級感……!!


「本日のご用命を承ります、フレデリックと申します。ようこそおいでくださいました、キリバ・レイジ様、ミリアルド・ファランティス様、アリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルト様」

「個人情報が駄々洩れている!!!」


おもわず仰け反った。アゲイン。


「レイシア様から皆様のお話は伺っておりますので」


ほっほっ、と笑う執事っぽい店員さん。

ていうかレイリィが事前に連絡入れてくれてたのかよ。

どれだけ気遣いの出来る女なんだ……。


『ん? じゃあわしは出ていっても大丈夫なのじゃ?』

「そうだな……」


回りを見回す。

フレデリックさん以外の人間が居ない……?


「本日は貸し切りとなっておりますので、ご安心を」

「服屋を貸し切り!!」


仰け反った。トライアゲイン。

いや、トライアゲインはちょっと違うな……。


「うむうむ。苦しゅうないのじゃ」


ぴょん、と影から飛び出るアリス。


「ほぅ……」


アリスが現れた途端、す、と目を細めるフレデリックさん。

何かを感じ取ったのだろうか。


「うむ! それではレイジ! わしの服を存分に選ぶのじゃ!」

「え?」

「え? じゃないのじゃ。えーらーぶーのーじゃー」

「ミリィも! ねえ、お兄ちゃん、ミリィも選んでなの!」

「お、おう……」

「キリバ様、男冥利に尽きるというものですな」


ほほ、と笑われる。

笑い事じゃない。


「え、えぇっと……とりあえず、じゃあ……見せてもらおうか!」


慣れてなさ過ぎて謎の上から目線を発揮してしまう。


「では、こちらへどうぞ」


フレデリックさんに先導されて店の奥に。

……あれ? そういえばセシリアがいない。

きょろきょろと辺りを見渡す。


「如何されましたかな?」

「あ、いえ。セシリア……えっと、ここに案内してくれた女の子がいないな、と」

「ほほ。あの子はわたくしが苦手なのですよ。……逃げましたな」

「逃げた……? というか、知り合いなんですか?」

「えぇ。わたくし、この店を開く前はレイシア様の元で隠密をやっておりましたので。……そうですね、セシリアの元上司といったところでしょうか」

「あ……そうなんですか……」


只者ではないのですね……。


「こちらへどうぞ。まずはミリアルド様のお召し物から」


さぁ、と手でしめされた方を見ると、色とりどりの女性用衣類が並んでいた。

どれもこれもがひらひらとしていて、キャピキャピとしていて、ふりふりとしている。


「お、おぉう……」


怖気づくが、気合を入れて一歩前にでて、服を見てみる。


「お兄ちゃん! かわいいの選んでねなの!」

「お、おう、任せておきたまへ……」


思いがけずかけられたプレッシャーに、わけのわからない言葉遣いになってしまう。

戦々恐々と、服に触れて、素材や触り心地なんかを確かめてみる。

……どれも似たような感触だ……。

むむむ、と唸る。

こうなるとデザインで選ぶしかないのか……。

自慢じゃないが、センスなんてものはない。

日本にいたころは動きやすさ重視の服装しかしていなかったし、デザインは姉が選んだものを着ていた。

つまり、経験値は皆無……。

でも、そうだな……ミリィに似合う服……。


「これ、なんてどうだ……?」


白い襟にフリルのついた、ネイビーカラーのワンピースを手に取ってみる。

胸元にブルーのリボンが付いている。

うん、ミリィの髪の毛とよく映えるし、いいと思うんだけど……。


「わぁ。かわいいの! うん、これにする!」


即決。


「え、いや、いいのか? もっと他に……」

「お兄ちゃんがミリィに似合うと思ってくれたんでしょ? ならこれがいいの!」

「あ、あぁ。ミリィの髪の毛によく似合うと思う」

「えへへ……」


わぁい、とぎゅ、と手渡したワンピースを抱きしめるミリィ。

……こんなんでいいのか?


「慧眼ですな。キリバ様」


ふむ、と頷いてフレデリックさんがにこにことしている。

……まぁ、気に入ってもらえたなら何より……だけど。


「おいくら……ですか……!!」


絞り出すようにして、値段を尋ねる。


「金貨2枚でございます」

「やす……いや、高い……!」


お父さんの月給2ヶ月分だった。

所持金との相対で一瞬安く感じてしまった俺が恐ろしい。


「じゃあ、これを一着、お願いします」

「お買い上げありがとうございます」


ミリィから服を受け取り、丁寧に畳むフレデリックさん。


「次はわしのを選ぶのじゃ!」


アリスが横合いから顔を出す。


「お、おぉう……」

「残念じゃが、わしはミリアルドほどチョロくないのじゃ。しっかりと吟味して選ぶのじゃぞ」


むふん、と薄い胸を張るアリス。

ポニーテールがぴょこんと動いた。


「わ、わかった……頑張るよ……」

「アリシア様でしたら……こちらで如何でしょうか」


先ほどとは違い、上品そうな服が並ぶ一角に招かれる。

おぉう……ドレスっぽいのがたくさん並んでる……。

ざっと眺めてみる。

そうだな……アリス、なら……。


「これ……いや、こっちのほうが……?」


ぶつぶつと独り言をつぶやきながら服を見て回る。

だめだ、全部同じに見えてくる……。

アリスを見る、と楽しそうにニヤニヤとしながら俺を見ていた。


「……なんだ?」

「いや、ずいぶんと熱心に選んでくれるのじゃな、と思っての」

「……選べっていったのはアリスだぞ」

「まぁ、そうなのじゃが……。フフフ。いい心がけなのじゃ。たくさん悩んで至高の一着を選ぶのじゃぞ」


何が嬉しいのか、アリスはニコニコと手を後ろに回して俺の後をついてくる。

アリスを見る。

……んー、こいつなんだかんだ美少女だからな……なんでも似合うといえばなんでも似合うんだよな……。

そんなことを考えながら、歩いていると。


「……ん」


目に留まった服が一着。


「これ」


それを取り上げ、アリスに見せる。

デザインはそれほど凝っていない。シンプルだが、上品な印象のドレスだ。

アリスが着たらひざ下くらいに来るであろうふわりと広がったフレアスカートと、腰の部分に飾り布がレースフリルのようについている。色は赤を基調としている。

うん、似合いそう。


「ふむ……なるほど?」


ふむふむ、と頷くアリス。

俺の中でアリスの印象は強烈に赤だ。

だから、これを選んだ……んだけど。


「どうだ……?」

「悪くないのじゃ」

「……そう、か?」


少しホッとする。


「うむうむ。合格なのじゃ。これにするのじゃ」

「よ、よかった……」


どっと疲れた。

戦闘なんかよりもよっぽど疲れるぞこれ……。


「ふ、フレデリック、さん……お値段……は……!」

「こちらは金貨5枚ですな」

「お父さんの月給……!!」


5ヶ月分が飛んだ。

結婚指輪が給料3ヶ月分とかよく聞くから、日本円換算で大体……100……万……!?


「くだ……さい!」

「お買い上げ、誠にありがとうございます」


深々と頭を下げて、俺からドレスを受け取るフレデリックさん。

それも丁寧に畳んで、俺が買った二着を別々の袋に入れてくれる。

それを受け取って、ミリィとアリスにそれぞれ手渡した。


「ほら、まぁ、なんだ。2人とも、いつも有難うな」


すこし照れ臭くてそっぽを向いてしまう。

男のツンデレに需要はない。


「わぁ、ありがとうなの、お兄ちゃん! 大切にきるね!」

「くるしゅうないのじゃー!」

「はいはい……」


ミリィの頭を撫で、アリスにひらひらと手を振る。


「それじゃあ、フレデリックさん。ありがとうございました」


礼を言って、店を出る。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

「……はい……機会があれば……」


そう言って、俺たちは店をあとにした。

フレデリックさんは、俺たちが見えなくなるまでずっと、深く頭を下げていた。


……ていうか、リーズナブルとは一体……?


――――――


大通りに出ると、セシリアがぼーっと立っていた。

俺たちを待っていたのだろうか。

アリスは再び俺の影に潜っている。

時折


『んふふふふふ……』


と不気味な笑い声が脳内に響くが、気にしないことにした。


『ぶ、不気味とはなんじゃ! なんじゃー!』


気にしないことにした。


「ごめん、セシリア、待たせたか?」

「いえ、それほど、でも。いま、来たところ、です」

「この世界にもそのお約束あるの……?」

「?」


かくり、と首をかしげるセシリア。

眠たげな瞳から感情が読み取れない。

……眠いのかな。


「宿、まで、送り、ます」


そういってすすすーと歩いていく。

……帰り道わからないから助かるけど。


――――――


宿に着くころには日はすっかり落ちて、夜の帳が街を包んでいた。


「ありがとう、セシリア。助かったよ」


宿の前でセシリアに礼を言う。


「いえ。それ、では」


それだけ言って、影のように消えるセシリア。

うーん、ニンジャ……。


「よし、じゃあ夕飯にするか。二人とも何が食べたい?」

「オムレツ!」

『オムレツなのじゃ!』

「……ミリィはともかく、アリスは朝食っただろ……コレステロール取り過ぎだぞ……」


なんとなくそう言われるような気はしてたけど……。


なんだかんだで、二人にオムレツを作ってやる俺なのだった。

次回から本格的に二章のスタートです。

明日も同じ時間に一話、更新になります。


気に入っていただけましたら評価やブックマークいただけると大変うれしいです。


また明日。

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